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しゃぶりつきたい!アイス再現ブックカバー 背景に書店の切実な事情
「仕掛け人」が明かす「競争より協業」という思いの意味
暦の上では秋となり、ようやく涼しい日も増えてきたものの、まだまだ厳しい残暑が続いています。そんな中で注目を集めているのが、とあるブックカバーです。アイスキャンディーを〝完全再現〟した見た目が、何とも涼しげ。全国各地の書店で配布され、目にも爽やかと人気を呼んでいます。アイデアを考案したのは、大阪の本屋さんです。きっかけについて尋ねてみると、業界の課題解決に向けた、切実な思いに行き当たりました。(withnews編集部・神戸郁人)
話題のブックカバーは、全部で6種類存在します。
例えばスイカ柄は、淡く赤い下地に、マーブル状の模様と、水滴のような形の種が描かれています。下側に縞(しま)模様の皮も配され、あまりのみずみずしさに、思わずしゃぶりつきたくなるほどです。
近年人気のチョコミント柄も。水色を基本として、チョコチップを模したふぞろいな大きさの点が、あちこちに散らばっています。トロリとした質感のクリームも再現され、まさしく本物志向といった趣です。
これ以外にも、抹茶風、チョコスプレー風、フルーツ風など、どれも実に個性豊か。ブックカバーに加え、軸をイメージしたしおりも付いており、組み合わせれば臨場感が一層高まります。
「仕掛け人」は、大阪市鶴見区の正和堂書店です。元々はパン屋として開業し、店内に併設していた書籍コーナーを独立させ、現在の形になりました。今年で、創業51年目を迎えます。
今回のブックカバーは、同社が発案・製作したものです。「競争よりも協業を!」というスローガンで配布プロジェクトを立ち上げ、各地の書店に提供した経緯があります。
実施の背景について、元美大生で、デザイン担当の小西康裕さん(35)に聞きました。
「いまは毎日、200点くらいの新刊が発行されています。しかしそのほとんどが、お客さんに知られないまま、店頭から消えてしまう状況がありました。そこで2017年、インスタグラム上での書籍紹介を始めたことが、元々のスタートです」
合わせて、来店の動機をつくりたいと、オリジナルブックカバーを開発します。アイスキャンディー風や焼き芋の包装袋風といった、季節に合わせたデザインのほか、富士山などをモデルとした15種類ほどを手掛けました。
やがてSNS上で人気を呼び、国内外から問い合わせや来訪者が殺到するように。ウェブショップでの販売を開始すると、飛ぶように売れたといいます。
一方、新型コロナウイルスの流行後は、遠方からの来店が難しくなるという問題が生じます。またネット書店の台頭や、本離れの進行によって、同業他社の閉店が止まらない状況も気がかりでした。
そこで小西さんは今年4月、全国の「本屋さん」を盛り上げたいと、ブックカバープロジェクトを始めます。
デザインは、過去に最も好評だった、アイスキャンディー風の柄を採用。関連費用をクラウドファンディングで募り(既に終了)、約1ヶ月間で145万円ほど集まりました。
配布にあたっては、表紙のイラストを2種類増やしました。更に、知人の協力も得て、様々な工夫を凝らしています。
表面にあしらわれていた「seiwado.book.store.」は「BOOKSTORES」に変更。巨人の肩の上で、朝日を見つめる人物を描いたロゴも添えました。物理学者ニュートンの格言をモチーフに「新しい発見・書店の新しい未来」を図案化したものです。
各書店に対しては、正和堂書店側から配布を打診しました。プロジェクトの趣旨に賛同した書店が、自ら参加を申し出たり、出版取次業者が店舗を紹介してくれたりしたこともあります。そして8月、店頭での取り扱いが始まったのです。
「お陰様で、ツイッター上では関連画像に20万近い『いいね』がつき、開始翌日に配布終了となった書店もありました。反響の大きさに驚いています。『競争よりも協業を!』という言葉に、一般のお客さんも共感してくださったのが意外でした」
出版社や書店目線ではなく、みんなで一緒に作り上げる――。そんな立て付けだったからこそ、プロジェクトは人々の支持を集められたのだと、小西さんは考えているそうです。その上で、次のようにも語りました。
「ネット上で自分の意見や考えを伝えるときは、他のユーザーの目を気にして、どこかよそ行きの文章になってしまいがちです。反面で、本は良い意味で閉鎖的。著者本来の言葉や文章で情報が伝わるため、多様性に満ちていると感じます」
「今回のキャンペーン自体が、書店全体の売り上げを底上げするとは思っていません。しかし、出版業界を盛り上げていくための、一つのきっかけになればいいな、と考えています」
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