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「『火垂るの墓』に涙するなら…」 行動始めた海外の視聴者たち

「火垂るの墓」のラストシーンを見て涙を流すエストニア人のアンドリュー・オウンさん=本人提供
「火垂るの墓」のラストシーンを見て涙を流すエストニア人のアンドリュー・オウンさん=本人提供

目次

全世界でのネット配信解禁で注目を集め続けるジブリアニメ「火垂るの墓」。「昭和20年9月21日夜、僕は死んだ」という冒頭のセリフの通り、終戦後の神戸で、孤児の清太は妹の節子とともに防空壕で暮らそうとしますが、悲惨な最期を迎えます。戦火に翻弄された兄妹の描写に、世界の戦地の状況を重ねている人々は少なくありません。海外の視聴者たちの思いを聞きました。

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「この子たちが何をしたっていうんだ?」

「なんで一般市民を攻撃してるんだ?この子たちが何をしたっていうんだ?」

アメリカ在住の動画配信者、ジェイク・ハーヴィーさん(29)は、今年8月上旬、米軍機が兄妹が住む神戸の街を空爆するシーンを見ながら顔をしかめました。

YouTubeの「リアクション動画」のため、作品鑑賞中の様子を撮っていた時のことです。

脳裏にあったのは、ガザやウクライナをはじめとする今の戦地。「どの戦争でも、いつも犠牲になるのは何の罪もない人々。胸が痛みました」

「火垂るの墓」の描写に驚くジェイク・ハーヴィーさん=動画編集者のクラモトリョウさん提供
「火垂るの墓」の描写に驚くジェイク・ハーヴィーさん=動画編集者のクラモトリョウさん提供

戦時中の日本への理解を深めたいと、昨年1月に旅行で広島を訪れました。広島平和記念資料館では、石段に人が腰掛けていた部分が黒く残った「人影の石」を前に、ショックを受けたそうです。

今夏、火垂るの墓が注目を集めていると日本人の友人から聞き、リアクション動画を撮ることにしました。日本アニメのリアクション動画などを投稿しているYouTubeチャンネル「じぇじぇジェイク!!」で、動画を日本語字幕つきで投稿すると、多くの視聴者からコメントが届きました。

「作品を見て、戦争に良いも悪いもないのだと、改めて思いました。『原爆投下や空爆は正義だ』という意見には賛成できない。同じように、ガザやウクライナでの民間人への爆撃も正当化できるはずがありません」

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第2次世界大戦中から半世紀にわたって旧ソビエト連邦(今のロシア)に占領され、強制移住や強制労働の苦難を受けてきたエストニアにも、今の戦地に思いを巡らせる配信者がいます。

この春に初めて視聴したエストニア在住のアンドリュー・オウンさん(24)。「空襲で親を失い、周りから見捨てられ、飢餓に苦しみながら息絶える。清太と節子は、今まさにウクライナやガザで苦しんでいる子どもたちだと感じました」と語ります。

旧ソ連による占領下、労働力確保のために多くのエストニア人が強制的に移住させられ、家族と泣き別れになったと聞いて育ちました。

「戦争をテーマにした映画は、私の国では、戦争がいかに崇高で軍人が英雄的かを強調しがちですが、この作品はまったく違います。戦争を美化せず、庶民が犠牲になる様子を静かに描き出していました。エストニアの庶民も同じだったはずです」

「火垂るの墓」を見て涙を流すエストニア人のアンドリュー・オウンさん=本人提供
「火垂るの墓」を見て涙を流すエストニア人のアンドリュー・オウンさん=本人提供

無数の悲惨な動画で感覚が麻痺

世界配信が始まった昨秋以降、「火垂るの墓」の英語圏のレビューサイトなどでも、ガザやウクライナなどの戦地に触れたコメントが相次いでいます。

《3Dゲームのような感覚の爆撃。ウクライナやガザの人々が今どのような苦境に置かれているかが分かる。そして、戦争は、激しい怒りだけでなく、静かな悲しみももたらすのです》(映画レビューサイト「IMDb」の投稿、2024年9月18日)

