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HKTとNGT合同ライブ 重圧で涙した藤崎未夢さんを救ったのは
それはコロナ渦前からAKB48グループを応援してきた人にとっては少し懐かしく、コロナ禍が終息してからのファンには新鮮な光景でした。10月、横浜市で福岡が拠点のHKT48と、新潟が拠点のNGT48との合同ライブが開催されました。NGT48キャプテンの藤崎未夢さん、HKT48でチームHキャプテンを務める豊永阿紀さんと、両グループの若手選抜メンバーでセンターを務めた梁瀬鈴雅(やなせ・れいあ)さんに思いを聞きました。出演したメンバーにとっても刺激的で意義深いステージになったようです。
合同ライブは、10月12日、13日両日、横浜市のアリーナ・横浜BUNTAIで開かれた「Boosty ファンまつり2024」の一環として2日間行われました。
HKT48(Mercury)、NGT48(Flora)の親会社であるSprootが主催し、お祭りのようにファンもメンバーも楽しめるようにと、昼間にメンバーとファンのおしゃべり会やトークイベント、そして食べ物や射的などの屋台が会場内にも並べられ、夕方からは同じ会場のステージでライブを行うという賑やかな2日間でした。
SprootはHKT48やNGT48、各グループの卒業生など、多くのアーティストやタレントのチケット販売といった〝推し活応援プラットフォーム「Boosty」〟を運営しています。
ライブで特徴的だったのが、アンコール前、本編の終盤にあった両グループがお互いのグループの楽曲を披露する「楽曲交換」のコーナーでした。
例えば2日目のライブだと、NGT48がHKT48の「Chain of love」など、HKT48がNGT48の「世界の人へ」などを披露し、客席からどよめきが上がりました。
楽曲交換のラストに、両グループの平均年齢16歳の若手メンバー16人で披露した曲でセンターを務めた梁瀬さんはこう振り返ります。
「若手選抜といわれるとプレッシャーもすごくあったのですが、フレッシュさを感じてもらえるように、とにかくがむしゃらに、(客席への)『煽り』もたくさん入れました」
梁瀬さんはコロナ禍が終息してきた2022年5月にHKT48の6期生として加入しました。
コロナ前は48グループ全体でのライブや選抜総選挙などのイベントも毎年ありましたが、2020年からのコロナ渦と、同時期に48グループの運営会社が各地のグループごとに分社化されたことで、他のグループのメンバーが同じステージに立つ機会は激減しました。
「ほかの48グループと関わりがないのが当たり前として活動してきました。でも、元々48グループのファンだった私は、グループ同士や他のグループのメンバーが交流している様子がとても好きでした」
梁瀬さんはこうした機会が増えることを願っています。「今は48グループがそれぞれ違うグループになってしまっている気がしていて、それがすごく寂しい。グループがいっしょに何かに取り組むことで足し算ではなく、かけ算のようにすごく力が増すような気がします」
NGT48キャプテンの藤崎さんも同じ思いで、「Boosty ファンまつり2024」が学びの多い機会だったと振り返ります。
2018年1月、ドラフト3期生として加入した藤崎さんは「ほかのグループの皆さんといっしょに活動した経験が本当に少しだけだったので、今回、両グループが隣のレーンでおしゃべり会をするのも懐かしい感じでしたし、ライブもすごく勉強になりました」と話します。
藤崎さんが鮮烈な印象を受けたことがありました。
その一つが、リハーサル中のコンサートの演出家とメンバーとのコミュニケーションの方法の違いです。
NGT48は自分たちのライブでは、一度リハーサルが終わった後に、メンバーで話し合ってから、その意見を演出家やスタッフに伝えることが多いそうです。「まず自分たちで考えてみようという感覚が強いかもしれません」
一方、HKT48はリハーサル中から「動線はこの方がメンバーが動きやすいので、こうしていいですか」などと豊永さんたちメンバーが演出家に意見をどんどん出して、その場で解決していく。藤崎さんは、リアルタイムでステージが出来上がっていくのを見ることができて、とても勉強になったそうです。
HKT48の豊永さんにそのことを尋ねると「NGT48のみなさんは、私たちのことを過大評価しすぎです、演出家の方が普段HKT48のライブを担当している方で、私たちが言いやすかったという事情もあるし」と恐縮します。
