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ダイアン、波を引き寄せた同業者からの支持 賞レース組とは違う底力
後輩の愛あるいじり、先輩からも注目
近年、キャリアを重ねた芸人にスポットが当たっている。錦鯉、おいでやす小田とこがけん、かまいたち、チョコレートプラネット、シソンヌ……そんな中、ついにお笑いコンビ・ダイアンが日の目を浴びそうだ。M-1グランプリで注目を浴びたのが2007、2008年。その後、40歳を超えて東京に進出し、くすぶっていた2人がなぜ? そこには、近年のお笑い界で重要な、同業者からの支持という要因があった。(ライター・鈴木旭)
キャリアを重ねた芸人がブレークするきっかけには大きく、二つのパターンがある。一つが「賞レースの決勝を境に露出が増えた組」。そして、もう一つが「ジワジワとメディア出演が増えていった組」だ。
東京での活躍を前提とするなら、ダイアンは間違いなく後者にあたる。中学時代の同級生だった二人は、1999年に大阪NSCの門を叩く。同期には、アイドル的な人気を博したキングコングやNON STYLEらがいた。周りがテレビで活躍し始めた2005年頃、鳴かず飛ばずの二人は解散を考えたこともあったようだ。
しかし、そんな過去を引きずらず、「1年後ぐらいに思い出して、今に至る」と笑って話すところにコンビの持ち味がにじみ出ているような気もする(2019年10月4日に公開された「NIKKEI STYLE」の「お笑いコンビのダイアン 先輩の千鳥を追い全国区へ」よりユースケの発言)。
二人の転機は、2007年、2008年と2年連続で決勝に進出した「M-1グランプリ」だった。知名度が上がったことで、ライブの動員が増え、大阪のバラエティー番組への出演も増加した。2010年代には『本日はダイアンなり!』(ABCテレビ・2013年~)、『よなよな…』(ABCラジオ・2014年~2021年放送終了)といった番組がスタートし、ロケでの振る舞い、ラジオ番組でのトークなど、着実にコンビの実力は磨かれていった。
東京の番組にもたびたび登場し、「ゴイゴイスー」「すぐ言うー!」といった津田のギャグも世間に浸透。ジワジワと知名度を高めた2018年、満を持してダイアンは東京に活動拠点を移す。芸歴18年目。大阪で経験を積み上京した千鳥と同じ路線とはいえ、40歳を超えたタイミングで環境を変える芸人も珍しい。
当時の思いを2019年10月13日に公開された「マイナビニュース」の「ダイアン、18年目ゆえ東京進出すんなり&仕事増! ユースケ改名もプラスに」の中でこう語っている。
「年も年なので。やらないで後悔するよりやって後悔するほうがいいなと思って行こうと」(津田)
「昔から頭にはあったんですけど、マネージャーとかから『行った方がいいんじゃないですか?』と言われたのは大きかった」(ユースケ)
飄々とした雰囲気で淡々とボケるユースケ、追い込まれるほどに面白さを増すツッコミの津田。東京には千鳥という心強い先輩もいる……。二人の未来は明るいはずだった。
しかし、そこには茨の道が広がっていた。2017年の「キングオブコント」で後輩のかまいたちが優勝し、ダイアンと同時期の2018年に東京に進出。ジワジワと頭角を現していく。また同年のキングオブコントでハナコが、M-1で霜降り明星が優勝し、翌2019年から若手の「お笑い第七世代」ブームも到来した。
NEWERAさんの展示会に来た!俺も東京芸人や!おらぁ! pic.twitter.com/XFB229paYw
— ダイアン津田 (@daiantsuda) March 3, 2022
続々とライバルが現れる中で、危機感を募らせていたのだろう。東京に拠点を移した約1年後、2019年3月に放送された『いろはに千鳥』(テレビ埼玉)の企画で、西澤裕介から現在の“ユースケ”に改名している。
当時、ダイアンはコンビとしてよりも、津田単体でバラエティーに出演することが多かった。そんな中で占い師から「(今のままでは)博打的な人生になる」と改名を勧められ、番組のノリもあって決意するに至った。とはいえ、改名後もとくに状況は変わらず。むしろ、M-1で注目を浴びたぺこぱ、マヂカルラブリー、見取り図、ニューヨークなどが躍進するなど、年を追うごとに形勢は厳しくなっていく。
