ネットの話題
「タニタ辞めて千人を笑顔に」 あれから4年、まだ3人ぐらいだけど
先日、親会社のタニタを動かした出来事がありました
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先日、親会社のタニタを動かした出来事がありました
タニタが2019年8月に立ち上げた新会社「thousandsmiles」(サウザンスマイルズ)。タニタ本社兼務の人も含めて数人という体制で、視覚に障害がある人もそうでない人も楽しめるウェブサイトを運営しています。社名には「1000人を笑顔にする」という思いが込められていますが、「まだ3人ぐらいですね」と話す代表の須永恵理さん(36)。そんな会社が先日、親会社のタニタを動かした出来事がありました。
2022年9月にオープンしたウェブサイト「thousandsmiles」。
音声読み上げソフトの中でもユーザーの多い「PC Talker」や「NVDA」、iPhoneの「VoiceOver」に対応したサイトです。
読み上げソフトを使うと、豊富を「とよとみ」、筋トレを「すじとれ」などと誤読してしまうことがありますが、そういった誤読を減らす工夫が施されています。
開発にあたって、視覚に障害がある当事者たちに聞き取りを実施。
「障害に関する話ではなく、ネタとしておもしろいものを読みたい」
そんな声が多く、目が見えている自分たちが当たり前のように得ている情報を届ける重要性を実感。
「視覚に障害がある人も、そうでない人も楽しめる」をコンセプトに、記事を配信しています。
きっかけの一つとして、須永さん自身の目の病も関係しています。
2019年春、タニタで広報担当の社員として働いていたころ、片目が真っ赤に充血していたため病院を受診。
緑内障と診断され、右目の半分と左目の一部で視野が欠けていることがわかりました。
まったく自覚はなく、少しずつ欠けていくこともあって気づきにくかったようです。
「今からできることは進行を遅らせるための治療しかない」
そう言われて「もう、広報の仕事続けられないかも」と不安に。
「目が見えなくてできる仕事ってなんだろう?」
「そもそも見えなくなったらどうやって情報を得るんだろう?」
必死になって調べたことや、そのときの経験をもとにウェブサイトの立ち上げを提案し、タニタを辞めて新会社の代表になりました。
しっかり計画を立ててスタートしたものの、取材や執筆、編集は自転車操業。
当初は1日1本だった配信も、現在は2日に1本ほどのペースになっています。
ネタ選びから誤読しにくい表記の仕方まで、通常の記事作りとは異なる点が多く、外注しにくい現状もあります。
さらに、力を入れた「読んでもらいたい記事」の数字が伸びなかったり、ノリと勢いで書いたブログ風の記事が読まれたり。
「この書き方でちゃんと伝わってる?」と悩み、「リーダーとして的確に指示を出せている?」と不安になったことも。
出口の見当もつかないままトンネルを掘り進んでいるような感覚になったそうです。
「自分がしっかりしなくちゃ」と思うあまり、誰にも相談できない状態に。
そんな時に支えになったのが、記事制作に協力してくれている白鳥環さんの言葉でした。
「今はしんどいだろうけど、きっと何事もなかったかのように笑ってると思うよ」
アスリートのメディカルトレーナーとして活躍していた2021年に、視力のほとんどを失った白鳥さん。
落ち込んでいる須永さんにかけてくれたのが、先ほどの言葉でした。
また、こんな言葉をかけてもらったこともあったそうです。
「須永さんの目は、自分だけの目じゃないんだから」
取材を通じて自分の方こそ助けられたし、サイトの価値を感じたからこそ続けて欲しい、というエールでした。
再び前を向き始めたころ、偶然見つけたのが総務省の「情報アクセシビリティ好事例2023」の募集。
「アクセシビリティ」という単語で検索して見つけたもので、thousandsmilesで応募することにしました。
審査項目は、情報にアクセスしやすいように配慮されているか、当事者ニーズを踏まえて開発されているか、といった点。
サイトの良さをアピールすべく、必死に資料を作って提出。
4月に選定結果の発表があり、有名企業と並んで見事に選ばれました。
審査委員による講評欄には、こんな言葉が並んでいます。
「記事本文に簡単にアクセスでき、画面の構成が分かりやすい」
「視覚障害者、晴眼者の両方への情報提供サイトとして立ち上げており、今後記事作成の協力を当事者に依頼する等、当事者視点での情報提供に積極的である」
そして、選ばれたこと以上にうれしい出来事がありました。
選定結果をプレスリリースしようとした際、親会社のタニタから「thousandsmilesとタニタの連名で出しましょう」と提案があったのです。
連名のプレスリリースには、こんな一文があります。
「今回のサウザンスマイルズの『情報アクセシビリティ好事例2023』での選定を機に、親会社である株式会社タニタのウェブサイトも、より多くの人にとって使いやすいものとなるよう、順次アクセシビリティ対応をすすめていきます」
ここで言及したのはウェブサイトのみですが、製品に関しても誰でも使いやすいものにするべく、話し合いが進んでいるそうです。
「お金の面ではほとんど貢献できていませんが、『私たちもできることがあるんだ』と自信につながりました」と須永さん。
サイトの原稿作成で培った誤読が少ない文章の書き方を提案したり、視覚障害当事者へのヒアリングや会話の中で得た声をタニタの商品開発に活かしたり。
自分たちだけでなくタニタも巻き込むことで、「1000人を笑顔にする」という目標が近づいてきたと感じています。
「今のところ笑顔にできたのは、白鳥さんも含めて3人ぐらいしか思い浮かびません。でも、1年半前にひっそりはじめた活動がだんだん大きくなっていることが、何よりうれしいです」
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