音楽活動やバラエティー、テレビCMなど、見ない日はないほど活躍する歌手でミュージシャンの“あの”ちゃん。なぜ彼女は時代の寵児となったのか。話題となった『水曜日のダウンタウン』企画で飛び出した“赤LARK”のパワーワード以前も含めたこれまでの活動や出演番組を振り返りながら、あのが放つ唯一無二の魅力を考える。(ライター・鈴木旭)
アニメ映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(ギャガ)でYOASOBIの幾田りらとダブル主演を務め、「P&Gジャパン」「日本マクドナルド」「アマノ」のテレビCMで独特の存在感を示すなど、昨年にも増して活躍が目立つ“あの”ちゃん。
テレビアニメ『チェンソーマン』のエンディング・テーマとして制作された“ano”名義の3rdシングル『ちゅ、多様性。』は、配信1カ月でストリーミング、MVともに1000万再生を突破し、TikTokでも1億再生を超える大ヒットを記録。MVで披露した“ゲロチューダンス”が話題を呼び、昨年は『NHK紅白歌合戦』に初出場を果たした。
バラエティーでは『あのちゃんの電電電波♪』(テレビ東京系)、『ウマウマ! 〜アノミズキのビギナー育成TV〜』(フジテレビ系)といったレギュラー番組を抱えつつ、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)、『あちこちオードリー』(テレビ東京系)、『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)など各局の人気番組にも顔を出す売れっ子だ。
加えて、昨年4月からは『あののオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)がスタート。霜降り明星、本田翼、ベッキー、尾崎世界観、銀杏BOYZ・峯田和伸、東野幸治ら様々なタイプのゲストを招き、長尺のトークでリスナーを楽しませている。
なぜ彼女は、時代の寵児となったのか。あの自身や共演者の発言から、その魅力を考えてみたい。
筆者が最初にあのを知ったのは、2016年に放送された『ゴッドタン』(テレビ東京系)の企画「このアイドル知ってんのか」だった。
アイドルグループ「ゆるめるモ!」の代表として登場したあのは、BGMが流れた途端にマイクを握って絶叫し、おぎやはぎと劇団ひとりが座る長机へとダイブ。一見キュートでおとなしそうなキャラクターが豹変し、過激なライブパフォーマンスを見せるアイドルとして強烈なインパクトを残した。
その後、バラエティーで活躍する布石を作ったのは、何と言っても南海キャンディーズ・山里亮太によるところが大きいだろう。2010年代の山里は、AKB48やももいろクローバーZらアイドルグループとの絡みが多く、イベントの盛り上げ役として各々のファンから認知されていた。
山里自身は「アイドル寄生虫」と自虐しネタにしていたが、裏を返せばバラエティーでの振る舞いを示す教育係のような存在だ。そんな山里とあのが共演したのは、2017年~2020年(同年4月4日からタイトルを改題し昼に移行。2021年3月放送終了)に放送された『深夜に発見!新shock感 〜一度おためしください〜』(テレビ東京系)だった。
「アイドル戦国時代」と呼ばれた2010年代、元気で天真爛漫、突飛な発言で笑わせる天然少女、心の闇を感じさせるヤンデレなどアイドルキャラは多様化していた。そんな中でも、司会の山里に話題を振られ、あどけない口調でぶっきらぼうに二言三言だけ返すあのは特異な存在だった。
クセのあるキャラを作って前に出るわけでもなく、うまくバラエティーで立ち回ろうと動くわけでもない。その半面、無理して周囲に同調することはせず、どんな空気になろうが思ったことはストレートに発言する。この危うさが、予定調和ではない不思議な面白さを生んでいた。
とはいえ、不慣れなバラエティーでよく山里から怒られたそうだ。今年5月25日に放送された『勝手にテレ東批評』(テレビ東京系)の中で、あのは当時をこう振り返っている。
「山里との番組のときは、企業の方とかいても目の前で『まずい』とか『ゲロみたいな味する』って言ってたから。(中略)めちゃくちゃ怒られました。関係者がいっぱいいる前で『やめろ!』って(笑)」
もちろん山里からすれば、あのを評価しているがゆえの愛あるツッコミだ。今年6月26日放送の音楽特番『テレ東ミュージックフェス2024夏 ~昭和の常識は・・・令和の非常識!ヤバい昭和の超名曲 vs 令和ヒット曲100連発~』(テレビ東京系)でも2人はMCとして共演している。
たびたびあのが「(筆者注:山里が)本当に嫌い」と口にするのは、良好な関係性があってのことだろう。
直近のあのを語るうえで外せないのが、昨年4月から『あのちゃんの電電電波♪』で共演している霜降り明星・粗品の存在だ。
同番組では、あのがMCを、粗品が飼い猫・ササキの声で進行・アシスタントを担当。トークやゲームを中心とする自由でまったりとした空間は、PUFFYの2人とゲストがゆるいトークを繰り広げて人気となった『パパパパPUFFY』(テレビ朝日系・1997年~2002年終了)を想起させる。
ただ、これまでの音楽トークバラエティーと違うのは、あのだけでなく猫のササキまで奔放な発言でゲストを翻弄する点だろう。例えばCreepy Nutsをゲストに迎えた今年3月の放送回でTikTokライブの企画を実施したシーン。