昨年2021年5月には、『ゴッドタン』(テレビ東京系)の企画「もっといけるだろ! 俺たちのダイアン」の中で、コロナの影響もあり津田が東京の自宅を引き払った事実を告白。共演者のさらば青春の光・森田哲矢は、「大阪時代のダイアンさんって西澤さんがキレッキレ。(中略)本当に(千原)ジュニアさんみたいになっていくんじゃないか」と感じていただけに東京進出後とのギャップを嘆き、隣にいた鬼越トマホーク・坂井良多も「ユースケに改名したのも東京の若手は疑問」と首を傾げた。
この企画から読み取れるのは、同業者から実力を認められていること、そして、後輩からどんなイジりを受けても面白くしてくれるという信用だ。“東京でのくすぶり”に焦点を当てるのは、ある意味でダイアンの持ち味を生かすスパイスとも言える。
この種の面白さで思い出されるのは、2018年10月に放送された『有田ジェネレーション』(TBS系)の人気企画「ファンキージェネレーション」だ。お互いの気持ちをぶつけ合いコンビの関係性を良好にする、という企画のもとで「津田の母親が作った卵焼きが大き過ぎる」「ユースケが母親の料理を食べて『ごちそうさん』と言ったことがない」といったラップバトルを繰り広げた場面は、腹がよじれるほど笑ったものだ。
まさに学生時代からの信頼関係、キャラクターのコントラストがあってこそのコンビ芸である。この面白さが別の番組に飛び火しないほうが不思議だった。
そしてようやく、今年に入ってダイアンにスポットが当たりはじめている。
今年1月から初の関東ローカル冠番組『ダイアンのTOKYO STYLE』(TBSラジオ)、4月から民放キー局初冠番組『ダイアンの絶対取材しない店』(テレビ東京系)がスタート。津田個人も『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などで相変わらず存在感を示している。
この流れに至ったのには、いくつかの複合的な要素が考えられる。一つは千鳥やかまいたちと同じく、「ロケやトークの面白さ」が徐々に知れ渡ったことだ。
これに加えて見逃せないのが、ダイアンを支持する同業者の存在である。
たとえば昨年ブレークしたヒコロヒーは、さまぁ~ずのYouTubeチャンネル『さまぁ~ずチャンネル』や著書『きれはし』(Pヴァイン)の中で、ダイアンのラジオ番組『よなよな…』を聴いて以来の大ファンであることを明かしている。
さらには、4月28日に放送された『ダウンタウンDX』(読売テレビ制作/日本テレビ系)の中で、松本人志から「もうちょっと売れてくれよ」と直接伝えられたり、同日深夜放送の『おぎやはぎのメガネびいき』(TBSラジオ)の中で、活動拠点の異なるおぎやはぎと海原やすよ ともこには“ダイアン・津田が好きという共通点がある”といった話題が登場するなど、多くの先輩からも気に掛けられる存在だ。
また、「お笑い第七世代」から派生した「6.5世代」といったバラエティー企画もひと通り落ち着き、昨年のM-1で優勝した錦鯉のように、“後輩から慕われるおじさん芸人”のトレンドと重なったこともあるだろう。
ダイアンのように、同業者から根強い人気を誇る芸人が時を経てブレークするケースは少なくない。
昨年のM-1決勝で注目を浴びたモグライダー・芝大輔は、メイプル超合金・カズレーザーから「俺らはモグライダー・芝さん待ちだからな」と早くからブレークを熱望される存在だった。また、2016年にピコ太郎に扮したYouTube動画「PPAP」で一世を風靡した古坂大魔王は、『ボキャブラ天国』(フジテレビ系)シリーズの盟友である爆笑問題、くりぃむしちゅー・上田晋也らにブレーク前からその実力を認められていた。
大きな賞レースで優勝するような華々しさはない一方、同業者の声に支えられ何らかの成功をつかむところに現代的な特徴が現れている。
地方局でも『ダイアンのガチで!ごめんやす』(群馬テレビ)がスタートするなど勢いに乗る二人。今年こそ大輪の花を咲かせてほしい。
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