連載
#71 「きょうも回してる?」
SNSで話題の靴、ガチャに登場 〝即断即決〟したデザイナーの気概
実物は10万円程度のものも
ヒール部分のモチーフが手になっているなど、奇抜なデザインのヒールパンプス。実物は数万円するものですが、ガチャガチャでなら――。
ガチャガチャをきっかけにファンを増やそうと、歌手であるAdoとのコラボなども実現させているファッションデザイナー松井諒祐さんのヒールパンプスがガチャガチャになりました。ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
コロナ禍の3年間で、ガチャガチャの専門店は全国に200店舗以上増えました。
店舗数が増える中で、ガチャガチャの商品にもある変化が。
それは、各メーカーからバラエティーに富んだオリジナル商品が多く出されるようになったことです。オリジナル商品は基本的にアニメやキャラクターなどのIP商品(知的財産価値のある商品)と違い、企画に制限がないため自由度が高いことが特徴です。
メーカーの担当者の企画商品をはじめ、クリエイター作品が多い傾向となっています。専門店が増え、毎月300商品以上が発売されるなか、各メーカーはいかにお客さんを惹きつけ、買いたくなる商品を生み出せるかで、競合相手との競争に勝たなければいけません。
最近、気になるメーカーがありました。2000年から雑貨や玩具を企画開発しているHMA(エイチエムエー )です。約5年前からOEM(他社ブランドの製品を製造する)を中心にガチャガチャの商品を販売するようになり、最近ではオリジナル商品の開発・販売にも力を入れ始めています。
今回は5月下旬から発売される「ha | za | ma ヒールパンプスコレクション」を紹介します。ha | za | ma は、ファッションデザイナーの松井諒祐さんのファッションブランド。松井さんはSNSの総フォロワー数25万人以上を抱える、人気の日本人ファッションデザイナーであり、最近では、ha | za | ma ×Ado 特別コラボを展開するなど、SNSでは話題になっています。
そのha | za | ma から、SNSで大きな反響があった、「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」と「惹き鉄となるヒールパンプス」の2種を手のひらサイズでガチャガチャにしました。
そのきっかけについて、企画の担当者は、昨年ツイッターで「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」が話題になっているのを見つけ「何だ、これは!しかも、本当にヒールパンプスとして販売しているなんて」と驚いたそうです。そして、「見た目がガチャガチャに向いているし、コレクション要素もある。このヒールパンプスは、男の僕が見てもかっこいいし、とてもおしゃれだと感じました」と話します。
実際に松井さんが手掛けるヒールパンプスは、ECサイトで販売しており、価格は5〜10万円以上するものもあります。企画担当者は「このヒールパンプスは実際に、数千足も売れているそうです。また、松井さんのものづくりに対する熱も凄い」と教えてくれました。
ものづくりについて、松井さんはツイッターで、このように投稿しています。
松井さんの熱い想いに心打たれた企画担当者は、「話題になっているヒールパンプスをガチャガチャで展開したら、ファンの方はもちろんですが、もともと買いたいけど買えなかった人や、(ジェンダーが理由で)いきなり実物のヒールパンプスには手が出しにくかったけど興味はあった人など、興味がありつつも購入に至っていなかった人たち向けのファーストステップになるのではないか」と教えてくれました。
松井さんにガチャガチャの提案をしたときに、企画担当者は「過去に何度か、アパレルブランドにガチャガチャの企画を提案したことがありますが、断られることが多いです。しかし、松井さんはもともとガチャガチャに興味を持っていました。松井さんは『ガチャガチャやりましょう』と即断即決でした」と、松井さんの決断のスピードの速さに驚いたそうです。
苦労した点について尋ねると、昨年からガチャガチャメーカーが抱える為替の円安や材料費の高騰の課題を挙げ「極限まで実物を再現するためのコスト調整が 、ほんと、死ぬほど大変でした」と話します 。その厳しい環境で、(ヒールパンプスの装飾の一部である)指輪のリングや銃などの形状を細かく再現し、「成形したものを接合する分割線を目立たなくしたり、実物に近づけたりするように、色味や光沢も何度も修正し完成させました。ha | za | ma ファンの方も納得していただけるように、またha | za | ma を知らない人に興味を持っていただけるように作りました。サンプルを松井さんに見せたら高い評価をいただいて、ほっとしています」(企画担当者)。
今回、実物を見る機会をもらい、ガチャガチャの商品と実物を比較しましたが、実物をそのまま小さくしたかのような、遜色ない出来栄えでした。
さらに、よく見ないとわからないのですが、中敷きにはha | za | ma のブランドのロゴまで刻印してあることに、企画担当者の熱意が伝わってきました。
そして、ガチャガチャ業界ではあまり行わないのですが、期間限定で売り場でこのヒールパンプスのポスターまで作り、実物を展示するイベントを開催します。企画担当者は「ha | za | ma を知ってもらう良い機会です。もちろんガチャガチャが売れることは嬉しいですが、実物を見てもらい、これを機にha | za | ma のファンを増やしたい。そして、実物を購入して頂くきっかけにつながればいいです」。
今後の展開として、企画担当者は「弊社は、ものが作れる背景がしっかりしていることが強みです。買ってもらうお客さんをがっかりさせたくありません。その強みを活かし、ha | za | ma の第2弾、第3弾ができたらいいなと思います」と教えてくれました。
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ha | za | ma ヒールパンプスコレクションは、「惹きずり込まれる運命のヒールパンプス」で赤×オレンジ、黒×ターコイズ、ピンク×エメラルドの3種類と、「惹き鉄となるヒールパンプス」で黒×黒、赤×赤、白×白の3種類の合計6種類。1回500円。
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