ネットの話題
SNSで人気爆発「ホタテ水着」青森の水産業者、極めてまじめな動機
きっかけは震災、ふるさと納税の返礼品に
一風変わったアイテムが、SNS上で話題をさらっています。ホタテの貝殻で作った「水着」です。まさかの発想に、度肝を抜かれる人々が続出。その注目度たるや、地元自治体が、ふるさと納税の返礼品に採用したほどです。一体、どのような経緯で実現したのか? 開発者である、青森の水産業者社長に話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
「この度、むつ市ふるさと納税返礼品に、阿部商店の『ホタテ水着』が登録されました」
今月23日、一枚の写真が、そんな文言と共にツイートされました。
凪(な)いだ海を背景に写るのは、マネキンのトルソー。その両胸と下腹部を、青いリボンで固定された、計3枚のホタテの貝殻が覆っています。
この製品は、青森県むつ市の水産事業者・阿部商店(@hotateyasan)が手がけたものです。一連の投稿を通じ、ふるさと納税制度の返礼品として、同市が正式に採用したことを報告しています。
あまりにシュールかつ大胆な「水着」のデザインに、コメント欄には驚嘆の声が相次ぎました。「思わずカートに入れそうになる」「素晴らしい破壊力」「青森のホタテは本当においしい」。28日時点で、4万近い「いいね」もついています。
この度、むつ市ふるさと納税返礼品に阿部商店の「ホタテ水着」が登録されました。むつ市には、下北牛・ほたて加工品・海峡サーモン・ストッキング等魅力的な返礼品がたくさんございます。これを機会に少しでもむつ市の事を知って頂ければ幸いです。https://t.co/0vmM95lW8E pic.twitter.com/aZyuDWoZkI
— アヴェマナヴ (@hotateyasan) September 22, 2021
頭の中にイメージが上ることはあっても、よもや商品化はされまいと思われた、ホタテ水着。SNS上を震撼(しんかん)させた一品の誕生秘話について、阿部商店の阿部学社長(49)を取材しました。
阿部さんによると、開発のきっかけは、10年半前に起きた東日本大震災です。発生後、レジャーで東北地方一円を訪れる人々が激減しました。同市も、その余波を受けてしまいます。
当時、市内の観光客向け施設で働いていた阿部さんは、頭を悩ませました。暗いニュースが飛び交う中でも、地域をもり立てたい。そう考えていた、ある日のことです。郷土食「みそ貝焼き」に使う地元特産のホタテの貝殻が、大量に余っているのに気付きます。
「みそ貝焼きとは、ホタテの貝殻にみそや野菜を入れ、直火であぶるメニューです。施設内の食堂で、定食として提供していました。しかし客が来ず、使えない貝殻がたまる一方だったため、何とか活用できないかと考えたんです」
均整の取れた外観から、自然と思い浮かんだのが、水着に加工するアイデアでした。縁に電動ドリルで穴を開け、表面を漂白・研磨。ひもで結わえたら、見事なビキニの完成です。同年7月にネット販売すると、テレビの取材を受けるほど、注目を集めます。
「一時かもしれないが、故郷の食材がクローズアップされた」
震災を機に独立し、自らの店を構えたばかりの阿部さんにとって、この体験は忘れがたいものとなりました。以降も全国から注文が舞い込み、年間に平均で100セットほど売れ、約500セット出荷した年もあったそうです。
そして今年8月、更なる転機が訪れます。青森県内を、豪雨が襲ったのです。
阿部さんが住む、むつ市大畑町地域は、特に甚大な被害に見舞われました。近隣を流れる大畑川が増水、橋を押し流したり、複数の住宅を浸水させたりした影響で、いまだ復旧作業に追われる取引先もあるといいます。
こうした中、阿部さんは地域振興策として、再びホタテ水着の活用を思い立ちました。自社で販売している他のホタテ製品などと合わせ、ふるさと納税の返礼品に取り上げてもらうよう、同市に掛け合ったのです。
前例がないであろう発想でしたが、むつ市シティプロモーション推進課の山崎学課長は「ぜひに、と二つ返事でお願いしました」と笑います。
「私たちとしては元々、寄付額と、自治体のファンを同時に増やしたいと考えていました。そのためには寄付の間口をひろげ、新たな寄付者を獲得する必要があります。その点で、非常に幅広い層の注意を引けると感じました」
「当市には海産物やお肉、果物など、豊富な資源がありますが、他の自治体もブランドとして掲げているのは事実。その点、地元のホタテをPRしつつ、返礼品としても差別化できます。いわば〝トリッキーな飛び道具〟ですね」
ヒットの予感は的中します。阿部さんが9月23日、ツイッター上で商品画像を紹介して以降、26日までに85件ほど申し込みがありました。山崎さんは「これから、別の特産品にも目を向けて欲しい」と願っているそうです。
多くの人々が知るところとなった、ホタテ水着。全国区の知名度を誇るだけに、阿部さんの元には、賛否両論が届いているといいます。
「『故郷の恥』という批判を、市民の方からいただくこともあります。でも、寄せられた感想の9割方は、好意的な内容です。『地域の魅力を知ってもらう間口としては、最高のアイデアだね』といったものも、少なくありません」
「感想が来るのはうれしい一方、あえて正面から受け止めすぎないようにしています。何よりも、むつ市の存在を対外的にアピールしたい。それが全てですね」
阿部さんによると、妻と共同で作業にあたり、一日に完成させられるのは最大10個ほど。これから、海産物の加工と並行し、受注した分の対応を進めていくということです。
今回の一件で、商品に興味を持った人々に対して、伝えたいことはありますか――。最後にそう尋ねると、「恐らく、水着としては使いにくいかもしれませんが……」と苦笑しつつ、次のように語りました。
「ホタテ水着は、あくまで市の魅力を伝える入り口の一つに過ぎません。これを機に、地元の美しい風景を始めとした、様々な資源に触れて頂けたら、ありがたく思います」
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