ネットの話題
「パソコンが壊れ…ぴえん」 青森のスーパー、手書き広告の優しさ
「苦肉の策」が、まさかの人気を集めています
青森県のスーパーが手掛け、店内に掲示した「広告」が、ツイッター上で注目を集めています。地元民向けの、ぬくもりあふれるデザインが、「緩すぎる」と人気なのです。お客さんへの気遣いを象徴する一枚が誕生した経緯について、取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
2月1日、「ぴえん」というつぶやきとともに、一枚の画像がツイートされました。
商店の玄関ドアに貼り出された、三枚の印刷用紙。横一線に並べられ、一枚ごとに、黒字でこんな文章が手書きされています。
「地元感がやばい」「緩すぎて大好き」。画像には好意的なコメントが連なりました。また、この店に訪れたとみられる人々から、「懐かしい」「商品の値段、今でも覚えている」などの感想も相次いでいます。
5日時点で、画像への「いいね」は2万に迫り、リツイートも5千回を超えています。
ぴえん pic.twitter.com/lhdOZi8EYD
— スーパーエチゴヤ(個人商店) (@oohataechigoya) February 1, 2021
越後林さんによると、エチゴヤでは毎週水曜~土曜にかけ、商品の特売を行っています。地域の利用者向けに、月曜日中に店内のパソコンで、新聞用の折り込みチラシを作成。火曜日の朝に販売店に持って行き、水曜日の朝刊とともにに配ってもらっているそうです。
ところが1日、突然パソコンが動かなくなってしまいます。マザーボードが損傷し、電源は入っても、デザインソフトを起動できなくなったのです。やむなく越後林さんは、特売について、紙に情報を手書きすることにしました。
「折り込みチラシがないと、お客さんから『今週は特売をやらないの?』と言われてしまうんです。お年寄りの利用者が多いので、伝えたいことを、筆ペンを使い大きな文字でつづりました」
画像を見た人の間では、「いつも通りの感じで特売します」の一文が、とりわけ話題になりました。この点について、越後林さんは次のように話します。
「客層は、大体いつも一緒。何を安売りしているか、チラシを見ずとも把握してくれている人も少なくありません。だから、ふわっとした表現でも伝わるかなと。ただ、前の週と全く同じラインナップではない。あえて『感じ』とすることで、逃げ道を作りました」
ちなみに壊れたパソコンは、お店の財務管理などにも活用しているそうです。後日、知人のアドバイスを受けながら、最新式のものを買い直しました。「ツイッター上では、お気楽な印象ですが……実際は相当焦りましたよ」。越後林さんは苦笑します。
利用者への優しさを感じさせる、今回の広告。その内容には、地域とのつながりを大切にする、お店の姿勢が反映されています。
エチゴヤは50年ほど前、越後林さんの父・達巳さん(68)が立ち上げました。当時から変わらないのが、既製品だけでなく、自家製の食品などを販売している点です。特に、惣菜の生産に力を入れてきました。
創業当時から、一番の売れ線は唐揚げです。油で二度揚げし、カリッとした食感と、肉汁たっぷりの豊かな風味を両立させています。地元では「エチゴヤと言えば唐揚げ」と賞されるほどの人気で、誕生日や正月など、おめでたい日に買って帰る人が多いそうです。
それだけではありません。冬場には、むつ市の特産・アンコウの身や肝を味噌と混ぜた郷土食「ともあえ」を自作しています。春には山菜の天ぷらを店頭に並べるなど、季節の移ろいを感じられる商品を、豊富に取り扱っているのです。
このほか、お祭りなどの催し物向けに、お弁当を仕出しする機会も少なくありません。しかし新型コロナウイルスが流行した昨年以降、イベントの中止が相次ぎ、注文が激減。その分、店内のディスプレーを見直すなどの形で、経営努力を続けているそうです。
広告が話題になったことについて、越後林さんは「お店を思い出してくれる、地元出身者が多くいてうれしかった」と喜びます。その上で、こう話しました。
「今までエチゴヤに縁がなかった人には、『変な店があるものだ』と面白がってもらえたら。欲しい商品があれば、郵送もできます。SNSのメッセージなどで、お気軽にご連絡ください」
1/21枚