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子どもに本を読んでもらうには…悩む大学生へ、名物司書の意外な答え

「深い……。ちょっと感動しています」

飯能高校のすみっコ図書館で、主任司書の湯川康宏さんの話に耳を傾ける増山遊斗さん
飯能高校のすみっコ図書館で、主任司書の湯川康宏さんの話に耳を傾ける増山遊斗さん

目次

ボランティアで運営する都内のフリースペースを訪れる子どもたちに、「感情」をフックに本を選んでもらう図書館を作ろうと模索する大学生がいます。埼玉・飯能で「どんな生徒も必ず居場所が見つかる」をコンセプトに運営している図書館を訪ね、そのヒントを探りました。

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本棚に直結はしないけど……

100年近い歴史のある、埼玉県立飯能高校。正門から一番遠い建物にある「すみっコ図書館」は、全国から見学者が訪れるなど、図書館界隈では言わずと知れた特色ある図書館です。

すみっコ図書館の特徴は、必ずしも「本棚」には直結しないけれど、図書館に親しみを持ってもらうために工夫された仕掛けの数々です。

神社にあるようなおみくじを引く流れで、本を手にとってもらったり、こたつや喫茶スペースでゆっくりくつろげるようにしたり、ボードゲームコーナーを設けたり……。主任司書の湯川康宏さんは「すみっコ図書館でのゴールは、まず図書館という場所を好きなること」と話します。

読書に親しみのない生徒たちでも図書館に入りやすくする工夫は、入り口から始まっています。入り口ではスーパーでも置かれている「呼び込み君」の音楽が流れ、すみっコぐらしのキャラクターのぬいぐるみが出迎えます。
この「呼び込み君」の音楽、若者にも人気のディスカウント店「ドン・キホーテ」でも使われていることもあり、湯川さんは「まずは入ってもらわないと始まらないので、入り口から排除しない雰囲気を作っている」と話します。

「あなたをまもる本」としている60冊も、珍しい取り組みです。いじめや性にまつわる本を集めたこのコーナーの本では、貸し出し記録をつけません。
湯川さんは「その本を手に取った子の人生を守るための『選ばれし本』です。信用するから持っていって読んでくれという気持ちで置いています」と言います。

「なくなってしまってもいいと割り切っている」とのことですが、実際にはしっかりと戻ってきているのだそう。

すみっコ図書館を訪れた人に、図書館を案内して回る主任司書の湯川康宏さん
すみっコ図書館を訪れた人に、図書館を案内して回る主任司書の湯川康宏さん
参考:伝説の高校図書館つくった名物司書「情報源は本じゃなくてもいい」https://withnews.jp/article/f0200206001qq000000000000000W07n10101qq000020491A

印象的だった「あなたを守る本」

この図書館を見学したのは、民間の学童保育を展開するNPO法人「Chance For All(CFA)」(代表・中山勇魚)の学生ボランティアの一人、増山遊斗さんです。

CFAの学生ボランティアたちは、東京都足立区で駄菓子屋「irodori」を運営しています。増山さんは、そのフリースペースに「感情図書館」を設置するために奔走しています。

感情図書館のコンセプトは、「将来の夢を見つけたいとき」「リーダーに選ばれたけどどうすればいいかわからないとき」など、読むときの「感情」をあえて提示することで本を選びやすくしたいというもの。

irodoriには、家庭や学校などの生活で困難を抱えた子どもたちが来ることもあり、彼らの悩みを解決するきっかけの一つとして本があってほしいという思いがあります。

すみっコ図書館を見学し、多くのヒントを得たようです。

「特に、『あなたをまもる本』のコーナーが印象的でした」

「あなたをまもる本」のコーナー
「あなたをまもる本」のコーナー

「深い……。ちょっと感動しています」

増山さんは、感情図書館の運営を考える上で、「本にどう導けばいいか」という課題感を抱えているといいます。

その思いをぶつけると、湯川さんはすみっコ図書館を念頭に「いまでも生徒が本を手にとっているかというと、必ずしもそうではないと思う」と話します。そもそも「生徒が本を手にとらないこと」を課題とは感じていないといいます。

「学校を卒業しても人生は続くので、高校3年間で終着点に行かなくてもいいと思います。いつか人生の中で本の楽しみを知ってもらえればいいなと考えていて、すぐに即効性のある薬を投与する必要はないのではないでしょうか」

また、湯川さんは、ディスレクシア(書字障害)などを例に挙げ「本人には読めない理由があるのかもしれない。それをこちらがすべて把握することは難しいけど、本人が『読みたい』と思った時の環境を整えてあげられていたらいい」と話します。

増山さんは大きくうなずきながら、「まず、図書館という場所になじんでもらったり居場所を感じてもらうことなんですね」と答えていました。

湯川さんは、必ずしも情報源は本にこだわっていないという自身の考えも伝えます。
「図書館の使命は、その人が持っている課題や疑問を解決すること。その手段は紙の本だけではなく、電子書籍でもいい。『この人に聞いたらわかる』という人を紹介することだっていい」

これを聞いた増山さんも「深い……。ちょっと感動しています」。

湯川さんは「(感情図書館のビジョンは)手探りですよね。でも、手探りでいいと思うんです」とアドバイスします。

「もしかしたらお兄さんたち(学生ボランティア)が自分の話を聞いてくれていることが、その子にとって本を読んでいるのと同じ価値があるんじゃないか、とも私は思いますよ」

すみっコ図書館にある「すみっコタツ」
すみっコ図書館にある「すみっコタツ」

コンセプトに反映

この話を持ち帰り、後日メンバーに伝えた増山さん。コンセプトの中に、すみっコ図書館で得た要素を加えました。

「周りの人に見られたくなければ勝手に持ち出していい、返さなくてもいい」

「その本がモヤモヤを抱えたこどもたちにとってひだまり(小さな希望)になることを目指す」――。

12月初旬に開始したクラウドファンディングには、こんな決意が表明されています。
《「必要な時に必要な本を必要な子へ届けられる」空間を作ります》

クラウドファンディングのページはこちら。
https://camp-fire.jp/projects/view/723695

     ◇
withnewsでは、現在進行形で様々な意見を採り入れながら、子どもたちの悩みに寄り添おうと奮闘する「感情図書館」の取り組みを不定期で発信しています。

【前回はこちら】「何もしなくてもいい」子どもの〝居場所〟 学生運営の駄菓子屋さん
https://withnews.jp/article/f0231129003qq000000000000000W07n10101qq000026394A

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