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#1 Key Issue
Z世代がこだわる個性と帰属意識 大盛ペヤングの動画、なぜ人気?
トライブの中でも個性を発揮
大盛りのペヤングや、バケツ一杯のフルーツポンチ、「ナチョステーブル」……。Z世代と呼ばれる10代を中心としたコミュニティーではSNSを通じ、「大盛り」を「大人数で楽しむ」文化が流行しています。食事を仲間内でシェアできる「コト消費」の一つとしてとらえ、そこで自分の個性を発揮する。SNSで広まる「大盛り」からは、帰属意識と個性をコスパよく同居させようとするZ世代の特徴が浮かび上がります。
金澤ひかり(かなざわ・ひかり)
10代のユーザーが多い動画投稿SNSのTikTokで、昨年11月の発売直後から人気なのが、まるか食品の「ペヤング超超超超超超大盛やきそばペタマックス」(以下、ペタマックス)です。
通常の約7.3倍というペタマックスを学校で作り、楽しげな音楽と共に仲の良い友だちとシェアする様子を投稿したものが多く見受けられます。発売後の11月から投稿が相次ぎ、中には1万以上の「いいね」がついているものもあります。
同様に、TikTokで流行しているのが「ナチョステーブル」。テーブルの上にアルミホイルを敷き、その上にトルティーヤチップス、タコスミート、チーズなどをトッピングしたパーティー料理のようなものです。これ もTikTokでいくつもバズを生み出しています。
「仲間内で大盛りをシェアする」という行為が、いまなぜZ世代の間で流行しているのか。
企業のプロモーションに携わりながらZ 世代について調査を続ける、電通テックの若者消費行動研究チームは、この現象を「エクストリーム」という言葉で表現します。
極端な行動という意味の「エクストリーム」。チームで、プランナーとして食品メーカーのキャンペーンやイベント企画に携わる五十嵐響介さんは「単なる大盛り文化であれば、『デカ盛り』などの言葉で、昔から存在していました」と指摘。昔からあった「大盛り」のトレンドと今回が違うのは、それが「コト消費」として存在している点にあると説明します。
「消費の価値自体が、『体験』にシフトしたことで、大盛りの受け取り方がコト消費にマッチしたと思われます」
このコト消費としての大盛り文化がトレンドとなったのに欠かせないのが、スマホです。
まず、「エクストリーム」にはわかりやすさがあります。
「スマホなどで日々大量の情報と接しているデジタルネイティブ 世代は、情報の判断が速いです」という五十嵐さん。「インスタやTikTokでも、わかりやすいものでないとすぐにスクロールされてしまう。そういった意味で『エクストリーム』はわかりやすくコスパがいい」
さらに見逃せないのがSNSでのシェアです。
「ミレニアル世代やZ世代はデジタルネイティブです。特に2010年代から、SNSでのシェアの文化も広がりを見せる中で、『見栄え』にも驚きや発見を感じることができるエクストリームは、シェアされやすくなった」
元々、大盛りを仲間内で楽しむ文化は「内輪ネタ」として楽しまれてきましたが、スマホを使ってSNSでシェアするという行為によって、トレンドとなって見える化したのではないかと五十嵐さんは分析します。
「友だちやインフルエンサーの投稿からの情報でまず興味を持ち、それを自分たちでもやってみた様子を共有し、どんどん伝播していったと思われます。食べてみんなで楽しむだけではなく、共有体験までがセットで成り立っています」
「エクストリーム」という言葉から浮かび上がるのは、「極端さ」に価値を置くZ世代の行動です。これは、必ずしも「多い」ことや、「大きい」ことに限りません。例えば、SNSでの極端に少ないフォロワー数は、「自虐」として、それだけでアイデンティティーになります。
「エクストリーム」をネタとして楽しみつつ、どこか冷静に突っ込む自分も同居している心理。この傾向は、シェアの時に欠かせないハッシュタグにも現れます。
「エクストリーム」の場合は「#jkにしかできないこと」や「#jkの素敵な思い出」といったタグが付けられていることが多くあります。
五十嵐さんは、これらのハッシュタグについて次のように解説します。
「彼女たちはすでに、自分たちがノスタルジーを生きていることを自覚しています。それは、『人から見られた時の自分』を気にする気持ちが強いということでもあります。『青春とか、おもしろいことやってる自分たちっていいよね』という気持ちがハッシュタグにつながっているのだと思います」
さらに、大盛り商品自体にもZ世代との相性の良さが見て取れます。それはコストです。
五十嵐さんは「学生は可処分所得が少ない中で、自分たちが持ってるリソースの中で最大限楽しめるものを探しています。つまり、少ないコストでいかに楽しめるかを考えているのです」と指摘します。
大盛り商品の多くはコンビニやファストフードで学生のお小遣いでも買えます。
