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劇団ノーミーツが「会わない」をやめた Zoom演劇が試した5時間中継

特別公演『夜が明ける』の一シーン=劇団ノーミーツ提供
特別公演『夜が明ける』の一シーン=劇団ノーミーツ提供

目次

「会わない」というルールは無くしていってもいい――。Zoom演劇で一躍有名となった「劇団ノーミーツ」が今年のGWで行った特別公演は、深夜0時から日の出までの海辺を舞台にした物語でした。3度目の緊急事態宣言が発令され、「ノーミーツが今できることは」という結成の原点に立ち返りつつも、表現は時代に合わせてアップデート。わずか10日間でできあがった公演は、これからの劇団の姿勢が詰まったものになりました。作品はどのように生まれたのか。中心となったスタッフに話を聞きました。

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『夜が明ける』の制作背景について語る劇団ノーミーツのスタッフ
『夜が明ける』の制作背景について語る劇団ノーミーツのスタッフ

海辺で夜明けを待つ物語を生配信

特別公演『夜が明ける』は、5月5日0時からYouTube LIVEで無料上演されました。真夜中の海辺でたき火をしながら「夜明けを待つ」男のもとに、4人の人物が1人ずつ訪れます。

火を囲みながら、1対1で男に自分の境遇などを打ち明ける4人。共通していたのは、緊急事態宣言が続くなかで“いつまで待つのか”という不安でした。

彼らは男と対話し一緒に火をくべているうちに、それぞれの「待つ」ことの形を見つけます。そして男は、4人が去っても薪を割り、火をくべながら夜が明けるのを待ち続けます。

『夜が明ける』の一シーンより。火を囲みながら夜明けを待つ人たち=劇団ノーミーツ提供
『夜が明ける』の一シーンより。火を囲みながら夜明けを待つ人たち=劇団ノーミーツ提供

火が小さくなり、男の体力が尽きかけてきた時、1人、また1人と男の元に4人が戻ってきます。再び火を囲みながら語らううちに、水平線からは朝日が。5人が夜明けを見届けたところで、物語は幕を閉じます。

約5時間に及んだ公演の同時視聴数は最大650人を超え、夜明けを迎えた5日早朝は370人を数えました。企画・プロデュースを担当する林健太郎さんは「準備期間が短かったので、どれだけの人に見てもらえるか不安でしたが、これだけ多くの人たちと時間の共有ができてうれしかったです」と語ります。

『夜が明ける』で朝日が昇ったシーン=劇団ノーミーツ提供
『夜が明ける』で朝日が昇ったシーン=劇団ノーミーツ提供

3度目の宣言「今できること、ないんだろうか」

公演は、クリエイティブマネージャーの中村加奈さんがノーミーツのチャットに投稿した問いかけがきっかけでした。

中村:私は学生時代に演劇を始めて、アートの仕事に携わっていたこともありました。緊急事態宣言によって、舞台がどんどん中止になったり、美術館が休館したりする状況は、心にくるものがありました。

このままエンタメ業界や演劇、美術の業界が衰退してしまうんじゃないかという危機感や、宣言によって何かをやめてしまったり、私よりももっと絶望したりする人がいるんじゃないかと感じたんです。

それを救う、というと大ごとかもしれないですけど、少しでも前向きになれたり、寄り添えたりするものが作れたらいいなと思いました。「ノーミーツが今できることってないんだろうか」とSlackで問いかけたのが、本番の10日ほど前です。
中村加奈さん
中村加奈さん
中村さんの問いかけに、メンバーはすぐ反応しました。クリエイティブディレクターの鈴木健太さんは、「夜が明けるのをみんなで待つ」というアイデアを提案します。

鈴木:中村さんの投稿は、ノーミーツが活動をしている理由に重なるものでした。そもそもノーミーツは、昨年の緊急事態宣言が出たときにできた劇団です。

『門外不出モラトリアム』(旗揚げ公演)は、4年間外出できずオンラインで大学生活を過ごす学生たちを描きましたが、1年経った今も状況はあまり変わっていない。そして、今年のGWも宣言が出て制約を受ける人たちが増えることになった。

このタイミングで公演をすることは一層の注意が必要ですし、この1年間でノーミーツが築き上げてきたものとは違うものになるかもしれない。そういったリスクは考えながらも、「今の時代だからこそできる表現」を探っていくことはすごく大事だと思ったんです。

