「最短30分で自宅に医師を呼ぶことができる」とうたう人気の往診サービスが、突然の往診サービスの提供終了を発表した。理由として挙げられたのは「診療報酬改定」だった。何が起きているのか。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
「最短30分で自宅に医師を呼ぶことができる」「健康保険が適用可能」とうたう夜間・休日の往診アプリ「みてねコールドクター」が、2月16日、往診サービスの終了を発表した。約400名の医師が在籍し、アプリから医師の往診を依頼でき、その場で薬を渡すことができるなどとしていた。
株式会社コールドクターが2018年から運営を開始し、2022年には株式会社ミクシィと資本提携。ミクシィ社が運営するダウンロード数1000万人(当時)の子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」と連携を強化し、サービス名を「みてねコールドクター」に変更していた。
コールドクター社は往診サービスの終了理由について「今後の往診に関する診療報酬改定に伴う市場の変化を見据え、 『みてねコールドクター』の往診を終了することを決定いたしました」と説明。
往診サービスの利用は2024年3月31日20時59分までは受け付け、「オンライン診療、医療相談につきましては、引き続き全国エリアにおいて24時間365日対応でサービス提供を継続」とした。
では、往診サービスの提供終了につながった「診療報酬改定」の内容とはどのようなものだったのか。
2年に1度、見直され、医療機関の収入を左右する診療報酬。その改定案が、2月14日の厚生労働省の中央社会保険医療協議会総会で了承された。
幅広い医療従事者の賃上げに充てるため、初・再診料や入院基本料などの基本的な報酬を引き上げられたことが注目された。マイナンバーカードを健康保険証としても利用する「マイナ保険証」を後押しする報酬などが新設されたほか、患者にも負担を求める形だった。
その中で、往診に関する診療料にも変化があった。「普段から訪問診療を受けていない患者等」、つまり前述の往診サービスの利用者層の緊急往診や夜間等の往診は厳格化され、低い設定になった。
東京都で訪問診療を主とする「おうちの診療所」を運営する石井洋介医師は、今回の診療報酬の改訂内容について「保険診療で後押しするべきは、具合が悪くなったときにだけ駆けつける医師ではなく、日常を守るかかりつけ医、というメッセージだと感じた」と話す。
「緊急往診や夜間等の往診の診療報酬を手厚くすることで、不必要な救急搬送を減らし、医療現場の負担が軽くなることが期待されていましたが、実際には救急搬送は減らず、ほとんどが小児科領域の往診だったというデータもあります。コロナ禍という特殊な環境下では助かった人も多いと思いますが、以後も保険診療で行う意義は以前から議論されてきました。
本来、医療制度の設計で問われるべきは、いかに地域の医療の負担を減らすかということ。どれだけ往診をこなせるかではなく、予防的アプローチや情報共有など日中にできることをかかりつけ医が徹底することで、往診の負担を減らす方向性が望ましいと感じます」
アプリで気軽に依頼するような往診サービスの運営は今後、厳しくなる見通し。「みてねコールドクター」の迅速な意思決定には医療者らから「利益優先」などの批判も起きた。今後、同様のサービスを運営する事業者の動向にも注目が集まる。