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ネットの話題

何か知らんが可愛い! 浮世絵の幻獣をぬいぐるみ化 制作者の思い

美術館とコラボ開発し、話題が沸騰

石から生えた、虎の脚と尻尾……。愛嬌あふれる「獣」のぬいぐるみが、話題をさらっています。
石から生えた、虎の脚と尻尾……。愛嬌あふれる「獣」のぬいぐるみが、話題をさらっています。 出典: フェリシモ提供

目次

江戸時代に流行し、現代でも根強い人気を誇る浮世絵。その平面世界を飛び出し、ぬいぐるみになった「幻獣」がいます。名前は「虎子石」です。正体不明な存在ながら、立体化されるやいなや、SNS上を中心に話題が沸騰しました。「原画となった作品の魅力を伝えたい」。そんな思いで、収蔵元の美術館とコラボしたという開発担当者に、話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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道端ですくっと立つ「珍獣」

そもそも、虎子石とは何なのでしょうか? 「すみか」としているのが、江戸時代の浮世絵師・歌川芳員(よしかず)が、嘉永6(1853)年に描いた「東海道五十三次内 大磯 をだハらへ四り」です。

画面右下を見ると、両脇に抱えられるくらいの大きな石から、虎の四つ足と尻尾が生えた珍妙な生き物が、道端ですくっと立っています。

顔を前方にツンと突き出し、周囲では驚いた男性がひっくり返ったり、女性が苦笑しつつのけぞったりと、大騒ぎです。

目と口も描かれ、どことなくいたずら好きに見える虎子石。絵を収蔵する太田記念美術館(東京都渋谷区)によると、「虎御石」の表記でも親しまれてきました。

神奈川県大磯町の延台寺には、子授けや厄除けの縁起物として、同名の平らな石がまつられています。芳員は、この石に着想を得て、獣の姿で作品に登場させたと言われます。

歌川芳員「東海道五十三次内 大磯 をだハらへ四り」嘉永6年(1853)9月 四ツ切判錦絵 太田記念美術館蔵
歌川芳員「東海道五十三次内 大磯 をだハらへ四り」嘉永6年(1853)9月 四ツ切判錦絵 太田記念美術館蔵

そして今年9月、この謎めいた存在がモチーフのぬいぐるみの、商品化が発表されました。

生活雑貨を手掛けるフェリシモ(神戸市)が生産し、ラインナップは2種類あります。手のひらサイズのポーチと、膝上に載せられるクッションです。

ポーチは幅約8センチ、高さ約8センチ。灰色と白で着色された胴体はポリエステル製で、ふわふわした触り心地です。虎柄の脚と尻尾も再現され、立たせることができます。胴体後方のチャックを開くと、口紅やピンセットなどの小物が入ります。

一方のクッションは、幅約16センチ、高さ約14センチと、より大柄です。猫科の動物をイメージした、脚を内側にたたんで座る「香箱座り」スタイルが、愛くるしさを一層引き立てています。内部に湯たんぽを挿入し、温めることも可能です。

ぬぼーっとした表情が印象的な、虎子石のポーチ(上)とクッション。
ぬぼーっとした表情が印象的な、虎子石のポーチ(上)とクッション。 出典: フェリシモ提供

大ファンだった開発担当者

「何だか知らんが可愛い」「これはプレゼントされたい」。SNS上では、即座に商品画像が拡散され、早くも好評を博しています。

強烈な個性を放つ虎子石ですが、決してメジャーなキャラクターとは言えません。取り上げるに至った経緯について、フェリシモミュージアム部の企画担当者・近藤みつるさんに聞きました。

きっかけは、近藤さん自身が、太田記念美術館の大ファンだったことだといいます。

「美術館の公式ツイッターアカウントでも、よく情報収集していました。その画像が、虎子石だったんです。そのため、面白い見た目の生き物だな、という認識がありました」

「あるとき、私が属するミュージアム部で、絵画の中の動物にフォーカスしたグッズを作る企画案が持ち上がりました。絵師の創作力や、浮世絵の楽しさを知ってもらうきっかけになる。そう考え、虎子石を採用することにしました」

今年4月、太田記念美術館側に商品の監修を依頼したところ、快諾してもらえました。新型コロナウイルス流行に伴い、各地に緊急事態宣言が出ていた事情もあり、サンプル品を郵送して仕上がりを確認するなど、工夫しつつ開発を進めたそうです。

ポーチは手のひらに載るくらいの、愛らしいサイズ感。
ポーチは手のひらに載るくらいの、愛らしいサイズ感。 出典: フェリシモ提供

「愛される商品」にすること目指す

造形化にあたり目指したのが、「愛される商品にする」ことです。最終的には浮世絵の鑑賞者や、美術館への訪問者増につなげたい、との思いが背景にあります。

例えば原画を確認すると、石の表面の色合いが濃くなっています。灰色と白の境目も明確ですが、ぬいぐるみには、あえて淡いカラーリングを採用。輪郭をぼかすことで、見た目にも柔らかさを演出しました。

また表情についても、いかめしい印象とならないよう、目の角度や眉の上がり方を調整しています。更に「一目見て驚いた後は、なでてもらいたい」と、思わず手に触れたくなるような、快い触感を追求したそうです。

「猫がリラックスした時にしか見せない、香箱座りをクッションに採り入れたのも、使う人に安らいで欲しいと思ったから。美術館側とも、何度も議論して決めました。容姿の再現度以上に、解釈や意図を大切にしています」

合わせて、虎子石が持つ歴史的経緯にも親しんでもらうため、商品に解説シートも同梱することにしました。延台寺の「虎御石」にまつわる伝承など、ポストカード大の用紙に関連情報をまとめています。

膝の上にクッションを置いてなでると、まるで本物の動物のように思えるという。
膝の上にクッションを置いてなでると、まるで本物の動物のように思えるという。 出典: フェリシモ

浮世絵の魅力知り、日常豊かに

商品情報の公表以降、フェリシモのユーザーからは、驚きと歓迎の声が相次ぎました。浮世絵ファンにも温かく受け入れられたといいます。

こうした反応を受けて、近藤さんは、次のように語りました。

「一番伝えたいのは、歌川芳員のユーモアと、浮世絵の面白さです」

「特に浮世絵には『憂き(つらい)世をうきうき浮かれ、楽しく過ごそう』との願いが込められています。そうした点について知り、日常を豊かにするきっかけにして頂けたら、うれしく思います」

虎子石ぬいぐるみの価格は、ポーチが2310円、クッションが3850円(それぞれ税込み)。現在予約受け付け中で、11月分(10月下旬~11月下旬)からの発送となります。詳細は、フェリシモの販売ページをご参照ください。

【関連リンク1】虎子石ポーチの販売ページ
【関連リンク2】虎子石クッションの販売ページ

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