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連載

#81 「きょうも回してる?」

完売続出…〝マタギ〟のガチャ 「ポテンシャルに気づいてなかった」

秋田に取材へ。5種類それぞれに年齢、性格を設定

完売続く「マタギ」
完売続く「マタギ」

目次

SNSでも話題になり、販売店舗でも完売が続いているという、ガチャガチャメーカー・タマキューの「マタギ」。でもなぜ、狩猟を生業とする「マタギ」をガチャガチャに? ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。

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ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」

狩猟を生業とする「マタギ」

ガチャガチャは他の玩具と違い、「なぜ作ってしまったのか」や「くだらない」と思わせるような、自由度が高い商品が多くあります。

今回は、私が「なぜ作ってしまったのか」という強い気持ちに駆られたガチャガチャを紹介します。それは1月末に発売されたタマキューの「マタギ」です。マタギとは、古来より山深くに分け入ってクマなどの狩猟を生業にしていた人を指します。それをタマキューはガチャガチャにしてしまった。

タマキューと言えば、統括プロデューサーの成田耕祐さんが立ち上げた、「バカじゃないの」や「くだらない」と言われることに誰よりも本気でかつ真剣に取り組むメーカーです。

マタギは、企画・デザインをマルチクリエイティブ会社のザリガニワークス武笠太郎さんと坂本嘉種さんが担当し、原型制作は福元徳宝さんが手掛けました。

ザリガニワークス武笠太郎さん(左)と坂本嘉種さん=同社提供
ザリガニワークス武笠太郎さん(左)と坂本嘉種さん=同社提供

開発2年「マタギだ!マタギは面白い」

数ある企画のなかで、マタギの商品化を決定した理由を尋ねると、成田さんは「題材が生半可な知識や興味では向き合えないものですが、ザリガニワークスの武笠さんがほとんどマタギみたいな生活していますし、坂本さんは見た目がマタギっぽいので(笑) 、そのお二人からご提案いただいた企画には信念があると感じました。私としても覚悟して商品化を決めました」。

「ただ、原価の高さに眩暈がしました。今もなお眩暈はしています」と教えてくれました。

成田さんが覚悟を決めたマタギは、タマキュー4周年企画で進められ、開発まで2年以上かけられたガチャガチャです。

武笠さんと坂本さんは毎月タマキューの会議に参加して商品提案しています。そこでは当然売れる商品を考えなくてはいけません。

あらゆる企画のなかで動物系の商品が売れる傾向があり、可愛い動物や日常×動物はコレクション性が高く市場に受け入れられていると分析したそうです。そこで、武笠さんは「動物系の商品の発想を逆転させ、動物を狩る商品を作ったら面白いのではないか。すでに動物系の商品は出回っていることを考えると、動物を狩る人を作り、それをデスクトップに飾れば、そこに急に緊張感が生まれる。動物を狩る人と言えば、当然、マタギだ!マタギは面白い」と話してくれました。

「マタギ」
「マタギ」

秋田まで取材、メイキング動画も制作

マタギの商品化が決まり、文献など調べ ていくうちに、坂本さんは「これはマタギに対して、生半可な気持ちじゃだめだ。取材が必要だ」と思い、成田さんに「マタギの取材をさせてもらおう」と 打診をしました。その結果、マタギの取材が決まり、武笠さんと坂本さん、福元さんの3人で秋田県阿仁地方まで取材に行ったのです。わざわざガチャガチャを作るために、取材をOKした成田さんの気合を感じました。

またガチャガチャ業界では考えられませんが、タマキューはその取材のメイキング動画(YouTube)まで作ってしまいました。その動画を拝見しましたが、まるでTVの旅番組のようにクオリティーの高い仕上がりで思わず笑ってしまいます。

取材では、武笠さんたちはマタギ資料館を訪れたほか、現役の阿仁マタギの鈴木英雄さんにお話を聞いたそうです。取材を通じて、坂本さんはマタギの道具や毛皮などのデティールなど分かったことが多くあり、「マタギについて、漠然とした厳しいイメージでしたが、取材したことで暮らしに根付いたものや、命と自然と向き合って暮らしている人間の姿を見ることができて良かった」と真面目にコメントしてくれました。

マタギの「シロビレ(猟銃)構え」
マタギの「シロビレ(猟銃)構え」

5種類それぞれ、年齢や性格の違いを設定

本気の取材を行った結果、誕生したのは、マタギのシカリ(リーダー)、シロビレ(猟銃)、シロビレ(猟銃)構え、タテ構え、解体(マタギ犬付属)の5種類のポーズ。

手に取って見てみると、「これが本当にガチャガチャ?」と思ってしまうくらい、とにかく造形が深く、細かな塗装になっていることに驚かされます。原型制作を担当した福元さんは取材を活かし、一人ひとりの年齢や性格も考え、設定を作りながら作ったそうです。そのため5人とも顔が違うことにしびれます。

シロビレ(猟銃)構えについては、言わなければ誰も気づかない箇所があります。それは銃口が載せやすいように棒の先がえぐってあること。武笠さんは「写真だけではわかりませんでした。銃口をおいて安定させるため棒の先がえぐってあります。これは実物を見なかったらわからない部分でした」と言います。私は「ここまでこだわるのか」と思わずうなってしまいました。

マタギは発売後、タマキュー史上一番のスピードで完売が続出し、再販に至りました。またXでは購入者の反応がタマキューのなかで一番良かったと言います。

マタギの反響について、「もともと持っていたマタギのポテンシャルに誰も気づいていなかったかもしれません。ガチャガチャをきっかけに阿仁マタギの文化や風土に興味を持ってもらえると嬉しいです。ただし、開発コストがめちゃくちゃかかっています。再販は決まっていますが、再販してもまだ足りないくらいです。一人でも多くの人に買ってほしいです(笑)」(武笠さん)

「マタギ発売で心入れ替え」

今年8月でタマキューは5周年を迎えます。タマキューの5周年に向けた野望を聞くと、成田さんは「初期と比べてタマキューらしさがなんだか分からなくなってきたとここ数年感じていました。SNSのエゴサで最も嬉しいのが、『この商品タマキューだと思ったら、やっぱりタマキューだった』と言われることです。その手の投稿が減ってきています。それはタマキューの現場から離れ気味だった私の責任です」と振り返った上で、「このマタギ発売をきっかけに心を入れ替え、8月に迎える5周年に向けて私たちらしい狂気をお見せしたいと思っています」と教えてくれました。

成田さんの言葉を聞いて、タマキューの今後の商品が楽しみです。

     ◇
マタギは、シカリ(リーダー)、シロビレ(猟銃)、シロビレ(猟銃)構え、タテ構え、解体(マタギ犬付属)の全5種類。1回500円。

ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」
この連載は、20年以上業界を取材しトレンドをチェックしているおまつさんが注目するガチャガチャを紹介していきます。

     ◇
ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani
ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。

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