ただ、リハーサルでのコミュニケーションについては、先輩たちの伝統が受け継がれていると解説してくれました。
「(劇場支配人兼任として活躍した)指原莉乃さんや多くの先輩たちがリハーサルで、こうした方がメンバーは動きやすいなどとステージ上でスタッフの方と話しているのを見て、それが当たり前というか前に立つ者の仕事だと思うようになりました。後輩たちもその姿を見ているので、『ものが言いやすい』雰囲気が受け継がれているかもしれないです」
藤崎さんは、計り知れないプレッシャーを感じていました。NGT48も単独コンサートをやっていますが、在籍メンバーの半分以上が新型コロナ渦以降に加入し、他のグループとのコラボは未経験でした。
今回はHKT48の曲も覚えなければいけない中、振り入れから本番まで時間がいつも以上に限られていました。
前日のリハーサルでは、実際に全メンバーがステージに立って始めて分かったこともあり、都度確認することもたくさんありました。そして、HKT48と同じステージに立つことへの見えない重圧――。
「今まで経験したことのない責任感と、感情が押し寄せてきました」
2日目のライブを数時間後に控えたころ、それはピークを迎えます。「動き回っているなか、自分に余裕がなくなって、ぷつんと糸が切れてしまいました」
ステージの裏で、涙があふれて止まらない。この後、ライブがある、動かないといけないと思うほど焦ってしまう。
そんな時、偶然通りかかったのが豊永さんでした。
「大丈夫、大丈夫」
軽い口調でそう言って、立ち去っていったそうです。「理由も何も聞かず、ただ声をかけてくださったことが、すごくうれしかったです」
豊永さんはこう振り返ります。「何があったのかは、今でも知らないですが、多分(キャプテンとして)すごくプレッシャーを感じていて、でもどうしていいのか、私たち以上に分からなかったかも知れないと感じました」
「『大丈夫』としか言えないけれど、言ってくれる人がいるだけで私もかなり救われてきたので…」
豊永さんはNGT48卒業生の本間日陽(ひなた)さんと仲が良く、今年3月のNGT48劇場での本間さんの卒業公演に姿を見せて、感謝をつづった手紙を朗読しました。
その際、藤崎さんとも連絡先を交換していました。こまめには連絡を取り合ってはいませんでしたが、リハーサルで顔を合わせ、一緒にステージをつくっていく中で、折をみて、藤崎さんに声をかけていたそうです。
迎えた2日目のステージ。本編のラストは総勢75人のメンバー全員で「君とどこかへ行きたい」。両キャプテンがWセンターを務めました。
「振り付けのなかで豊永さんと目線を合わせる瞬間がすごく多く、安心できました。目を合わせるタイミングでないところでも、目を合わせてくださって、それもとてもうれしかったです」と藤崎さんは感謝を口にします。
豊永さんは「『君とどこかへ行きたい』は希望や、出会いと別れ、色々な思いが詰まったコロナ後のHKT48にとってとても大切な曲。それを一緒にできて、私もうれしかったです」と語り、こう続けます。
「この曲は元々(メンバーの加入時期が)お姉さんチーム(つばめ選抜)と妹チーム(みずほ選抜)の2チームでシングルを発売したのですが、ちょうど、HKT48とNGT48もグループの特色が姉妹っぽいと感じていたので、今回一緒に披露した時、すごく噛み合っていた気がしました」
アンコールの締めくくりはNGT48の代表曲「Maxとき315号」。藤崎さんが声を張り上げて曲名を告げると、イントロに合わせて、客席から地鳴りのようなコールがわき起こりました。
「(加入して以来)それまで聴いたことのない歓声の大きさでした」と梁瀬さん。
豊永さんは「HKT48ファンもNGT48のファンも、あの場にいたみんなが、コロナ渦を経て、どこか懐かしい、でも今という時がぎゅっと詰まった時間を共有していると思うと、胸が震えました」と振り返ります。
今回が得がたい経験となった藤崎さんは、こうした他の48グループとの交流の機会が増えることを願っています。
「その日しか見られないステージをみなさんに楽しんでいただけたし、他のグループと交流すると本当に色々な刺激を受けられるので、また一緒にできればと思います。その時は、もっともっと成長した姿をお見せしたいです。それが、他のグループのファンのみなさんにもそれぞれのグループの良さを知ってもらえるきっかけになると思います」
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