《飢えや恐怖に直面しながらも生きようともがいた清太と節子。今まさに苦しんでいるガザの子どもたちのことが思い浮かび、涙を流さずにはいられませんでした。今でも、世界は罪のない子どもたちを戦火に巻き込み、放置しています。あってはならないことです》(「IMDb」の投稿、2025年6月20日)

《節子の顔に浮かぶ恐怖、飢餓、混乱は、ガザやシリア、スーダンの子どもたちが直面させられているものと同じです。私はつい最近まで、助けを求めるパレスチナ人の無数の映像をスクロールし続け、ついには共感する感覚が麻痺してしまっていました。しかし、この作品は、見る者の感情を呼び覚まします》(文章投稿サイト「Medium」の投稿、2025年6月29日)

「火垂るの墓」に涙を流すあなたへ

そうした海外での反響の波は、日本にも広がっています。

《「火垂るの墓」に涙を流すあなたは、この世界の現実に目を背けるのですか?》

パレスチナ自治区ガザでのイスラエルの軍事行動に抗議するデモ集会が開かれた渋谷のハチ公前広場。こんな訴えが8月3日日曜日、あの兄妹のイラストとともに掲げられました。

《「火垂るの墓」に涙を流すあなたは、この世界の現実に目を背けるのですか?》。パレスチナ自治区ガザに連帯する集会で、プラカードを掲げる参加者=2025年8月3日、東京都渋谷区、さくらさん提供
《「火垂るの墓」に涙を流すあなたは、この世界の現実に目を背けるのですか?》。パレスチナ自治区ガザに連帯する集会で、プラカードを掲げる参加者=2025年8月3日、東京都渋谷区、さくらさん提供

同様のプラカードをつくり、掲げたイギリス人で会社員のライアン・ジョンソンさん(29)は「『ガザにも清太と節子がいるんだ』と、実感するきっかけがつくれたら」という思いを込めたといいます。

半年前にロンドンから来日した時は、日英の温度差に驚いたそうです。「ロンドンではボイコットやSNS発信が日常的にあり、街中でも職場でも日常会話としてガザのことを話していました。日本では話題にすら上がらないので、不思議でした」

デモに参加していた神奈川在住の日本人写真家さくらさん(Instagram:@sucklaver)は、このメッセージに共感して声をかけ、撮影しました。

「火垂るの墓の人気はすごい勢いですが、パレスチナへの関心度はどんどん低くなっているように感じます。作品への反響と同じくらい、パレスチナ連帯の声が盛り上がってほしいという思いがありました」

火垂るの墓が日本テレビ系「金曜ロードショー」で7年ぶりに地上波で放送された「終戦の日」の8月15日。プラカードの写真をInstagramに投稿すると、共感が広がり、8000を超える「いいね」がつきました。

高畑勲監督
高畑勲監督
9歳のころに岡山空襲を経験した高畑勲監督(1935~2018年)自身も生前、中東地域をはじめとする不安定な国際情勢に強い関心を寄せていました。

長男で会社員の耕介さんは、取材に「父は、強者の大きな声に流されやすい性質が日本に根強くあることを懸念していました。ガザなど紛争地ではイスラエルやアメリカなど強者の論理がまかり通ってしまい、日本も事実上、長いものに巻かれた状態なのを、私も残念に思います」と話します。

高畑監督は、10年前の朝日新聞のインタビューで、火垂るの墓に関連づける形でガザのことに触れています。
「人間を生きていく」っていうことは、やっぱり素晴らしいことなんじゃないかと思うんですよね。それを壊しにかかるようなものは本当に反対だし、そのうちの第一番目が戦争だと思いますよね。それは今(2015年当時)も続いているわけです。イスラエルがやっているパレスチナ自治区ガザの爆撃とか。そういう状況下での生活は、日常の楽しみそのものまで奪い取られてしまうわけで、戦争というのはほんとに嫌な、やってはいけないことだと、つくづく思いますね。
【高畑監督インタビュー】「見た人はそこに怯えてほしい」火垂るの墓、意地悪なおばさんの真実

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