ネットの話題
木彫りでヨックモックのお菓子を作った師匠、9歳弟子との夢が実現へ
師匠は弟子に、リアル展示会の魅力を知ってもらいたいと話しています
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師匠は弟子に、リアル展示会の魅力を知ってもらいたいと話しています
SNSに木彫りの作品を投稿しているキボリノコンノさん(34)。デパ地下定番の洋菓子ブランド・ヨックモックの「シガール」や、注がれているコーヒーを木彫りで再現し、多くの人を驚かせてきました。SNSを通じて、木彫りの「バターしみしみパン」を作った小学3年生の「弟子」いっちゃん(9)とも出会い、家族ぐるみの交流を続けています。2月、念願の2人展を開くことになりました。
1月上旬、穏やかな休日のランチタイム。東京都内の公園で、キボリノコンノさん(@kibori_no_konno:以下コンノさん)と弟子のいっちゃん、その母親のたゆたゆさん(40)がいっちゃんの木彫り作品を囲み、談笑していました。
2人展を前に、住んでいる静岡県からいっちゃんに会いに来たコンノさん。対面で話すのはこの日が2度目です。
いっちゃんが手にしていたのは、木彫りの「バターしみしみパン」と「ちょっとやきすぎちゃったアジ」(アジの開き)。パンは小学2年生だった2021年の夏休みに、アジは2022年の夏休みに木工コンテストに応募するために1人で作りました。
コンノさんは「バターしみしみパン」を間近で見たことはありましたが、実物の「アジ」を見るのは初めてです。
皮の面の色つけやしっぽの角度、全体のバランスに注目し、「グラデーションで色が消えていく感じはどうしてもはけの跡が残ってしまうのに、これはすっごいね! 僕にはできないよ。まずこの造形を作ろうと思わないもん。言葉が出てこない」と感嘆しました。
「食べ物好きだよね?」と聞くコンノさん。いっちゃんはうなずきます。自身も食べ物の作品を多く作るコンノさんは、「そうじゃないとこんなに観察できない。僕も好きだもん(笑)」と話していました。
いっちゃんが作った本物そっくりの作品はSNSで話題になり、テレビやネットニュースにたびたび取り上げられています。
いっちゃんは「学校で『テレビに出たよ』と話しても、『絶対出てないでしょ~』って男子に言われる」とつぶやき、笑いを誘っていました。
コンノさんといっちゃんが「師弟」になったきっかけは、2022年2月。いっちゃんがたまたま見ていた朝の情報番組にコンノさんの作品が紹介されていて、釘付けになりました。
そのことを母親のたゆたゆさんがツイートすると、コンノさんから返信があり、以来親子でツイッターに投稿される木彫り作品を楽しみにしていたそうです。
5カ月後、都内で開かれたコンノさんの展示会にも親子で訪れ、いっちゃんはコンノさんに「バターしみしみパン」を見せました。
感激したコンノさんは「一緒に飾りましょう」と、展示のひとつとして「バターしみしみパン」を並べてくれたそうです。
展示会が終わり、作品を自宅に返送してもらったとき、コンノさんから「もっと成長していってほしいので」と電動工具のルーターも一緒に送られてきました。
親子ともにルーターの使い方を知りませんでしたが、同封されていたコンノさんの実演動画DVDのおかげで、いっちゃんは「使い方がすぐに分かった」そうです。
コンノさんは「バターしみしみパン」を間近で見た当時のことを、「小学生が作ったとは思えないクオリティーに混乱した」と振り返ります。彫刻も着色もまるで本物でした。
コンノさんが「なんでこれを作ったの?」と尋ねると、「身近なものを作ってみたかった」「作品を見た人にびっくりしてもらいたかった」と話していたいっちゃん。コンノさんは「僕の考えとそっくりでした」と話します。
そのときから、「いつか一緒に展示会ができたらいいねと話していた」そうです。
2021年に木彫りを始めた2人ですが、いつの間にかいっちゃんはコンノさんのことを「師匠」と慕い、コンノさんも「弟子」と認める仲になりました。
その後もSNSに木彫りのカマンベールチーズやかき氷などの作品を投稿していたコンノさん。2022年9月、コンノさんのもとへ大阪の画材店の担当者から展示会開催の誘いがありました。
当時、SNSでいっちゃんの木彫りのアジが話題になっていました。いつか2人展を開きたいと思っていたコンノさんは、思い切って担当者に「いっちゃんと一緒の展示はどうですか?」と伝えたそうです。
こうして、2月18日から3月2日まで、念願の2人展「いっちゃんとキボリノコンノ展 in osaka」が開かれることとなりました。
コンノさんから母親経由で「一緒に展示してみませんか?」と声をかけられたいっちゃんは、「うれしすぎてパニック状態だった」と目を見開きます。ニヤニヤが止まらなかったそうです。
母親のたゆたゆさんは「注目していただくたびに、娘が『ありがたいね』と口にするようになりました」と話します。
「その感謝の気持ちを、みなさんが作品を見てワクワクしてもらうことでお返しできたらいいなと思っています。娘にはみなさんが楽しんでいただいている反応を目に焼き付けて、明日からの活力にしてもらえるとうれしいです」
2人展では「バターしみしみパン」「ちょっとやきすぎちゃったアジ」のほか、新たにいっちゃんが大好きなサイゼリヤの「辛味チキン」を木彫りで再現するほか、紙で作ったドレスも展示する予定だそうです。
「いっちゃんがお客さんと直接ふれ合う機会をつくってあげたい」
コンノさんがいっちゃんと展示会をしたいと考えた背景には、そんな思いもありました。
いっちゃんと同じように、小学生のころからもの作りが大好きだったコンノさん。折り紙や木で何かを作っては両親がたくさん褒めてくれ、ますます意欲が高まりました。
SNSで作品を発表するようになってからも、多くの人が驚き、喜んでくれることがモチベーションにつながっています。
一方、各地で作品展を開催し、お客さんと直接ふれ合う機会が増えて新たな発見もありました。
「直接作品を見た方からいただく感想はSNSでいただく感想と少し違って、自分でも気付かなかった作品の良さやおもしろさに気付けたんです」
「僕は木を食べ物そっくりに作ることをポイントにしていたのですが、実際に触れる作品を手にとって木の質感や木目がおもしろいと喜んでくれるお客さんもいました。おかげで、それまで以上に木の特徴を生かした作品を作るようになりました」
SNSではいっちゃんの作品に多くの感想が寄せられていますが、リアルな場だからこその魅力も感じてもらいたいとコンノさんはいいます。
「お客さんとの対話を通じて新たな発見があったり、直接感想をもらうことで創作意欲につながったりするとすてきですよね」
師匠でありながら、いっちゃんの想像力や観察力を「リスペクトしている」コンノさん。来場者には、「木彫りの作品だけだと『そっくり』という視点で見てしまうと思いますが、木彫り以外の作品も見て、いっちゃんの世界観を感じてほしいです」と話しています。
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