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造幣局、まさかのカワイイ路線「1円玉ぬいぐるみ」が担うミッション
「すぐに捨てられない」に注目
私たちの生活に、お金は欠かせません。中でも、特にシンプルなデザインなのが1円玉です。この硬貨を元にした、造幣局公認のぬいぐるみが、まさかの人気を集めています。あえて「可愛い路線」を選んだのは、なぜ? 製造・販売元企業に話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
話題のぬいぐるみは、造幣局本局(大阪市北区)と、さいたま支局(さいたま市大宮区)の売店「ミントショップ」で販売されているものです。
直径約14センチの円の中央には、大きな「1」の文字が。外側に向かって、濃さの異なるグレーの円模様が同心円状に広がり、独特のフォントで刻まれた「令和四年」の文字も見えます。
本物の1円玉そっくりな見た目ですが、表面をふわふわとした繊維に覆われ、何とも柔らかそうです。手のひらサイズであることも相まって、ついなでたくなる衝動に駆られます。
4月中旬、ツイッター上に関連画像が出回ると、「縁まで可愛い」「発行年のデザインは毎年変わるんだろうか」と好意的な反応が広がりました。
ぬいぐるみは、どのような経緯で誕生したのか。2014年以降、造幣局から売店向けグッズの製造・販売業務を受託している企業、オークコーポレーション(東京都渋谷区)の浅野史郎店舗運営部長(40)を取材しました。
浅野さんいわく、ぬいぐるみは今年4月1日に発売されたばかりです。縁部分にチャックがついたポーチと共に、一個800円(税込み)で販売されています。
開発の背景には、硬貨や紙幣に興味を注ぐ人々の多くが年配男性である、という事情がありました。
「50年、100年経つと、関心を持つ人が減ってしまうかもしれない。そんな危機感から、若い人にも貨幣の魅力を伝えたいと、以前から硬貨柄の手ぬぐいやゴーフルを作ってきたんです。ぬいぐるみも、その延長線上にあります」
1円をモチーフに選んだのは、日本経済の根幹を支えるお金だから。造幣局によれば、表面にあしらわれた若木は、戦後の日本社会の成長を表すシンボルです。1955年に公募で決まり、ずっと同じデザインで、若者の支持も得られると考えました。
同社ではミュージアムショップなど向けに、お土産品の開発を行ってきました。これまで蓄えてきた知見を踏まえ、ぬいぐるみであれば、老若男女に受け入れられると判断したといいます。
というのも、ユーザー一人ひとりが、他ならぬ自分のために作られたものと思いやすい、との感触を得ているためだそうです。浅野さんが解説します。
「例えば水族館なら、イルカやペンギンのぬいぐるみを置くと、子どもが触ったり抱きついたりします。お客様からすれば、手に取りやすい。すぐに捨てられない商材なので、造幣局に来た思い出を、長い間記憶してもらえる利点もあります」
実際、1円玉のぬいぐるみは、若い女性を中心に、幅広い年齢層から人気を得ました。孫へのプレゼントにと、高齢の来館者が購入するケースもあり、大いに受けています。
ちなみに浅野さんにとっても、1円玉は最推しの硬貨です。「民主的、開放的な未来を感じさせる、明るくモダンな外観が好き」とのこと。ぬいぐるみについて、パソコンでの作業時、クッションとして手の下に敷いているとも教えてくれました。
ぬいぐるみは売れ行き好調で、本局では完売、さいたま支局でも在庫僅少となっているそうです。浅野さんいわく、既に増産に向けて動き出しました。今後、できれば定番化させ、発行年のデザインを毎年更新したい意向といいます。
「貨幣をよくよく眺め直すと、色々な発見があって面白い。ぬいぐるみが、いつも手もとにある硬貨に親しみを覚え、日々愛し、楽しんでもらうためのきっかけになればうれしいですね」。浅野さんは、そう語りました。
なお造幣局は「この商品を通じて、造幣局に親しみを感じて頂ければ幸いです」とコメントしています。
※本文中「裏面にあしらわれた若木」とあったのを、「表面にあしらわれた若木」と訂正しました。(4月22日)
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