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連載

#3 イーハトーブの空を見上げて

実在した「鬼死骸停留所」 〝鬼滅の刃〟ファンが訪れるバス停の由来

SNSで話題になっている「鬼死骸停留所」。驚きの名前ですが……
SNSで話題になっている「鬼死骸停留所」。驚きの名前ですが……
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

過去にあった「本物のバス停」

取材の帰り道、奇妙な名前のバス停を見つけた。

「国鉄バス 鬼死骸停留所」

JR一ノ関駅から南に約4km。頭に「国鉄バス」とついていたので、映画のセットかと思ったが、調べてみると、過去に実存した本物のバス停であることがわかった。

驚くことに、バス停のある一帯はかつて、「鬼死骸村」と呼ばれていたというのだ。

近くの真柴市民センターを訪ねると、所長の小野寺徹さんが教えてくれた。

「鬼死骸」という名の村があった

周辺地域は1875年まで「鬼死骸」という名の村だった。平安時代に征夷大将軍の坂上田村麻呂が東北地方に攻め入ったとき、「鬼」と呼ばれた蝦夷(えみし)の将・大武丸(おおたけまる)を討ち取った。

その亡きがらを埋めた上に「鬼石」が置かれたことから、「鬼死骸」という名の村になったという。

近くには伝説の「鬼石」や「鬼死骸八幡神社」がある。参道の木立に渡されたしめ縄が、生温かい風を受けて重く揺れている。

「不思議な時代ですよ」と小野寺さんはどこか引きつった笑いで言った。

「アニメ『鬼滅の刃』のヒットを受けて、首都圏からも観光客が停留所の写真を撮りに来る。誰かが撮った停留所の写真がSNSやらで拡散したんだそうで、私には仕組みはよくわかりませんが、なんとも摩訶不思議な時代です」

(2021年8月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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