連載
#24 眠れぬ夜のレシピ
「所詮、人は別個体…」悩んだ日はバナナケーキ #眠れぬ夜のレシピ
焼きたてをほおばる背徳感がくれる喜び
厳しい寒さの中にも、木の芽は膨らみ始めています。堂々巡り、思い悩んでしまう夜、SNS作家・午後さんが焼くのは、明日につながるバナナケーキです。「眠れぬ夜のレシピ」、手紙を添えて、お届けします。(漫画・コラム、午後)
午後さんのプレイリスト
眠れない夜。午後さんの身近にあった音楽を教えてもらいました。
あなたの夜の隙間も、少しでも埋められたら、幸いです。
こんばんは、午後です。
真冬まっただ中の今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。昔から、なぜか2月が冬の一番深い時期に感じています。一般に冬と呼ばれる時期は12〜2月。終わりかけの時期であるのに不思議です。「年が明けたというのに、少しも温かくならない……」という懸念からか、または、寒さによって奪われ続けた体力の量が、一番多くなる時期だからでしょうか。
いずれにせよ、今月が終われば春がやってきます。その事実を知っているだけで、じっと耐え忍ぶことができます。
寿命が一年未満の虫……春に生まれ、冬の始まりに死ぬ虫にとって、寒さが到来した世界は、きっと世紀末のように感じていると思います。冬に死ぬ虫は、冬の次にまた春がやって来ることを知らないのです。
だから、季節が循環することを知っていること、厳しさの次には、必ず穏やかさがやって来ることを知っていることは、私の強さになっていると思っています。知ることができる生き物に生まれられて、ラッキーでした。
といいますのも、実はここ数ヶ月あまり調子が良くなかったのですが、最近少しずつ、回復の兆しが見えてきたのです。
なぜ調子が悪くなったのか。そこには細かく見ていくとさまざまなきっかけがあり、それらが重なった結果、悪くなったのだと思いますが、私はそれらの原因をあまり重視していません。
例えば、あの人からの言葉がつらかったとか、あの人からの態度に傷ついたとかがあったとしても、人間には相性や、コンディションの波や、タイミングがあります。また、個人ではどうしようもできない、世界の動きがあります(季節の変化や病の流行など)。それらが複雑に絡み合った結果、たまたま今の自分に悪く作用しただけに過ぎないからです。
逆に、とても良く作用する時も数え切れないほどあります。
最近良かった作用は、店頭に春を感じる商品が陳列され始めて、冬の終わりの気配を感じたこと。手紙が届いたこと。自分が過去に描いた漫画に、少しだけ励まされたこと。今回のバナナケーキの話がそうです。
思春期の黒歴史ノートのようなものなので気恥ずかしくて、自分の漫画を読み返すことはほとんどないのですが、今回コラムを書くにあたって目を通したところほんの少しだけ楽になりました。過去の自分に助けられることもあるのだと、新たな学びがありました。
出口が見えないと感じる悩みや苦悩にぶつかったとしても、私たちは、世界からの作用をバネに立ち上がることができます。冬が終わったら春がやってくるように、苦悩の次には安息を、得ることができるのです。
数ヶ月ぶりのお菓子づくりになりますが、近々バナナケーキを焼こうかと思っています。過去の自分に敬意を込めて、春の到来に祈りを込めて。
それでは、今夜も素敵な夢を見られてますように。おやすみなさい。
午後
SNS作家。2020年5月からTwitterに漫画を投稿をしている。著書に「眠れぬ夜はケーキを焼いて」、「眠れぬ夜はケーキを焼いて2」(ともに、KADOKAWA)がある。Twitterアカウントは@_zengo。
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