連載
実在した「鬼死骸停留所」 〝鬼滅の刃〟ファンが訪れるバス停の由来
取材の帰り道、奇妙な名前のバス停を見つけた。
「国鉄バス 鬼死骸停留所」
JR一ノ関駅から南に約4km。頭に「国鉄バス」とついていたので、映画のセットかと思ったが、調べてみると、過去に実存した本物のバス停であることがわかった。
驚くことに、バス停のある一帯はかつて、「鬼死骸村」と呼ばれていたというのだ。
近くの真柴市民センターを訪ねると、所長の小野寺徹さんが教えてくれた。
周辺地域は1875年まで「鬼死骸」という名の村だった。平安時代に征夷大将軍の坂上田村麻呂が東北地方に攻め入ったとき、「鬼」と呼ばれた蝦夷(えみし)の将・大武丸(おおたけまる)を討ち取った。
その亡きがらを埋めた上に「鬼石」が置かれたことから、「鬼死骸」という名の村になったという。
近くには伝説の「鬼石」や「鬼死骸八幡神社」がある。参道の木立に渡されたしめ縄が、生温かい風を受けて重く揺れている。
「不思議な時代ですよ」と小野寺さんはどこか引きつった笑いで言った。
「アニメ『鬼滅の刃』のヒットを受けて、首都圏からも観光客が停留所の写真を撮りに来る。誰かが撮った停留所の写真がSNSやらで拡散したんだそうで、私には仕組みはよくわかりませんが、なんとも摩訶不思議な時代です」
(2021年8月取材)
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