国内でも医療機器として病院などに導入され、プロスポーツ選手にも利用されるInBody(インボディ)シリーズ。一般的な体組成計より高精度と認知されています。一方で、製造・販売するインボディ社のことはあまり知られていません。韓国に本社を置き、世界に展開する同社について、日本法人のインボディ・ジャパン社を取材しました。(朝日新聞with Health)
ゴールドジムなどのトレーニングジムで、高精度な体成分分析装置として、その設置自体が集客のためにうたわれることもあるInBody。プロ野球チームの広島東洋カープや東洋大学の駅伝チームが導入していることでも知られています。
日本国内ではクラスⅡの管理医療機器の承認を取得している製品も複数あり、透析患者といった、より精密な体内水分量の把握が必要な病気の管理にも使用されています。こうした製品の価格は300万円弱と、かなり高額です。
トレーニングをする人であれば、名前は聞いたことがあるだろうInBodyですが、その製造・販売をするインボディ社については、あまり知られていません。どのような企業なのか、日本法人のインボディ・ジャパン社に話を聞きました。
インボディ社は韓国に本社を置く企業で、創業者でありCEOは韓国出身のKichul Cha氏です。Cha氏は1990年代初頭、ハーバード大学医学部の博士研究員の職にあり、体組成を正確に分析する方法を研究していました。
Cha氏は自身が開発した技術をもとに、1996年に韓国のソウルにインボディ社の前身を設立。その2年後、最初のInBodyプロダクトが誕生しました。2000年に一つ目の海外の子会社がアメリカに置かれ、同じ年に二つ目として日本にも法人が設立されました。それから現在までに110カ国以上で販売されている多国籍企業になっています。
InBody970、InBody770などの医療用の体成分分析装置以外に、InBody570などの専門家用の(医療用より測定項目が少ない)ものもあります。
両者の主な違いは、前述した病気の管理をするために、医療用では細胞内外の体内水分量の分布が四肢・体幹の部位毎に細かく調べられるところです。そのほか、家庭用の体組成計や活動量計もラインナップにあります。
インボディ・ジャパン社によれば、現在国内では医療用・専門家用のInBodyが全国に1万5000台以上、普及しており、特に医療用のInBodyの導入がメインの事業になっているということでした。
InBodyが高精度とされることには、その成り立ちも大きく関わっています。現在、一般に普及している体組成計では、ほとんどに生体インピーダンス法(BIA法)が採用されています。これは体に微弱な電流を流し、電気が通りやすい体水分の電気抵抗値(インピーダンス)から体水分量を計算するというものです。
簡単に測定可能であり、家庭やスポーツジムなどでよく見かける、乗るだけで測定できるタイプの体組成計は、基本的にこの方式を採用しています。しかし、この電気抵抗の値が体の部位ごとに異なるため、BIA法が根本的に不正確であると指摘したのが、前述のCha氏でした。
従来のBIA法では、人体を一つの円柱として全身の電気抵抗を測定していました。しかし、例えば体幹は、全身筋肉量の約50%を占める大きさでありながら、長さが短く断面積が広いため電気抵抗の値がかなり低くなり、腕や脚などの体幹より長くて断面積が狭い部位と一緒に扱われることで、誤差が大きくなりやすい特徴がありました。
そこでCha氏は、部位ごとにこの電気抵抗値を測定する部位別直接インピーダンス測定法(DSM-BIA)を提唱します。一般的な測定機器よりも多くの電極を使用し、電流を流す方向や電圧をかける方法を変えながら測定すれば、部位別のインピーダンスを測定でき、結果がより正確になるとするものです。
そのほか、測定で使用する周波数や、電極の位置などについて、従来的なBIA法の測定の問題点を克服する形で、InBodyが開発されたと同社は説明します。
もう一つ、InBodyの最大の特徴とも言え、同時に議論が生じてきたのが、「統計補正を排除している」という点です。
人間を集団としてみたときに、その体には一定の特徴があります。例えば、女性は男性より体脂肪が多く、高齢者は若年者よりも筋肉量が少ないというのは、統計的には事実です。そこで、多くの体組成計では、前述したような従来的なBIA法の限界を克服するために、一般人基準の統計値による補正がかかっています。
一般的な体組成計を使用するときに、性別や年齢を入力することには、このような理由があるのです。
もともとBIA法で測定できるのは、電気抵抗の値から推定した結果です。直接、体脂肪量や筋肉量を測定することは、解剖でもしない限り不可能だからです。そのため、より正確とされる測定法では、プールに人を沈めて体積と密度を求めたり、X線を照射して透過率の差を比べたりといったことをしますが、かなり大がかりです。
BIA法に統計補正がかかることで、一般的な体型の人にとっては、簡単に体組成が測定できて、結果がより安定するメリットがあります。一方で、特に医療現場やアスリートなどは、このような一般人基準の統計値からは体組成の状態や体型が大きく外れるため、補正によって結果が不正確になるデメリットがありました。
では、どうやって測定しているのかというと、インボディ社は「統計値を排除したアルゴリズムを使用している」とするのみで、その詳細については、企業秘密として開示していません。
そのため、世界中の研究者たちが、前述したようなBIA法よりも正確とされる体組成の測定法により、こぞってInBody(DSM-BIA)の測定結果を検証してきました。その結果、より正確な体組成の測定法と、InBodyの測定結果が高い相関を示したのです。
つまり、インボディ社は「高精度」とされる理由について、具体的なことは開示していないけれど、その結果として研究者たちが検証を繰り返したことで、測定結果の精度が高いという評判が定着していったと言えます。