そうした時に、見てくれる人たちに寄り添える企画を思いつきました。個人的にはLo-fi hiphopのような、「ずっと見ていられる」YouTubeチャンネルに心を動かされていたこともあって。メンバーも面白いと言ってくれて、実現に向けて走り始めました。
鈴木健太さん
鈴木健太さん

会う、会わないでなく「朝日を撮りたい」

出演者、スタッフ全員が会わず、リモートで作品をつくる演劇の新しい形を示したノーミーツ。しかし今回は、海辺に置いた3台のカメラが5人の演技を撮り続けました。「オンラインでやるか、オフラインにするかはあまり議論をしなかった」。脚本・演出を担当した小御門優一郎さんは振り返ります。
 
小御門:昨年の今頃は、人と会うことが初めて制約されたので「会えない中でどうする。どう演劇を作っていく」という部分が、物語の内容にも表れていました。
 
そこから1年が経ち、「もはやそういうことでもないよね」という意識がメンバー内にもあったと思います。企画が出たときも、会う会わないではなく、「明ける夜をみんなで待ちたいよね。朝日をきれいに撮りたいね」ということが自然と決まっていきました。
小御門優一郎さん
小御門優一郎さん
林:方向性が決まったら早速、中継をする現場チームがロケハンを始めました。候補地をグーグルマップで探す担当と、現地へ行って撮影の舞台として成立するか見極める担当が同時に動いて。そのスピード感はすごかったです。
 
鈴木:日の出の位置など演出に関わる部分だけでなく、ガイドラインに沿ってソーシャルディスタンスを守りながら中継ができるかも考えて場所は決めました。当日も、現場は出演者と最少人数のスタッフだけでのぞみました。
 
構図で言えば、たき火を中心に絵として強いものを撮るカメラと、主人公の元を訪れる人を押さえるカメラと全体を撮ったカメラと。それらをスイッチングしながら、ゆっくりと見せていく演出をしました。
林健太郎さん
林健太郎さん

5時間の長編、出演者たちと作る

5時間の長編は、小御門さんにとって初めての経験でした。しかも、企画から稽古、本番まで時間がありませんでした。
 
小御門:稽古までに決めたのは登場人物の設定と、入れ替わりする順番ぐらいです。「夜明けを待つ」と聞いたときは、不条理演劇の代表作である『ゴドーを待ちながら』が頭をよぎりました。

どういうスタンスで夜明けを待っているのかということだけ伝えて、話すエピソードや細かい台詞は稽古しながら出演者たちと作っていきました。
 
中村:緊急事態宣言の影響を大きく受けてしまった人や、この状況を第三者的に引いて見ているような人……。見ている人が誰かには共感できるように、そして傷つかないように人物の設定には気をつけましたね。
『夜が明ける』の一シーンより。作品の台詞は「設定が半分、出演者の思いが半分」(小御門さん)=劇団ノーミーツ提供
『夜が明ける』の一シーンより。作品の台詞は「設定が半分、出演者の思いが半分」(小御門さん)=劇団ノーミーツ提供
小御門:ゴドーの雰囲気は参考にしつつ、変えなくちゃいけないと思ったのはラストでした。ゴドーは「来ない」という結末ですが、夜は明けるだろう、と。朝日が昇った瞬間、何らかのカタルシスを感じてもらいたいなと思いました。
 
稽古はオンラインで3日やって、その後は現場でリハーサルを1日しました。普段は2時間程度の中で「これぐらいの時間でキャラクター説明」「ここで裏切って」といったことをデザインしますが、5時間というのはそのコントロールがほぼ及ばない長さです。
 
しかし、過ごした時間や話したエピソードの物量がストーリーの「ため」になって、夜明けのシーンにつながってくれました。
『夜が明ける』の一シーンより。日の出前には、空が濃い青色に染まる時間もあった=劇団ノーミーツ提供
『夜が明ける』の一シーンより。日の出前には、空が濃い青色に染まる時間もあった=劇団ノーミーツ提供

演劇でも映画でもない「生映画」

出演者や小御門さんと現場に立ち会った鈴木さんや林さんは、5時間見続けても耐えられる映像にこだわりました。演劇でありながら、映画を思わせるような演出を林さんは「生映画」と表現します。
 