ササキが「もう勝ったと思うアーティストは?」という視聴者からの質問をピックアップすると、DJ松永が「巻き込もうとしてるだろ」と疑いの目を向ける。その後、松永が「勝負とかじゃない」、R-指定が「勝者も敗者もない世界」とはぐらかすと、あのは「どんどん言葉出てくる」とその頭の回転の速さに感嘆するも、ササキは「嘘がつらつら」と逃さない。
後半で再びササキが「昨今の芸能界」について水を向けると、Creepy Nutsの2人は「いい感じだよな」「誰も不幸じゃない」「人の意見を聞く人ばっかり」と知らぬ顔。ゲストが去った終了間際の「あのちゃんのひとりごと」のコーナーで、ササキが「すごい回避能力」、あのが「ぜんぜん引っ掛かんなかった」と振り返っていたのが印象深い。
この“ゆるさ”の中にはらむ“スリリングな悪意”こそ、多くのミュージシャンが「番組に出たい」と口にする所以ではないだろうか。
昨年5月にはYouTubeチャンネル『動画、はじめてみました【テレビ朝日公式】』内の「あのちゃんねる」で共演。息の合ったトークが評判を呼び、動画の1つは現時点で662万回という驚異的な再生回数を記録している。いつからか2人は“そしあの”と呼ばれ、高い注目度を誇るコンビとして認知されるようになった。
とくにここ最近は、各々のYouTubeチャンネル、粗品の音楽ライブツアー『星彩と大義のアリア』(あのは自身のバンド「I's」のメンバーとして出演)、都内で開催された『Fender Flagship Tokyo 1日店長就任式』にそろって出席するなど共演が目立った。
その1つである『あののオールナイトニッポン0(ZERO)』では、ゲストの粗品があのの楽曲やライブパフォーマンスを絶賛し、まるで同志を鼓舞するようにこう発言している。
「こんなせこくない有名人おらんねんから。せこいやつばっかりや、今芸能人。あいつはキショい手使って売れて、あいつはあんなん言って売れて。(中略)お前はそれやってないのがすごい。で、一般人も関係者のみなさんもよく聞いてくださいよ。あんまりあのをなめるなよ。だませると思うなよ、あのを。全部わかってるぞ、こいつは」
アイドルとしてキャリアをスタートさせ、モデル、俳優、歌手、ミュージシャン、バラエティータレントと活動の幅を広げていったあの。その原点は、鬱屈とした学生生活からの脱出にあったようだ。
「やっぱ学校行けてなかったので引きこもりでやることがなくて。『ずっと同じ天井見てるだけじゃ嫌だなぁ』っていうので、なんか危機感で唯一バンド音楽好きだなと思って、そこに足突っ込んだらぜんぜん違うアイドルだったって感じ」<今年6月19日放送の『これ余談なんですけど・・・』(ABCテレビ)の発言より>
「ゆるめるモ!」は結成されて間もないグループだったが、だからこそ「そこに入って思いっきり変えられる」と可能性を感じた。
知名度を上げたのは、2015年の秋ごろ。ローカルアイドルだった橋本環奈がイベント中に踊る1枚の写真によって「千年に1人の逸材」「リアル天使」と脚光を浴びたように、マイク片手に舌を出し猟奇的な目をしたあのの写真が「橋本環奈が天使なら、彼女は悪魔だ!」とネット上でバズった。
唯一無二の個性でグループをけん引したが、2019年9月に脱退。2022年11月、自身のインスタグラム(ストーリーズ)の中で「期待や頼ってもらうことばかりでどんどん気持ちは追い込まれていって結果的に破滅した」と当時の思いをつづっている。
そもそも、あのは「有名になりたい」と芸能界入りしたわけではない。そんな彼女がなぜバラエティーの露出を増やしていったのか。
今年5月29日深夜に放送された『あのちゃんねる』(テレビ朝日系)の「スナックあの~ニューヨーク×ウエストランド井口~」の中で、あのは「あのとき(筆者注:『新shock感』に出演していた時期)はテレビ出たくなくて。『何でここにいるんだろう、早く帰りたい』しか思ってなくて」と語ったうえでこう続けた。
「別に『暇だしいいや』ぐらいで出てたら、アンチがなんか、僕が真新しくて『何でこんなにしゃべれねぇんだよ』みたいに言われてムカついて。なんかひっくり返したくなったというか。『なめんなよ』って思ったし、ファンの子が、僕が僕のままテレビ出たりとかでいろんな人に知ってもらったら誇り持てるかなぁって」
2021年10月放送の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の企画「『ラヴィット!』の女性ゲストを大喜利芸人軍団が遠隔操作すれば、レギュラーメンバーより笑い取れる説」で、「ほぐした赤LARK」などのパワーワードでお茶の間を沸かせたことは記憶に新しいが、このようにあのはひと癖ある企画でも爪痕を残し、幅広い世代に認知されていった。
前述の『勝手にテレ東批評』の中で、彼女は売れっ子となった現在でも「自分が思ったタイミングで、いつか全部やめたいかなって。だって向いてないもん、僕。(筆者注:テレビが)向いてはないって今でも自覚あります」と語っている。切り拓いてきた自分自身のキャリアにさえ執着はなく、興味やモチベーションを失った時点であっさりと手放すつもりなのだろう。
この刹那的な生き方が、見る者を惹きつけるのかもしれない。同番組であのは「コントとかは自分が手出しちゃいけなさそうだからこそやってみたい」と口にしていた。今後も、周囲の予想を裏切るような彼女の活躍ぶりに期待したいところだ。