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「僕の才能は息子が見つけてくれた」ダンボールアートを続ける会社員
始まりは「ザク」のかぶり物でした

会社員を続けながら、ダンボールアートに打ち込む男性がいます。SNSで作品やメイキング動画を紹介したり、各地で展示会やワークショップを開いたり、作品集を出版したり。TVチャンピオン3「ダンボールアート王選手権」では頂点に輝きました。活躍の場は広がっていますが、それでもアーティストと会社員の〝二刀流〟を続ける理由とは?
ダンボールをアルコールで湿らせ、こねることで曲面やディティールを表現する。埼玉県に住むオダカマサキさん(48)は、独特の技法で造形を追求するダンボールアーティストです。
ドラゴンや尾長鶏、ぬらりひょんなど、リアルで緻密な作品を作っています。
アーティスト活動を続ける一方、昼間の顔は東京都内にある通信機器メーカーの管理職。作品づくりは、帰宅後や休日が中心です。
ダンボールアートを始めたのは2015年。「僕の才能は息子が発見してくれたもの」とオダカさんは話します。
当時引っ越した後で家にダンボールがあり、幼稚園児だった次男と工作をして遊んだことがきっかけでした。
「ハサミで切れるし、のりで貼れる。加工しやすくて遊ぶ材料としてはちょうどよかったんです。最初は切ったり丸めたり剣のようなものにしたりして楽しむ程度でした」
オダカさんはもともとプラモデルなどものづくりが大好きで、高校・専門学校でデザインを専攻していました。「息子にいいところを見せたい」と、あるときダンボールで「ガンダムシリーズ」に登場する「ザク」のかぶり物を作ったそうです。
それを見た次男は大喜び。「ザク」をかぶって近所を歩いたり、プラモデル店に見せにいったり、オダカさんが今までに見たことがないほど楽しんでいました。
その後も次男からは、休みのたびに「何か作って」とリクエストが。オダカさんは、「どうやって息子を喜ばせようか考え、画材を買いにいったり、試作してみたり、毎日時間があれば作業していました」と振り返ります。
大きな転機となったのは、幼稚園のハロウィーンイベントでした。前日、夜8時過ぎに帰ってきたオダカさんに、次男から「明日ドラゴンをかぶって行きたい」と急な〝依頼〟がありました。
「パパ疲れてるから、ごめんなさいしていい?」と聞くオダカさんに、次男は「パパはいつもやる前から諦めちゃダメだっていうのに、パパは諦めていいの?」と伝えたそうです。
オダカさんの心に火がつき、徹夜でドラゴンを仕上げました。次男は大満足でかぶっていったといいます。
その後、「せっかく作ったから」と作品をSNSに投稿するようになり、多くの反響を受けて2017年ごろからアーティスト活動を始めました。
最近は、ダンボールアーティストとして活躍の場が広がってきましたが、オダカさんは会社員との「兼業」を続けるオダカさん。
独立して「専業」になるアーティストも多いなか、「僕の強みの半分くらいは『会社員であること』です」と話します。
会社員を続ける理由には経済的な事情もありますが、仕事での経験は作家活動にも生きているといいます。
「商談が得意で、交渉は大好きです。以前、会社で数億円を背負ったプレゼンを経験しましたが、それに比べたら自分の活動での交渉は身軽。契約書も読めるので会社員のスキルはとても役に立っているんです」
会社員を続けるなかで培ってきた「テキストにまとめるスキル」は、著書で自身の技術を言語化する際に役立ちました。
オダカさんは兼業のため、平日の創作時間は短くなるものの、作品にかける時間が必ずしもクオリティーの高さにつながるわけではないと言います。
「僕は根がデザイナーなので、クライアントの予算や納期など要望に対して応えることが前提です」
「例えば、テレビ局の仕事で『納期3日』という依頼がありました。3日しかないなかでどうパフォーマンスを発揮できるか。3日では完全立体造形はできないため半立体にし、クオリティーは下げずに工夫させてくださいとこちらからご提案します。いろんな提案ができるのも僕の強みです」
オダカさんは、会社員とアーティストの〝二刀流〟に楽しさも感じています。
「どちらかに絞る理由もありませんし、会社員を辞めないと成功できない道でもないと思うんです」
会社では後輩の育成をしているオダカさんですが、ダンボールアーティストとしても次世代を意識した活動をしています。
願っているのは、「多くの子どもたちにダンボールアートをまねしてほしい」ということ。だからこそ、SNSや著書では作り方や道具をオープンにしています。
「工作の楽しさを子どもたちに伝え、ノウハウを次の世代に渡していくにはどうしたらいいかを考えています」
子どもたちにまねしてほしいというオダカさんですが、それは「余裕」の裏返しでもあります。
同じ道具を使い、同じように作ったとしても、簡単に手の届く世界ではないーー。「子どもたちには倒す相手が必要」として、オダカさんはまだまだ「高み」を目指します。「子どもたちが見て、『おぉー!』と思うレベルの作品を作り続けたいです」
オダカさんにとって、ダンボールアートは「子どもたちへのメッセージングであり、コミュニケーションツール」。引き続き、ダンボールの世界を極めていくと話しています。
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