林:時間がなく、機材も最小限で「見ていて気持ち良い質感」をどうするかは色々と探りました。Zoom演劇から始まったノーミーツですが、今回のような生配信の演劇をすると、ジャンルが越境されていく感覚があります。
 
もはや演劇なのか映画なのか、分からない作品だなと思った時に、自分は本業が映画業界なので「生映画」という言葉が浮かびました。
 
ネーミングが変わるだけで印象が変わるのって、すごく面白いと思うんです。いままでオンライン演劇として捉えていたものを、生映画として考えてみることで、映画的な手法を試してみることがあるかもしれない。もっと別な言葉もあると思いますが、ネーミングを変えることで新しい発想が出てくると思います。
 
中村:ノーミーツは色々な分野の出身がいるので、それぞれの領域で捉え直す言葉はありそうな気がしますね。
『夜が明ける』の一シーンより=劇団ノーミーツ提供
『夜が明ける』の一シーンより=劇団ノーミーツ提供

1年間の活動が開いた新境地

時間も予算も限られていましたが、それでも終演後は「待つことを教えてくれてありがとう」「こんな美しい演劇実在するのか」といったコメントが寄せられ、ノーミーツの新境地を示した作品となりました。それは、この1年で築き上げてきた経験や仲間がいたからだ、と口をそろえます。
 
小御門:印象的だったのは、企画が頓挫しかけてからの「粘りの会議」です。中村さんの提案から数日後、リスク面などから「できないかも」という空気が出たのですが、そこからもう一度話し合いをしました。
 
そこに集まった、環境映像に関心があるメンバーから「朝が来るまで浜辺でカメラを回しててもいいじゃん」と、企画を後押しするアイデアが出ました。そこから、「これだったらできそう」という流れにまた変わって。「やる」と決めてからは、実現へ向けてすごいスピードで動き、改めて頼れるチームだと思いました。
 
中村:去年からの経験がなかったら、この短期間で今回のような挑戦をしようとはなっていなかったと思います。1年間、色々なトライを続けてきて、劇団メンバーは24人にまで増えました。このスタッフたちがいたからこそ、スピードとクオリティーを両立できました。
 
小御門:役者のみなさんにとっても、脚本が完全にできていないなんて「やばい現場」だったと思うんです。それでも、「私は今の時代についてこう思っている」といったことをどんどん発言して、主体的に稽古も参加してくれました。劇団メンバーはもちろん、外部キャストとして引き受けてくれたイトウハルヒさんと石山蓮華さんには本当に感謝しています。
『夜が明ける』の一シーンより=劇団ノーミーツ提供
『夜が明ける』の一シーンより=劇団ノーミーツ提供
林:個人的には「原点」に戻れた作品でした。自分自身は3度目の緊急事態宣言を冷静に見ていたんです。今動くよりも、この先のための準備をした方がいいんじゃないかと。
 
でも、Slackの盛り上がりを見た時に、純粋に企画をやるべきだと思ったし、夜が明けていく作品を見たいと思った。正解かどうか分からないけど、「やった方がいい」と思った時には衝動をもって挑戦するというノーミーツらしさを再確認できました。
 
小御門:公演を通じて改めて思ったのは、「今、あったらいいな」という作品をつくり続けていく大切さです。「会わない」というルールはもう、無くしていいかもしれない。「今の時代に感じられるライブ感って何だろう」というのを探りながら、様々な表現形態で、みなさんに作品を届けていければと思います。
『夜が明ける』のメインビジュアル=劇団ノーミーツ提供
『夜が明ける』のメインビジュアル=劇団ノーミーツ提供

劇団ノーミーツは6月1日、特別公演『夜が明ける』のダイジェスト版をYouTube上で公開しました。生配信公演の様子が、4時間の新たな作品となっています。公開にあたって、鈴木健太さんがメッセージを寄せました。

「夜が明ける」の公演からおよそ一ヶ月がたちました。9都道府県の緊急事態宣言は延長となり、まだ先行きが見えない状況は続きます。それでも、誰かと一緒に夜が明けるのを待てたら、きっと怖くないはず。夜が明けることを信じ、ともに待つために、公演のダイジェスト版の公開を決めました。ひとりひとりの夜が無事明けますように。
劇団ノーミーツ・鈴木健太クリエイティブディレクターのコメント
劇団ノーミーツが公開した『夜が明ける』のダイジェスト版

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