連載
#11 #令和の専業主婦
ポイ活、家事育児…尽きない〝仕事〟 「専業主婦としか名乗れない」
「気づいたら少しずつ仕事を手放していました」
「いまある言葉では『専業主婦』としか名乗れない」――。家事育児の合間を縫って、「ポイ活(アンケートに回答するなどして買い物などに使えるポイントを貯めること)」などで「自分のお小遣いはまかなえている」という女性は、「専業主婦」にこびりついたイメージが実態に合っていないと感じているといいます。
関東地方に住む39歳の女性は、「週1日休めるかどうか」という自営業の夫と、「私一人でゆっくり着替えられないことはしばしば」という、寂しがり屋さんの9歳の息子と暮らしています。
正社員として働いていた女性が専業主婦になったのは、出産後しばらくしてからのことでした。
慣れない子育てに戸惑う日々に加え、自宅から1時間ほどかかる勤務地。育休中も「戻るとしても時短だろうな」という思いを持っていましたが、そこに保育園の壁が立ちはだかりました。
「当時、私の住んでいる地域ではフルタイムで働いていないと保育園に入れないくらい、定員が厳しかった」と振り返る女性。時短勤務で復職したら、子どもを入園させるのは無理だと判断し、職場に復帰することなく退職しました。
退職後しばらくしてから、知人の会社をアルバイトとして週に数日程度手伝っていましたが、「朝からフルスロットル」。その間、子どもは一時保育に預けていましたが、うまくなじめない様子で、結局そのアルバイトも数年前に辞めました。
その後、在宅の仕事を始めましたが、軌道に乗り始めた頃、一時的に子どもが不登校に。「気づいたら少しずつ仕事を手放していました」
「いつか結婚して正社員として働けなくなっても、なにか自分にできることを」と、正社員として働いているうちから、常に何かしらの形で収入に変えられる「副業」のようなものを探す癖はついていたという女性。
女性には、子どもが小さい頃から続けていることがあります。
それが「ポイ活(アンケートに回答するなどして買い物などに使えるポイントを貯めること)」や、モニター活動、オンラインのインタビューに答えることで「報酬」を受け取ったりすることです。
いまは、アンケートに答えてポイントを受け取ったり、そのアンケートをきっかけにメーカーの商品を試したりする「会場調査」に参加することもあり、そこで得た「報酬」に、投資信託で生まれる利益も加えれば「自分のお小遣いはだいたい自分で賄えています」。
子どもが小さいうちは、決まった時間に決まった場所で開催される「会場調査」には行けませんでしたが、子どもが就学してからは行けるように。子どもの長期休み中は自由に外出できないこともありますが、自宅で商品を試すモニター活動には参加することができます。
「意見を伝えることが好きなのかな」と、やりがいを感じていると同時に「一日中家にいるのではなく、外出することが気分転換にもなっている」と話します。
「本当に子どもが小さいときには、ポイ活のようなものすらすることができず、夫からお金をもらうばかりだったけど、好きじゃなかった。自分のお小遣いを稼げているいまの方が気持ちは楽です」
女性が家事育児の忙しい時間の合間を縫って、少しずつポイ活などをする背景には「働きたいけど働けない」という葛藤があります。
「自分の生活の中にうまく組み込むことができるなら働きたい」と考えている女性。
しかし、生活の中心に子どもを据えると、「登校を見送るまでは家にいないといけないし、見送ったあとから身支度、家の片付けをしてから自宅を出ても、子どもが帰ってくるまでに仕事を終わらせないといけない」というスケジュールを想定。
学童や一人での留守番は、息子の性格上難しいと感じている女性は、早ければ13時、遅くとも15時ごろの息子の帰宅時には自宅にいたいと考えています。さらに、帰宅後は宿題をみてあげながらの夕食作りとなり、「その生活の中でできる仕事というのが正直なかなかない」。
自営業の夫からは、仕事を手伝ってほしいという気持ちを感じることもありますが、気が進みません。
食事を作り、掃除洗濯をし、職場に行けば仕事をする――。結婚前に比べて、女性には「やるべきこと」が増えています。
しかし、家族からのフォローが十分にない中で、「そのすべてにおいて完璧なパフォーマンスを求められるため、結婚前同様に社会で働くことがイメージしにくいのです」
家業の特性上、細切れで手伝うことはあまり意味がなく、働くのなら毎日かたまった時間働く必要があり、夫の気持ちには応えにくいと考えています。
外で働くことは物理的、心理的に難しいけれど、細切れの時間ならある。
そこで見つけたのが、ポイ活などで自分のお小遣いは自分で稼ぐという道です。
家事育児をこなしながらも、できる範囲で稼ぐ。そんな、自分なりの道を見つけたはずの女性ですが、「専業主婦」というだけで、周囲からのまなざしが厳しくなるように感じます。
「『専業主婦』という言葉には、『時間やお金に余裕がある』という固定概念がついてしまっている」と女性は話します。「でも、母親業、家事育児、ポイ活などの『副業』……やっていることはたくさんあるんです」
息子は、不登校を経て「一見問題なく」学校に通えるようになりましたが、いまも定期的な学校側との面談や、病院受診があり、「それも私の仕事だと感じていますが、それにも名称がない」。
「いまある言葉で自分をあらわそうとすると、専業主婦以外に名乗れるものがないんです」
そのため、自分を表す、専業主婦以外の肩書がほしいと感じています。
「ただでさえ子育ては大変。そんな中で自分のお小遣いを自分でまかなったりしているのに、『専業主婦』としてしか表現できない。そのことによって暇だと思われていることが不服だと感じています」
「家事育児」という言葉に内包されている仕事が多すぎるのではないか――。
女性の話を聞き、そんなことを感じました。
専業主婦の仕事が「家事育児」と一言でまとめられてしまうことも多いですが、女性の場合は、「家事」の中に含まれるであろう家計管理にとても気を配っている印象です。
さらに、「育児」というと、乳幼児の面倒をみる大変さは理解されやすくなりましたが、就学後も子どものケアは続きます。学校とのやりとりや、習い事の送迎、自宅学習のサポート――。女性の場合は、息子さんが不登校の時期があったり、寂しさを感じやすい性格のため、お手伝いが必要な場面が多岐にわたります。
女性は「余裕があるという固定概念が定着してしまった『専業主婦』以外の肩書がほしい」と話します。
社会は少なくとも専業主婦の実態をしっかりとらえることが必要だと思うと同時に、こびりついたイメージがはがせないのであれば、新たな名称があってもいいんじゃないかと感じました。
1/34枚