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あなたのまわりの「絶滅危惧動作」100個集めて一冊に

CDをセット・辞書をひく・体温計を振る…作者も予想しなかった事態「乾杯まで…」

絶滅危惧動作図鑑=祥伝社提供
絶滅危惧動作図鑑=祥伝社提供

目次

そういえば、最近あまりしなくなった「動き」ってありませんか。例えばスマートフォンの普及で、写真撮影も、調べ物も、音楽を聞くことも、指先を動かすだけでできるようになりました。でも、それとともに「シャッターを押す」「辞書を引く」「CDをセットする」といった動作をあまりしなくなったとも言えます。グラフィックデザイナーの藪本晶子さん(27)がこの度、そんな動作を集めた「絶滅危惧動作図鑑」を出版しました。どんな思いがつまった図鑑なのでしょうか?話を聞きました。

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「動作の数=モノの数」 ということは・・・

絶滅危惧動作をあつめた藪本晶子さん
絶滅危惧動作をあつめた藪本晶子さん

藪本さんが最初にこの「絶滅危惧動作」に注目したのは、通っていた東京芸術大の3年生時の授業の課題でした。「何かたくさんやってみる」という最初の課題で、藪本さんは街中にいる人の行動のスケッチを描きました。すると、次の課題は「たくさんやったこと」から新たな発見を見つけ、作品にするというものでした。藪本さんは100個のスケッチをもとに「モノの数だけ動きがある」ということを発見。と同時に、こう感じました。

「スマートフォンのように1個のモノでいろんな用途ができると、モノ自体が減る。すると、動作が減るのではないか」

生活様式の変化や新しい発明でモノがなくなったとしても、博物館などに資料として残ります。でも、それを使う人の動作は消えてしまう。そんな気づきから「動作」に焦点を当てて、冊子にまとめて作品にしたのです。

大学時代につくった作品(左)と、今回出版する「絶滅危惧動作図鑑」
大学時代につくった作品(左)と、今回出版する「絶滅危惧動作図鑑」

記者がこの絶滅危惧動作図鑑と出会ったのは、藪本さんが学園祭で作品を展示したときでした。記事で紹介すると反響は大きく、テレビ番組などでも紹介されました。その後も元号が「平成」から「令和」に変わった時に再びメディアに取り上げられるなど、たびたび話題に。大学卒業後は広告関係の会社に就職した藪本さんは会社の先輩の勧めもあり、今回出版することにしました。

「ネイティブ」の人との話題の種に?

もともと大学時代の作品で57個の絶滅危惧動作をまとめていましたが、今回出版するにあたり収録された動作は約100に増やしました。紹介される動作のイラストは、藪本さんが改めて描き、動作の説明や藪本さんが感じたことなどが綴られています。

【ゴマをする】決して上司のご機嫌を伺うことではない(こちらは絶滅しそうにない)。すり鉢とすりこぎを使って食材をすりつぶす動作のこと。フードプロセッサーなど、食材をすりつぶす便利な道具が当たり前のように使われ始めたことで、わざわざ「すり鉢」という道具を使うこともなくなった。
絶滅危惧動作図鑑より

紹介される動作には、藪本さんが実際にほとんど見たことのない動作もありました。例えば「うさぎ跳び」は見たことがなかったため、アニメ「巨人の星」などを参考にしてイラストを描いたといいます。本の後半には、みうらじゅんさんとの対談を掲載。対談で気づいたことは、「この本に書いてある絶滅危惧動作を基本形とした亜種みたいなものがあるかもしれない」ということだったそうです。

「みうらさんから『寝たまま電気を消せるように紐を長くする』という話を聞きました。ただ、それはその暮らしをしていた人じゃないとわからない。ネイティブ(動作を実際にしていた)の人に聞けば、そういう動作が出てくるかもしれません」

コロナ下で「絶滅危惧度」が加速?

「印鑑を押す」や「名刺交換」といった絶滅危惧動作が紹介されている
「印鑑を押す」や「名刺交換」といった絶滅危惧動作が紹介されている

本の中で紹介されている絶滅危惧動作の中には、コロナ禍を経て見られなくなった動作もあります。例えば「買い物をする」。これは、藪本さんが学生時代につくった作品の中にも項目としてありましたが、「なくなってもおかしくないよね?」というSFぽいイメージだったといいます。ただコロナ禍の感染予防対策として、外出を自粛したり、通販での買い物を増やしたり、と買い物をする回数が減ったため、あまりしなくなったものでもあります。

「大人数で乾杯する」も、もともとは若い人たちが飲み会に参加しなくなるというイメージでした。しかし、コロナ禍で飲食店での酒類の提供が制限されていたことなどから、藪本さんは想像以上に早く絶滅危惧化した動作だと分析します。

「テレビのチャンネルを回すとか、昔の動作の減少スピードとは全然違う、すごく早いスピードで頻度が減っていると思います。ただ、コロナ禍で減った動作には、通勤みたいになくしたい動作も、飲み会のように戻したい動作もあるので、扱いは難しいところです」

本に書かれている絶滅危惧動作について、藪本さんは、あくまで20代の自身がイメージしているもので、ネイティブの人からは若干違うというところもあるかもしれない、といいます。また、「これらの動作を保護したいというわけではない」とも。「便利になることは当たり前だし、たぶん、止められないこと。なくなって困るわけじゃないけれど、知ることでちょっと豊かになった気分になってもらえたら良いと思います」。

絶滅危惧動作図鑑を出版した藪本晶子さん
絶滅危惧動作図鑑を出版した藪本晶子さん

この本を通じて、実際に動作をしたことがある人との会話の種になったり、書かれていない絶滅危惧動作を探したりするツールとして使ってほしいと語ります。身の回りにある絶滅危惧動作、みなさんも考えてみてはいかがでしょうか?

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