ネットの話題
「チャット小説」が作る新たな物語市場 スマホの〝細切れ時間〟狙う
「同じ読者でも生活の場面によって読みたいものが違います」
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「同じ読者でも生活の場面によって読みたいものが違います」
Z世代を中心に人気の高まっている「チャット小説」。まるでLINEを読んでいるような感覚で、タップするたびに会話が進んでいくUI(ユーザーインターフェース)に、若者はどうして引きつけられるのでしょうか。そして、紙の小説文化との親和性は。アプリの運営会社に狙いを聞きました。
2017年7月に始まったチャット小説アプリ「TELLER」は、これまでに600万ダウンロードされている、国内で一番古いチャット小説アプリです。ユーザーは女性6割、男性が4割で、16~24歳でユーザーの約7割を占めます。
公表されている各SNSのユーザー層と比較すると、「TikTokとほとんど同じ年齢構成になっている」という「TELLER」。
サイトオープンの狙いや、現在、どのようなユーザーに支持されているのかなどを「TELLER」を運営するピックアップ株式会社の代表・蜂谷宣人さんに聞きました。
――サイトを作ったきっかけは。
私たちは出版社ではないので、元々コンテンツの資源があったわけではありません。まったく新しい世代に、まったく新しい作り方でコンテンツをつくることを目指してやってきました。
銀幕のスターとして高倉健さん、テレビのスターとして明石家さんまさんが生まれたように、プラットフォームが変われば芸も変わるし、UIがチャットになったコンテンツでは違ったスターが生まれるのではないかと思いました。
「公式」に書いている作家さんの中には、元々紙で書かれている人もいますが、TELLERで初めて書く人もいます。このプラットフォームだからこそスターになれた人もいるのではないかと思います。
――サイトにアクセスするデバイスは何が多いですか?
圧倒的にスマホで、8割を占めます。ただ、iPadも多く、これは、小中高生が保護者の端末で読んでいるのではないかと想像しています。
――Z世代のユーザーが多いですが、その親和性はどう考えますか。
Z世代はなかなか長文が読めないことが多いです。
というのも、多くの若者が持っているスマホには、通知がどんどん来る。文字数自体は画面越しにたくさん読んでいるはずなんですが、通知によって集中力が分断されるんですよね。
TELLERは短文の会話を読んでいるようなUIです。それであれば、集中力が長く続かなくても細切れの時間を使って読むことができます。
それに、タップするごとに短い文章や会話が出てくるようになっているので、読むペースを自分でコントロールできます。読みたいタイミングで始めたり止めたりすことができ、本当に少しの隙間時間でも読めるかたちになっています。
もし動画だった場合、途中で切ってしまうとその前の文脈を思い出すのが大変ですが、テキストだとすぐに文脈を確認できる。それもいいのだと思います。
――TELLERに投稿されている小説は比較的ライトなものが多いですが、思い返せばこのような文体はいつの時代も若者から支持されてきた気がします。
妄想を小説にして、誰かに読んでもらいたいという現象は、昔なら「ケータイ小説」みたいなかたちで表れていましたが、その見え方が変わったのがチャットUIなんだと思います。
違いは、それが長文から対話型になったこと。
そもそも、彼らのリアルな生活でのやりとりは、メールや手紙ではなく、LINEなどのチャットUIで行われています。だからこそ、チャット小説に共感できるのだと思います。
――やりとり、という意味で言うと、TELLERは会話で物語が進行していく面が強く表れているように思います。
ケータイ小説を読むとき、会話だけ拾い読みしてませんでしたか?それがやりやすくなったんだと思います。
TELLERでも、ト書きはもちろんありますが、会話がメインです。読んでいて、グッと考えるのではなく、よりさくっと入り込める仕掛けをつくっていて、労力を費やす必要がないことを大切にしています。
――そうなると、チャット小説の形式だと抜け落ちてしまう表現があるのではないかと心配になります。
情景や人の描写を描くト書きが抜け落ちがちです。TELLERではト書きを入れることもできますが、それが長文になると読むのが大変で、先ほど話したように「サクッと入り込める仕掛けを作る」という目的には向いていません。
文芸作品だと、隠喩とか、情景と心理描写をリンクさせたりできますが、チャット小説では表現しづらいものもあります。
また、文芸だと比喩表現を使うことがありますが、ライトノベルだと直接的だったりして、ビジュアルを明確に表現しています。それはチャット小説も同じです。
一方で、それをイラストを入れることだったり背景の画面を変えたりすることで視覚表現で表現の幅を担保する工夫をしています。
――Z世代が使うアプリという点でいうと、TikTokも挙げられると思いますし、ユーザー層の分布もほぼ一致しているというお話もありました。相性はいかがでしょうか。
実は、TikTok内で「テラー」と検索すると、1億再生分の投稿があります。
投稿を見ると、TELLER内の一般投稿で自分のオリジナル小説を作ったあと、それを画面レコーディングしたものを、TikTokで投稿しています。TikTokでは画面レコーディングした動画に音楽を乗せることができるので、その相性のよさもあると思います。
また、TikTokでもその投稿がバズると、TELLERでの「いいね」と合わせて承認欲求が満たされるのではないでしょうか。
――紙で読むような、縦書きの小説文化との兼ね合いはいかがでしょうか。
「物語」というくくりでは一緒だけど、対象ユーザーのニーズが違うと考えます。
極論を言うと、まったく同じ読者でも生活の場面によって読みたいものが違います。
例えば、寝る前に読むのは本だけど、電車での移動中に読むのはTELLERだったりするなど、隙間時間で読んでいるものと、まとまった時間で読むものを使い分けているのだと思います。
《TELLERは5月、25歳までのユーザー112人を対象にアンケートを実施。本を購入するときに紙で買うか電子書籍で買うかを尋ねると、91%が紙で購入すると回答。「紙の本の方が物語の世界に深く入り込める感覚がある」などの理由があった》
新しいフォーマットは、どこかと食い合うことはないんだなと感じています。
また、小説とチャット小説では構成も異なります。小説の本は、前払い式だと思っています。文章構成も、チャプターごとに引きを作るというよりも、小説全体を通して魅力がある。
ですが、チャット小説は、「モバイル」で「チャットUI」で読みます。
そうすると、読んでいる間も別のアプリからの通知があることが想定されます。そのときに一度TELLERを閉じた後も読み続けてもらうためには、続きが気になる仕掛けが必要です。
最近はマンガアプリなどもたくさんありますが、大事にしていることは同じで、「一つ一つのコンテンツの引きを強くする」ということと「続きが気になる構成にする」ということです。モバイルコンテンツは、すべてにおいて同じことが言えると思います。
《TELLERのコミュニティ運営やSNS運用をしている、自身も20歳の田代蒼流さん》
小学3年生からスマホ使っています。小さい頃からYouTubeを見て育ってきて、学校の授業でも、科目によっては映像を多用するものありました。小説などを読むとき、中高生の頃は本を買っていました。ですが、いまは友人などとの共通の話題がすべてスマホから流れてくるので、何かのコンテンツを利用するときはスマホがメインです。通知音で集中力が切れることもあり、細切れの時間を自覚することがあります。
TikTokとTELLERの相性の良さは「短いコンテンツ」というところにあると思います。また、タップして流れていく物語のテンポと、BGMで流れていく音楽がマッチしているのではないでしょうか。
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