地元
選挙取材で味わった「異世界」感 主役は男性だけ? スーツ姿ずらり
「女性だから覚えちょったよ!」と言われても……
政治の世界は「異世界」のよう――。衆院選に向けて、自民党の大物議員らがしのぎを削る衆院山口3区で取材をしている私は、こう感じてきました。会場には自分の父親と同年代の男性たちがいても、若い世代や女性はいない。候補者の言葉にときめくことも少ない。この違和感はどこから来るのだろう。このままでよいのだろうか。その源を考えてみたいと、取材を始めました。(朝日新聞山口総局・太田原奈都乃 26歳)
全国でも有数の注目区となりそうな山口3区の取材に加わって半年。北は日本海から南は瀬戸内海の広い選挙区内をまわり、候補者や関係者の話から最新の情勢が少しずつ見えてきても、自分の中の「異世界」感は解決できていません。強まっている気もします。
7月15日。山口3区で「大票田」とされる山口県宇部市で集会がありました。
会場には、ずらりと並ぶスーツ姿の男性。年代は私の父親と同じくらいか、さらに年上に見えます。同じくらいの若い世代は数えるほどだけでした。
これまでに経験したことのない空間でした。
山口3区の現職は、次に当選すれば11回目となるベテランの河村建夫元官房長官(78)です。そこに、「将来の総理総裁をめざす」と、林芳正元文部科学相(60)が参院議員を辞めて立候補すると表明しました。立憲民主党からは新顔(選挙報道では、その選挙で当選したことがない候補者を「新顔」といいます)の坂本史子県連副代表(66)も立候補に向けて選挙の準備を進めています。
河村氏と林氏の対立の背後には、それぞれが所属する自民党内の派閥「二階派」と「岸田派」の争いがあります。
東京・永田町で繰り広げられる政争が、ここ山口3区の政治を動かす。そのことを知った時、目の前にある山口3区の現場が遠ざかっていくような気がしました。
入社から2年半。初任地の盛岡総局では、東日本大震災で家族を亡くした人を取材しました。取材からの帰り道、自分の命、自分の大切な人の命を守るためにできることは何だろうと考えました。
今年4月、山口総局に転勤となりました。海へ行くと、海岸に流れ着いた大量のごみがありました。環境問題はこんなに身近にあったんだと知り、毎日のごみの出し方を見直しました。
新聞記者の仕事に就いたことで、取材で知った出来事を「私」の問題として考える時間が増えました。
だけど、山口3区の取材現場は半年たっても「遠い世界」のままです。候補者の言葉に、正直に言うと、ときめくことは少ない。いつもより身構えて取材に向かい、仕事が終わるとホッとする。
「取材が足りないだけかもしれない」。私の率直な感想を、山口総局のデスクや先輩記者に言うのにはずっとためらいがありました。
でも、ふとした時「私はこの違和感をどうにかしたいんだった」と思い直します。
9月28日夜。選挙区内での取材中、地元の市議会議員に鉢合わせました。市役所で一度話したことがある議員でした。
「あーあなたね、女性だから覚えちょったよ!」
「覚えててくださってうれしいです」と私。
そう言ってから考えました。女性だから?
翌29日。東京で自民党総裁選があり、国会議員の決選投票がテレビ中継されているのを見ていました。会場には、男性の議員が圧倒的に多い。
ツイッターを開くと、海外メディアの女性記者が投稿していました。私が見ているのと同じ中継画面の写真に添えて、「Where are the women(女性はどこ)」というつぶやき。
私がぬぐえないでいる「異世界」感は、山口3区だけの話ではないのかもしれない。この違和感はどこから来るのだろう。このままでよいのだろうか。
熱気づく山口3区の行方を追いかけながら、私自身の違和感とも向き合って、もう一度考え直してみようと思います。
#若・記者が見る衆院選 ずっと踏み出せなかったツイッターですが始めてみました🏃🏻♀️同期記者4人で企画を始めます。7月から話し合って、今日から10月。私は「衆院山口3区」取材での悩みがテーマです。 pic.twitter.com/fSvdUZg8GH
— 太田原 奈都乃 (@natsuno_otahara) October 1, 2021
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