マンガ
「顔なんか見せんでええ」そう笑った祖父 「葬式に代えて」描く漫画
死者数のニュースでは伝わらない家族の姿
コロナ禍で、会いたくても会えない人がいるかもしれません。突然やってきた祖父との別れを描いた漫画がツイッターで話題になっています。「お葬式も無いんじゃ さみしいよな」。葬式に代えて描いた漫画に込めた思いを聞きました。
「祖父の葬式に代えて」というタイトルで投稿された作品には、突然知らされた祖父の死と、左官だった祖父への思いが描かれていました。
朝、父からの電話で矢寺さんが知らされた、祖父の死。原因は新型コロナウイルスでした。
老人ホームに入居していた矢寺さんの祖父。施設内でクラスターが発生し、2日前に祖父も「陽性」だったと聞いて、驚いたばかりでした。
その時は職員づてに自覚症状はないらしいと聞いて、「このまま無症状ならいいけど……」と母と話していました。
若い頃は、左官だった祖父。文字どおり、自分で家も建てました。
数年前に妻に先立たれた後も、祖父は、家族の同居の誘いを断り、自分で建てた家にひとりで暮らしていたそうです。
元職人で、腰が「くの字」に曲がっても、いろいろなことを器用にこなす祖父の姿に矢寺さんは感嘆していました。
矢寺さんが数年前に地元に帰り、祖父の様子を見に行った時、「顔なんか見せんでええ」と言った祖父。
その時の言葉が矢寺さんの心に残っていました。
「仕事があるのは立派なことや。周りの人に感謝せなあかんで」
「東京で頑張ってるんやから 顔なんか見せんでええ」
それが直接祖父に会った最後となりました。その時の穏やかな笑顔を、作品に描きました。
誤嚥性肺炎で入院したことをきっかけに、住み慣れた家を離れて、昨年の1月から老人ホームで暮らし始めた祖父。直後に新型コロナウイルスで社会状況は激変します。家族も1カ月に1度しか会えない厳しい面会制限がありました。
そして感染後、誰にも会えないまま、急逝した祖父。火葬にも立ち会えませんでした。
「このご時世に、地元に帰れんしなー」
「これが……コロナかあ……」
葬式もできない現実に直面した矢寺さんはつぶやきます。
「お葬式も無いんじゃ、さみしいよな」
矢寺さんが考えたのは漫画による葬式でした。
「俺は漫画家だから、漫画を描けば祖父もたくさんの人に見送ってもらえるような気がした」
「すごくエゴイズムなのは分かってるんですが、読みたくもないのにこんな漫画読ませてしまってたらごめんなさい」と迷いも書いています。
母に相談すると「ええんちゃう 供養や供養」と後押ししてくれたそうです。このとき、意外にも明るく聞こえた母の声でしたが、「まだ実感が湧かない」ことの裏返しだったと知ります。
最後のシーンには、祖父の家とともにメッセージを書きました。
「あの世があるかどうか分かんないけど、もしあるんならばあちゃんと仲良く」
この漫画には7万以上のいいねがつきました。
「すてきなご供養だと思います。お祖父様の笑顔が浮かぶよう」「葬式や墓参りは、残された人が最後のお話をするためのもの、どんな形をとってもいいんじゃないかと思います」と、漫画家らしい送り方に賛同が集まりました。
そして、「ニュースで聞く死者数ひとりひとりの裏に、同じように思う家族がいることを想像して、涙が出た」などの反響が寄せられました。
祖父の葬式に代えて(1/3) pic.twitter.com/TQr5GdMvoO
— 矢寺圭太 (@yaterakeita) February 4, 2021
矢寺さんはメッセージを寄せてくれました。
作中に描かれた祖父の最後に見た笑顔。「顔なんか見せんでええ」という言葉には、「自分の祖父も左官職人だったので、自分の手で飯を食ってこうとして漫画を書いてる孫を応援してくれていたのだと思っています」と振り返ります。
作品を読んだ母からはこんなLINEが届いたそうです。
「自分の家が大好きだったから、亡くなったら家に連れて帰ってあげようと思ってたんだけど叶わない願いでした。漫画、おじいちゃんきっと喜んでいると思う。」
多くの反響には、矢寺さん自身が受け取るものも多かったといいます。
「たくさんコメントいただいて、みなさんのコメントを読ませていただいて、自分も、自分で思っていたよりも、励まされています。こんな私的な漫画に、たくさん反響をいただき感謝しかありません」
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