ネットの話題
しめ飾りは各地でこんなに違う! メーカーや詳しい人に聞いてみた
もうすぐ今年も終わりです。年の瀬に、しめ飾りや門松でお正月の準備をする家庭も多いと思います。実は、各地にいろいろな形のしめ飾りが伝わっているのをご存じでしょうか。どのような形があるのか、どのような思いで飾るのか、メーカーや詳しい人に聞きました。
しめ飾りを製造して全国のスーパーやホームセンターに卸している「秀〆(ひでしめ)」(本社・長野県)はこの秋、「全国正月玄関飾り」という資料を公表しました。1980年代からしめ飾りを製造する中で同社が把握してきた、その地域で比較的よく見るしめ飾り7種類を掲載しています。
一部を紹介すると……。
北海道の「宝章飾り」は、かつて寒冷地の北海道では稲作が難しかった名残から、稲わらではなく別の草で代用するのが特徴。広い大地を表すようにサイズも大きめで、ものによっては1メートルになることも。張り子のおかめや鯛など、飾りがたくさんついています。
関東でよく見られる「玉飾り」は、太めの縄を円形にし、わらが下がっています。橙(だいだい)やウラジロなどの縁起物で飾られています。
関西に多く見られるのは、横に綯(な)った縄の下にわらが下がったもの。「ゴボウ」が転じて「ゴンボ」とも呼ばれます。
福岡では鶴をかたどったしめ飾りがよく見られるそうです。
これらはごく一部で、同社の伊藤慎太郎専務は「『山ひとつ隔てると形が違う』という地域もあります」。
そもそも、しめ飾りにはどのような意味があるのでしょうか。
民俗学者の新谷尚紀さんによると、正月には、新しい年の生命力と幸運を運んでくる年神様が家々にやってきます。その年神様を迎える準備のために飾るのが、門松としめ飾りです。門松は年神様がやってくるときのための目印。しめ飾りは、不浄なものが入ってこないように区切り、その場所が年神様が滞在している神聖な場所だということを示しているとのこと。
新谷さんは1970年代初めごろ、正月の様子を記録しておこうと、東京・多摩地区の古くから続く農家を訪れたことがあります。そのときに見たのが、客間をぐるりと囲むようにしめ縄が張られた様子でした。玄関に飾るしめ飾りは「座敷や屋敷をぐるりと囲む代わりに、象徴的にそこだけ縄を張っているということです」と教えてくれました。
なぜ、しめ飾りの形や飾りが各地で違うのかについては、「そこに住む人たちのしめ飾りに対する意味づけや技巧が組み合わさり、伝わるうちに縁起がよいように磨きがかかったのでしょう」。
長年、しめ飾りの調査に情熱を傾けてきた人もいます。グラフィックデザイナーの森須磨子さんは「しめ飾り研究家」として20年以上、正月に各地を巡って調べてきました。土地や集落、家によっても違い、新しい土地を訪れれば必ず新しいしめ飾りに出会うと言います。
2017年に出版した著書「しめかざり 新年の願いを結ぶかたち」(工作舎)には、森さんの収集したしめ飾りの一部が写真で掲載されています。打ち出の小槌や松竹梅、宝船といった縁起物を模したものもあり、精緻な細工が見事です。
中でも、森さんが特に興味をひかれるのが「輪飾り」。細く綯った縄を小さめの輪にしたシンプルな形で、勝手口や水回り、神棚、倉、農具などに飾ります。
俳句や短歌にも登場します。
「三味線に輪飾かけて芸に生く」(中村秋星)
「枕べの寒さ計りに新年の年ほぎ縄を掛けてほぐかも」(正岡子規)
子規は随筆「墨汁一滴」の中で、この句の直前に「その寒暖計に小(ちいさ)き輪飾をくくりつけたるは病中いささか新年をことほぐの心ながら……(略)」と書いており、輪飾りだとわかります。
森さんはこうした輪飾りの使い方から、「年神様を迎える気持ちに加えて、自分がよく使った場所やものに感謝の意味を込めて飾っていたのではないか」と考えます。
「自分はどう過ごしてきたか、何に感謝をするのか。輪飾りは1年を振り返るきっかけになります。飾る場所をいろいろ考えてみるのも楽しいと思います」
しめ飾りを選んで、飾って、街で観察して、と、新しい年を迎えるときに新たな楽しみが増えそうです。
1/11枚