今では、ナチョステーブルやペタマックス以外にも、マクドナルドのポテトを何十人分と買ってシェアするような「エクストリーム」もあります。それらは、時間やコストをかけることなく、テーブルいっぱいの山盛りのポテト という「見栄え」に驚きや発見を感じることができる体験です。
そこには、Z世代ならではの所属意識のとらえ方が見えてきます。
シェアできる仲という所属意識は安心感をもたらします。一方で、ともすれば「みんなと一緒」になりがちです。でも、その中に少しでも自分らしさを表現できれば、安心感と個性のどちらも得ることができるのです。
このZ世代ならではのバランス感覚について、五十嵐さんは「トライブの中でも個性が発揮できている 」と表現します。
「Z世代は個性を重んじています。それは、一人だけ尖ったオンリーワンを目指すということではなく、トライブ(種族)に所属しながらもその中で自分がなにをするかを大事にするということです。個性を重んじつつ、乗っかるのも得意。トライブの中でも個性を発揮できる というのが、いまの若者たちなのだと考えます」
今後、エクストリームの流れはどうなっていくのでしょうか。
五十嵐さんは「『エクストリーム×○○』といった掛け合わせが広がっていくのでは」と予測します。
それは若者たちの「尖ったことをしないと目立たない」という心理とも結びつくそうです
「TikTokでは100円でどれだけ美味しいものを食べられるかという投稿もありますが、コストかけずにどれだけ楽しめるか、制限をかけてどれだけ楽しめるかというものも、ある意味でエクストリームです。大盛りだけがエクストリームさを演出するのではなく、自分の行動自体がエクストリームであるということもあるのではないでしょうか」
「もはやエクストリームは価値基準になっているのかもしれない」と話します。
大盛りのトレンドからわかったのは、「エクストリームは価値基準」という新しいスタイルです。しかし、そこには「二面性」があります。五十嵐さんは「スマホを使いこなすZ世代は、人からどう見られているかを意識することが多い」と指摘。「みんなと一緒」と「個性」は相対するもののようにも見えますが、「大盛り」によって、両方を自分の中に持つことが可能になっています。
その独特な「極端さ」は、Z世代の行動一つ一つに表れているように思います。
筆者の知り合いの大学生は、プロ並みの動画撮影・編集技術を持ち、SNSのフォロワーも万単位でいましたが、「公務員を目指す」と言っていました。1年前に話を聞いた高校1年生は、お菓子を作る動画を淡々と投稿しているだけでしたが、「簡単」なお菓子を「作り続ける」という2点においてはまさにエクストリーム。彼女は「コロナが収まったらバイトがしたい」と話す、いたって普通の高校生でした。
卒業式シーズンでTikTokで拡散されるのは、卒業式には出つつ、極端に大きな花束を家族や恋人に渡す動画です。
このような変化は、昨年から、日常を「特別なもの」のように演出する流れから感じていました。その一つが、大盛りをシェアする投稿。 彼ら・彼女らは、コロナの感染対策も意識してか、マスクを着けて調理をし、食べ物は取り皿にとって食べています。
100円で美味しいものに知恵を絞るように、コロナによる制限のある日々の中でも「エクストリーム」体験をするその姿はとにかく楽しそうです。
以前、取材した作家の平野啓一郎さんは、「対人関係ごとの自分は全て、本当の自分だ」と考え、「『自分』は複数の人格の集合体と考えていて、その一つ一つの人格を『分人』と呼んでいます」と話していました。
Z世代はもしかしたら、その分人をうまく使い分けることに長けているのかもしれません。
SNSで見せるエクストリームな自分と、SNSから離れたときには全然エクストリームじゃない自分。
エクストリームとは、自分をうまく使い分けることができるZ世代だからこそ生み出すことができた、新たな価値観なのかもしれません。
ペタマックスの流行について、製造元のまるか食品はどのように受け止めるのでしょうか。話を聞きました。
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ペタマックスは、発売前は家族や友人同士でと考えていましたが、実際には家族と友人同士の他ひとりで挑戦される方は多く見受けられます。その中でも特に反響が大きいのがYouTuberです。
「ペヤングソースやきそば」という46年間ロングセラーとなっている看板商品があるからこそ、色んな味に挑戦が出来ています。辛すぎる商品、大きすぎる商品、甘い焼きそばなど、目立つ商品作りや、ネットで話題になりやすい商品作りを行っております。
(ペタマックスがZ世代にウケた理由は)ペヤング=Youtuber向けの商品のような価値がつきつつあります。その中で、はじめしゃちょーさんや、ヒカキンさん、フィッシャーズさんなどのトップYoutuberの方々がペヤング商品を食べていたり、色んな挑戦(早食い、激辛チャレンジ)をして頂いたりするのでZ世代にもウケていると感じます。
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