魚に由来するヒスタミンという物質による食中毒が国内で相次いでいます。ヒスタミンはサバ、マグロ、イワシなどの魚を、常温に放置したときに、菌により生成される物質です。保育園などで数十人規模の集団食中毒が繰り返されているこの物質について、内閣府の食品安全委員会が注意を呼びかけています。どのような対策があるのか、まとめました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
13日、奈良市の保育園など複数の施設で、給食のサバの塩焼きを食べた園児43人に、口や背中などの発疹の症状が出ました。サバから食中毒を引き起こすヒスタミンという物質が検出されたため、奈良市保健所はヒスタミンが原因の食中毒と断定しました。
ヒスタミンはアレルギー関連物質として有名ですが、食品中に蓄積したヒスタミンを摂取してしまうと、アレルギー様の食中毒を引き起こすことがあります。このヒスタミンについて、内閣府の食品安全委員会が6月、注意を呼びかけました。
ヒスタミンは、サバやマグロ、イワシなどの魚を「常温に放置する」など不適切に管理したとき、ヒスタミン生成菌が増殖することによって作られます。ヒスタミンは熱に強く、生成されてしまうと、加熱調理によっても分解しないことに注意が必要です。
ヒスタミンの原料であるヒスチジンは、白身の魚に比べてサバ、マグロ、イワシ等の 赤身の魚に多く含まれています。ヒスチジンからヒスタミンを生成する菌には、腸内細菌科の細菌や、海洋や魚の体表・腸管に存在するビブリオ科の細菌など、多くの種類があります。
ヒスタミンを多く含む食品を摂取した場合、通常、食後数分~30 分で顔面(特に口の周りや耳たぶ)が紅潮し、頭痛、じんま疹、発熱などの症状が引き起こされます。ただし、大体6~10 時間で回復するということです。重症になることは少なく、抗ヒスタミン剤の投与により速やかに治癒することが知られています。
「ヒスタミンを多く含む魚やその加工品を食べることで、アレルギーに似た症状を発症することがありますが、これはアレルギーによる症状ではなく、ヒスタミンを多く含む食品を食べたことによる食中毒です」(同委員会)
ヒスタミンでは、過去にも保育園や学校が関係する大規模な食中毒が発生しており、2015年には流通段階で発生したヒスタミンによる87人の食中毒が、2018年には保育園でヒスタミンによる92人の食中毒が発生しています。
しかし、ヒスタミンが含まれているかどうかは「見た目や臭いで判断することが難しい」と同委員会。ヒスタミンによる食中毒の予防のためには、以下のポイントが重要だということでした。
・魚を保存する場合は、速やかに冷蔵・冷凍し、常温での放置時間を最小限とする。
・蓄積されたヒスタミンは加熱しても分解しないため、鮮度が低下したおそれのある魚は食べない。
・自分で釣った魚でも、速やかにクーラーボックスに入れるなど、常温に放置しないようにする。
・内臓はできるだけ早く取り出し、腸管内容物で魚肉を汚染させないように注意する。
・ヒスタミンが高濃度に蓄積されている食品を口に入れたときに、唇や舌先に通常と異なる刺激を感じる場合があるので、そのような場合は食べずに捨てる。
また、もし食物アレルギーかもしれないと思ったときは、東京都の「食物アレルギー緊急時対応マニュアル」が参考になります。
同マニュアルでは「のどや胸が締め付けられる」「声がかすれる」「犬が吠えるような咳」「息がしにくい」「持続する強い咳き込み」「ゼーゼーする呼吸」などの呼吸器症状、「持続する強い(がまんできない)お腹の痛み」「繰り返し吐き続ける」などの消化器症状、「ぐったり」「意識もうろう」「尿や便を漏らす」「脈が触れにくいまたは不規則」「唇や爪が青白い」などの症状が一つでもあれば、救急車を呼ぶ、(処方されていれば)エピペンを使うなどの緊急の対応が必要とされています。