ネットの話題
丸い目、開いた口…何とも言えない顔の〝サカバンバスピス〟って?
フィンランドの博物館にある、なんとも言えない顔をした魚の模型がSNSで話題になっています。この魚、名前は「サカバンバスピス」といって、古生代に生息していた古代魚だそう。一体どのような魚だったのでしょうか。専門家に聞いてみました。(朝日新聞デジタル企画報道部・小川詩織)
たびたびSNS上で「かわいい」「なんともいえない表情」「虚無感のある顔」などと話題になる「サカバンバスピス」。その模型は、フィンランドのヘルシンキ自然史博物館に展示されています。
昨年、「Absolutely dying(笑いが止まらない)」といった言葉とともに投稿されたKat Turkさん(@kat_scans)のツイートには、11万以上のいいねが付いています。
Absolutely dying pic.twitter.com/RhbIPBl3sQ
— Kat Turk (@kat_scans) August 30, 2022
ツイートが拡散されるや否や、その顔や形のなんともいえない可愛さで人気を集めている、この「サカバンバスピス」。一体、何者なのでしょうか。
東京都市大学准教授の中島保寿さん(古生物学)に、サカバンバスピスについて聞きました。
サカバンバスピス(Sacabambaspis)は、古生代のオルドビス紀(約4億6000万年前)に生息していた魚類で、すでに絶滅しています。ボリビアのオルドビス紀の地層から化石が発見されました。
脊椎(せきつい)動物の化石の中では極めて古く、脊椎動物の進化の歴史を明らかにする上で重要な生物とされています。
名前は、化石が発見されたボリビアのコチャバンバ県にある「サカバンバタウン」に由来しています。また、体が硬い骨に覆われていることから、ラテン語で「盾」という意味のアスピス(aspis)にちなんでいるそうです。
全長は25㎝ほど。「体重はわかりませんが、同サイズのサバと大きく変わらない500g程度でしょうか」と中島さんは話します。
ヘルシンキの博物館にある模型を見ると、口が開いている状態です。
サカバンバスピスは口はありますが、あごがないため「無顎類(むがくるい)」に分類されます。現在生存している生物としては、ヤツメウナギやヌタウナギが無顎類に当たります。
そのため、口を上下にぱくぱくと開閉することはできません。ただ、口の下半分は小さなうろこに覆われた皮膚であるため、この皮膚を柔軟に伸び縮みさせて、口を広げたりすぼめたりすることはできたと考えられています。
さらに、今の魚類と違って目も正面に付いています。おそらく現在の魚類と比べて目は小さく視力も弱かったため、泳ぐのに重要な前方の視野を優先させたためではないかと推測されています。
一説には、海底のエサを吸い取って食べていたとも言われていて、海底までの距離を測るのに必要だったのかもしれないということです。
サカバンバスピスは、無顎類と、ヒトやサメなどといったあごのある「顎口類(がっこうるい)」との間の生物として重要だそうです。
例えば、サカバンバスピスには鼻の穴が左右に一対あります。これは、私たちヒトと同じですが、無顎類のヤツメウナギには、鼻の穴は目の間に一つしかありません。
これは、サカバンバスピスがあごを持たない原始的な魚類でありながら、私たちの祖先に近かったことを示している可能性があるということです。
また、尾びれはありますが、胸びれはありません。今の魚類と比較すれば、泳ぎは下手だったに違いないということです。
ただ、尾びれが発達し、体も流線形に近いので、オルドビス紀の生物としては泳ぎは得意なほうだったのではないか、ということです。
話題になったヘルシンキ自然史博物館にある模型は、どのくらい本物に近く再現されているのでしょうか。
博物館の模型では、フグのような尾びれがあるように復元されていますが、より新しい見解によると、上下に分かれたヒレの間から小さな尾びれ付きの細いしっぽが飛び出しているように復元されるようになりました。
中島さんは「最新の見解を取り入れた復元とはいえません。ただ、尾以外に関しては、口の形状、多数のスリット状のエラなど、かなり学説に忠実に再現されていると思います」と話しています。
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