話題
役所広司の初監督CM 作品が描く「俺のバス」への愛と安全への思い
俳優・役所広司さんがバスの運転手役として登場するCMがネットで話題を集めています。このCMの重厚感がどこから来ているのか、考えました。
話題
俳優・役所広司さんがバスの運転手役として登場するCMがネットで話題を集めています。このCMの重厚感がどこから来ているのか、考えました。
俳優・役所広司さんが路線バスの運転手役として登場するローカルCMが「渋くてかっこいい」「気合が入っている」などとネットで話題を集めています。実はこのCM、役所さんが初めて監督を務めた作品。どのような運転手の姿が描かれているのでしょうか。
話題のCMは、長崎市に本社がある路線バス会社「長崎自動車」(長崎バス)が運転手を募集するために制作したものです。今年4月で創立80年を迎える同社。「インパクトがあるCMを作りたい」と考え、地元長崎出身の役所さんにCM監督・主演を依頼しました。
CMは「オープニング」、「南越のふたり」、「神ノ島の人々」の3編立て。30秒のCMが計4本制作されたほか、ウェブ用に60秒のムービーが3本作られました。
その「オープニング」編。
夜明け前の営業所に、役所広司さん扮する運転手「吉村」が登場します。懐中電灯とハンマーを持ち、ホイールのボルトに緩みがないか打音点検。大きなフロントガラスも丁寧に磨いていきます。
この間、背景で流れているのは、連続テレビ小説「マッサン」の楽曲を手がけた富貴晴美さんのピアノの旋律。静かで印象的なBGMです。
前扉からまだ誰もいない車内に入った吉村。後方に向かって立ち、制帽をとります。そして一礼。顔を上げた時、初めて役所さんの声が入ります。
「発車、します」
長崎の白む空の下をゆっくりと走る長崎バス。次のようなナレーションでCMは閉じます。
「名もなき一日を走る、長崎バス」
撮影は昨年11月中に行われました。役所さん自ら県内を回り、ロケ地を決定。町の人との交流を通じ、ストーリーを練り上げました。
「役所さんは黙々と熱心に仕事に向き合っていて、職人気質を感じました」。そう振り返るのは長崎バスの役員・広報室の担当者です。こうも言います。「寡黙でひたむきな姿が、弊社で考えている理想の運転手像と見事に合致しました」
今回の作品に共通して描かれているのは、バスに対してわが子のような愛着を抱いている運転手の姿です。こうした運転手像、誇張されたものとは思えません。その訳は「担当車制」という、同社が採用している制度にあります。
担当車制とは、どの運転手がどのバスを運転するか固定されている仕組みのこと。毎日運転する車両が同じなので、運転手は「自分の車」という意識を強く持つようになります。結果、日々のメンテナンスに力が入り、愛着も増すというわけです。
実は、このような担当車制を採る会社が年々少なくなっているという指摘があります。背景にあるのは経営の合理化や人材難。担当車制では乗務員同士で「効率よくバスを乗り換える」ということをしないので、回送車の割合が高まるなどし、車両の効率的な運用の面では不利。しかも一定数、乗務員が確保されていることが前提になります。業界全体が人手不足にあるなか、担当車制の維持は簡単なことではないようです。
それでもこの制度を採り続けているのはなぜか。
長崎バスの担当者は「運転手のバスに対する思い入れが高まり、日々入念な手入れをすることにつながる。質のよい安全管理体制につながっているので、何十年も前から変わらずこの制度を続けているんです」と話しています。
ウェブ用の60秒ムービー。吉村運転手はこう語ります。「俺のバス」への愛情が言葉ににじみ出ています。
「こいつは世話をすればするほど、よーく走る。お前とは、もうどれくらい走ったかなあ…」
監督・役所広司が描いたもの。それは一般化できるバス運転手の姿ではなく、等身大の「長崎バスの運転手」でした。
◇
CMは1月1日から長崎県内限定で放映中。CM映像とウェブムービーは特設サイトで閲覧できます。
1/15枚