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重度脳性まひの娘へ「人に囲まれて、楽しく生きてほしい」 母の願い
夫婦で号泣「泣くのはこれで最後にしよう」
「小さいころからたくさんの経験をさせて、たくさんの人と会わせてあげたい」。福岡県に住む女性は、そんな思いを持って重度脳性まひのある長女を育てています。SNSを通じて全国の家族とつながったり、自身で障害児向けの交流会を企画したり。家族会の運営にも関わり、情報を発信しています。
福岡県に住むパート勤務の堀田未歩さん(43)は、会社員の夫(42)とともに4歳と0歳の娘を育てています。
長女・詩乃さんには重度の脳性まひがあって自ら体を起こすことはできず、常に介助が欠かせません。
てんかんもあり、1日20~30回発作が出ます。てんかんの薬の影響で、たんの吸引など医療的なケアも必要です。
常時ケアが必要な長女を受け入れてくれる保育園はなく、平日は親子で療育センターに通うなどして過ごしています。
自宅には訪問看護師やヘルパー、理学療法士らが訪れ、長女は多くの人と接して刺激を受けているそうです。
生後22日、長女は40度の高熱が出て入院。髄膜炎と診断され、脳性まひの後遺症が残りました。
堀田さんは「めちゃくちゃ泣いたし、メンタルも地に落ちた」と当時を振り返ります。
医師から今後のことを告知される前、「泣くのはこれで最後にしよう」と決めて夫婦で号泣しました。
子どもの立場で考えたとき、「『一番きついのは私なのに、なんで親が泣いてるんだ! 励ますのが役目でしょ』と言われるんじゃないか」と感じたからです。
「私だったら、周囲に『うちの子かわいいでしょ。応援してね』と言っている母でいてほしいと思いました」
長女を応援する気持ちでかわいい腹巻きをつくったり、オリジナルのフレームをつくって誕生日の写真を残したりしているそうです。
「長女は外に遊びに行く機会や、人と関わる機会がものすごく少ない」と感じていた堀田さん。
同世代の子どもたちと一緒にできる習い事をさせたいと願いましたが、リトミックやスイミング、音楽教室などに相談しても、てんかんを理由に受け入れてもらうことができなかったといいます。
発作が出たときに対処できない、周りの子どもたちが不安になる、習い事を中断せざるを得ないーー。
「その理由には納得しましたが、では娘のためにできることは何だろう」と考えました。
悩んだ結果、2021年の長女の誕生日に自ら任意団体を立ち上げました。以降、音楽療法の講師を招いたり、障害児向けのイベントや交流会を開いたりしています。
「私自身、社会とのつながりを諦めたくなかったし、彼女も社会に出してあげたいと思いました」
長女の「詩乃」という名前には、コミュニケーションを絶やさない幸せな人生を歩んでほしいという願いが込められています。
「人に囲まれて、自分らしく楽しく生きていってもらえれば、どんな状況でもいいんじゃないかな。そのためには、親として小さいころからたくさんの経験をさせて、たくさんの人と会わせてあげたいと思います」
SNSなどを通じて脳性まひに関する情報収集・発信をしていた堀田さんは、2022年、脳性まひがある子どもの親の会「サードプレイス」の活動にも参加しました。
サードプレイスは、脳性まひの子どもと家族が過ごしやすい社会をめざし、2018年に設立された団体です。
情報発信や交流・勉強会などを企画したり、病院で長期リハビリが必要な親子への寄付を呼びかけるクラウドファンディングに挑戦したりしています。今後は、会員向けの個別相談などピアサポートを充実させていくそうです。
堀田さんは「地域には脳性まひの子どもが少なく療育センターで情報が得られなくても、家族会ではリハビリや治療などについての経験談を聞ける」と話します。
過去に介護福祉士として障害者施設に勤務し、家族に症状や制度をかみ砕いて分かりやすく説明していた経験から、サードプレイスでは広報を担っています。
「脳性まひの子どもを持つ親たちがどのように工夫して、どういう風に楽しく生きているかを知る機会は少ないので、私たちのような団体が発信していきたい」と堀田さん。
「今悩んでいる人も、『楽しく生きているお母さんたちがいるなら、私も頑張れるかも』と一筋の光が見えるだけで育児への向き合い方が変わると思います」と話しています。
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