ネットの話題
「今日も疲れたねぇ~(^_^;)」 〝おじさん構文〟はネタなのか
相手との関係性を含めた「総合芸術」
赤いビックリマークなどの絵文字を多用したり、語尾をカタカナにしたりといった「おじさん構文」を知っていますか? SNSで話題になり、昨今よく耳にする言葉です。若い世代が「定型文」として使うこともある「おじさん構文」を、実際の「おじさん」世代はどのように感じているのでしょうか。
独特な絵文字使いや語尾のカタカナが特徴的な「おじさん構文」。この「○○構文」という言葉は、辞書出版大手・三省堂が主催する「辞書を編む人が選ぶ 今年の新語 2022」の2位にもランクインしました。選考委員は国語辞書編纂(へんさん)者たち。言葉のプロにとっても気になる事象のようです。
若者に人気のキーボードアプリ「Simeji」(バイドゥ運営)には、定型の文章を選べる機能「定型文」のキーを配置していて、そのなかには「おじさん構文」のカテゴリーもあります。
例えばこんな定型文です。
10種類用意されたテンプレートを見ると、確かに一定の法則のもとに成り立っている文章にも思えますが、実際「おじさん」が使っているのかというと…私には心当たりがありません。
「Simeji」が今年、10~24歳の男女597人に調査した「気になるおじさん構文の特徴」では、1位が「絵文字・顔文字・記号を多用」、2位が「文章中にカタカナを乱用」、3位は「一度に送る文章が長い」でした。
若い世代は、この「おじさん構文」をどう受け止めているのでしょうか。
おじさん構文を「おもしろがって作ることがある」と話す都内の大学1年生の女性は、「半角カナや、大小二つ並んでいるハートの絵文字や、サムズアップの絵文字(色は変えない!)などを使うと、おじさん・おばさん構文になる気がします」と語ります。
また、同じくおじさん構文を使うことがあるという別の女性は「ツイッターにたくさん本物のオジ(おじさん)がいるので、そこから学んでいます」とコメントを寄せてくれました。
「三省堂国語辞典」編集委員の飯間浩明さんは、おじさん構文を用いる人について「表現をコスプレしているとみることもできるのではないか」と指摘しています。
そもそも「おじさん」とは、どの年代を指すのでしょうか。
サントリーウエルネスが今年1月に発表した「実感年齢白書 2022」によると、「おじさん」「おばさん」と感じる年齢の全世代平均は49歳でした。
ただし、何歳を「おじさん」「おばさん」と感じるのかという認識は、年代によって変化します。20代は47歳、30代から70代は徐々に「おじさん」「おばさん」と感じる年齢は上がっています。ちなみに、30代は45.6歳、70代は55.2歳でした。
同僚の40代以上の男性に、おじさん構文についての思うことを聞いてみました。
まず、60代の男性。「おじさん構文についてはよく聞くけど、本当にこんな文章を送ってくるおじさんはいるのかなと思っていました」と戸惑っているそう。
「少なくとも自分の周囲で見たことはない」とする一方で、「若い人とのコミュニケーションに絵文字が必須と思い込んでしまうまじめな人なのでは」と使用する人物像の仮説を立ててくれました。
次に40代の男性は、「文字フォントや文体、どういった絵文字や顔文字を使うかどうかの選択は、それらが使用されているコミュニティやカルチャーへの参加表明、もしくは『溶け込めてますよ』アピールではないでしょうか」と使用される背景を指摘します。
「そのすり寄り感というか唐突な仲間意識表明感が、不気味なのでしょう」
「唐突な仲間意識表明感が不気味」というポイントになるほど、と思いました。
とはいえ、「自分も20代の頃、年下の友人とのコミュニケーションにこのようなアプローチをしてしまっていたように思う」とも振り返ります。その時代を経て、いまは、次のような考えに至っているようです。
「ひたすらおじさんらしく年長者らしく、そっけない中にも教養や含羞、優しさが垣間見えるような文体のほうがカッコイイと思う」
別の40代男性は、「『おじさん構文』の世界観はメジャーとは言い切れない」とバッサリ。「一般的に出回っている『おじさん構文』は、男性が接客業の女性に対してアプローチするという、限られた場面を前提としたものが元になっています。『おじさん構文』を使っていた同じおじさんであっても、別の場面で同じような文体を使うかというと疑わしい」といいます。
「おじさん構文」は、特殊な関係性をベースとしたやりとりで使われるもので、その関係性を含めた「総合芸術なんじゃないか」――。
総合芸術たるおじさん構文は、「ノイジーマイノリティー(声高な少数意見)的に光があたり、コンテンツとしておもしろいので、ネタにされる構図がある」と分析します。
元々は一部の「おじさん」が使っている独特な言い回しや、特徴的な絵文字の選び方などを指した「おじさん構文」。先ほど登場した40代男性が指摘する「すり寄り感」と、そこはかとなく感じる「上から目線」も、おじさん構文に感じるメンタリティーです。
ネーミングに「おじさん」というざっくりとした属性が採り入れられたことで、「その他のおじさん」が「自分は違うよ」と反論したい気持ちもあるのだろうなと推察します。
そんな「おじさん構文」は、構文をネタとわかっている人同士が、エンターテインメントとして消費しているからこそ、話題になっているのだと感じます。これはスマホを通じたテキストコミュニケーションが発達した現代だからこそ成り立つ「遊び」でもあるのでしょう。
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