ネットの話題
「彼女に落書きされたんだけど」写真とイラストで魅せる幻想的な世界
会社同期として出会った2人が彼氏彼女になり、アーティスト活動を始めました
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会社同期として出会った2人が彼氏彼女になり、アーティスト活動を始めました
彼氏が撮った写真に、彼女が落書きをする。SNSを中心に活動する2人組のアーティスト「sara」は、現実とイラストの融合で幻想的な作品を発信しています。コロナ禍の2020年に、入社同期として出会った2人。ツイッターでたびたびバズったことで世界が広がりました。
2022年9月、「彼女に落書きされたんだけどシンプルに好き」というメッセージと共にツイッターに投稿された1枚の画像。
海辺に沈んでいく夕日の写真に白い線で「落書き」が添えられ、まるで「線香花火」のようです。ツイートには11万以上の「いいね」がつき、多くの人を魅了しました。
投稿したのは、SNSを中心に活動する2人組アーティストの「sara」(@sara2626_if)です。写真家の彼氏・Araiさん(28)が撮った写真に、イラストレーターの彼女・sakoさん(25)が「落書き」をした作品を発信しています。
「線香花火」は2人の初めての作品です。写真の舞台は大分県の真玉海岸。Araiさんが大学院生時代に「きれいに撮れた」自信作で、sakoさんに見せると「線香花火の火玉みたいだなとパッと思い浮かんだ」といいます。
彼女に落書きされたんだけどシンプルに好き pic.twitter.com/Ke0D5vf6Od
— sara (@sara2626_if) September 18, 2022
Araiさんが写真を始めたのは大学生の頃。友人が撮った蛍の写真に魅せられ、「自分も撮ってみたい」と一眼レフカメラを購入しました。
当時は年1回旅行をする際にカメラを持って行く程度でしたが、大学院進学後に写真サークルに入り、就職活動が落ち着いたタイミングでカメラにのめり込んだそうです。
一方sakoさんは、幼い頃から絵を描くことや想像することが好きで、「学校では窓際の席で授業中に空をながめながら、雲がどんな形に見えるか考えたり、そこから物語を膨らませたりするのが一つの遊びでした」。
海や夕日、自然の景色や写真を見ては想像を巡らせることも多いと話します。スタジオジブリの作品が好きで、その世界観からの影響もあるそうです。
そんな2人の出会いは2020年春。IT企業の新入社員として、同じ研修班に分けられました。
コロナ禍で研修も交流もオンラインが中心です。ネットを介した交流でも、共通のゲームをプレイして盛り上がったり、写真や絵がうまい人だと意識したり、お互いが少しずつ人柄に惹かれていきました。
あるとき、Araiさんが撮った写真をいくつか見ていたsakoさんは、ふと「写真に何か描いてみてもいい?」と伝えました。
「Araiさんの写真は撮り方もうまいですし、物語の一部みたいだなと感じていました。その写真にイラストを添えたらもっとよくなるんじゃないかなと思ったんです」と振り返ります。
当時、Araiさんとしても「写真だけだとつまらないな」と物足りなさを感じていました。そんなお互いの思いが重なったいいタイミングで完成したのが、「線香花火」の作品です。
実は、「線香花火」を初めてSNSに投稿したのは2020年7月のことでした。
「友達に落書きされたんだけどシンプルに好き」とコメントをつけてAraiさん個人のツイッターアカウントでつぶやき、25万近い「いいね」がつきました。
2020年の投稿では「友達」だったsakoさんが、アーティスト「sara」として2022年に改めて投稿したときには「彼女」にーー。
詳しく尋ねると、Araiさんは「正直なところを言うと……」とこう続けました。
「7月の投稿で『友達』と出しているんですけど、つき合い始めたのは2020年6月なんです」
「なぜ『友達』にしたかというと、シンプルに恥ずかしかったから。つき合って1カ月しか経っていないタイミングで『彼女に落書きされた』と書くのは照れくさいし、つき合い始めで不安定な時期でもあったので『友達』って書いちゃいました(笑)」
sakoさんへSNSに投稿することは相談したものの、「友達」と表現することは伝えていなかったAraiさん。「『友達』と書いてまで出したかったのは、シンプルにすごくいい作品だと思ったからです」と話します。
「落書きしてくれた作品を見たときは、『めちゃくちゃいいじゃん』って、語彙(ごい)力のない言葉しか言えませんでした。『友達』でも『彼女』でもバズって評価されたことに変わりないかなと、自分では思っています」
sakoさんは「投稿を見て『どういうこと!?』と聞きました。『恥ずかしい』という理由を聞いても納得はしませんでしたが、今となっては『友達』と書いても、『彼女』と書いても、作品の良しあしは決まらないので、納得しています」と笑います。
友達に落書きされたんだけどシンプルに好き pic.twitter.com/dAelWQ6jWh
— Arai (@arai_noki) July 29, 2020
「線香花火」の作品へ度重なる反響があったからこそ、2人は「自分たちの作品の方向性が見つけられた」と感じています。
「『落書きされた』というとマイナスイメージがありますが、すごくいい作品になっているというプラスのギャップに対してみなさんから『いいね』をいただいたのかもしれません」とAraiさん。
sakoさんは「色の付いた落書きをしてみたこともありますが、やっていくうちにやっぱり白線がいいねと決まりました」と話します。
2021年10月、会社員を続けながらアーティスト活動を始めた2人。いまは自宅がある関東からほぼ毎週末、車で隣県に出かけたり、長期休暇の際は新幹線や飛行機で関西や九州に行ったりして、作品を作っています。
これまではSNSを介した発信のみでしたが、今後の目標は「個展の開催や作品集の出版、ファンの方たちとのオフラインの関わりを増やすこと」です。
Araiさんは「年内には作品展ができればいいなと考えています。これからも今まで通り楽しく、健やかに作品を出していきたいです」と話しています。
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