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IT・科学

大学生には響かなかった…「テレビに出られなくてもいい」という覚悟

たかまつななさんが感じた〝断絶〟

5月に死去した木村花さんの母響子さんとの対談にのぞんだたかまつななさん=本人提供
5月に死去した木村花さんの母響子さんとの対談にのぞんだたかまつななさん=本人提供

目次

「もうテレビに出られなくなってもいい」。お笑いジャーナリストの、たかまつななさんが、そんな思いで自身のユーチューブチャンネルで配信した動画があります。フジテレビ「テラスハウス」に出演し、5月に死去した木村花さんの母響子さんとの対談です。動画のサムネイルには「フジテレビの責任を問う」というメッセージを掲げました。〝意を決した〟行動でしたが、動画を見た大学生からは意外な反応があったと言います。たかまつさんに、テレビの置かれた現実と、新たな悲劇を生まないための行動についてつづってもらいました。

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予想以上の反響に驚いた

もうテレビなんか出られなくたっていい。そう吹っ切れた気がする。本音は違う。

テレビっ子だし、テレビの影響力も知っているし、華やかな舞台セットにたくさんのスタッフさん、有名な芸能人がいるあの場のきらびやかさも知っている。

YouTubeは地味だ。ひとりで全部やらないといけない。ロケ場所の手配から、出演依頼、ギャラの支払い、機材を用意する、演者さんのお水を買う、ピンマイクの電池を交換する。見られなければ、それが数字で突きつけられる。放送電波で家庭に直接届く、テレビのようにはいかない。

誰にも忖度(そんたく)しなくていいが、それは大変なことだ。ところが、2020年12月7日、木村響子さんのインタビュー動画を公開し、その反響の大きさに驚いた。

「フジテレビの責任を問う」

木村響子さんは、人気プロレスラーで、フジテレビの人気番組「テラスハウス」 に出演していた木村花さんのお母様である。花さんは、番組出演に関してSNSで炎上し、その誹謗中傷に苦しみ、自ら命をたった。なのに、フジテレビの対応は、ひどかった。

フジテレビは、今回の件に関する検証報告を出している。

炎上の原因となったシーンの「やらせ」の疑惑については「やらせは確認されなかった」と説明しているが、響子さんはスタッフさんからあおられたと花さん本人から聞いていると主張する。

また、「SNSを炎上させようとする意図」についても、「制作スタッフは木村花さんに多くの批判が寄せられることを予見できておらず、そのような意図はなかった」としている。

しかし、本来、番組スタッフに求められるのは、演者に無理させないようにメンタルケアをしたり、編集に悪意がないよう愛されるように考えたりすることだ。

万が一、炎上した場合は、花さんのSOSに番組スタッフがしっかり寄り添うべきだったはずだ。

世界的にも恋愛リアリティーショーで不幸なケースが起きている。炎上を予見できずに番組を作り、それがあたかも防げなかったことかのように言い訳するのは、あまりにもお粗末ではないか。

私は、動画のタイトルを「フジテレビの責任を問う」というサムネイルにした。当然だと思う。

周囲の人が結構びっくりしていた。「フジテレビに出られなくてもいいんですか?」という意見が相次いだ。本当に心配してくれた人もいた。こんなんで出られなくなるなら、全く問題ない。ジャーナリストとして本望だ。そう心から思える。

フジテレビ社屋
フジテレビ社屋 出典: 朝日新聞

テレビを見ない若者の冷静な評価

しかし、若者たちの感覚は少し違った。

元TBSキャスターの下村健一さんが、白鴎大学(栃木県)の授業でこの動画と私の記事を紹介してくださった。あえて下村さんの私見をコメントせず、まずはただURLを紹介して自由に感想を書くよう促したそうだ。個人情報を伏せて私にシェアして下さった学生たちのコメントからは、若者たちの本音とテレビの置かれた現実が浮かび上がった。

「テレビをまったく見ずに、YouTubeを見て生活してきて、なんなら今もYouTubeしかみないのでテレビの良さは分からない」

私自身、フジテレビをはじめテレビには昔ほどの権威はないと感じているが、若者にとっては、もはや接点すらない存在になっているのだ。

番組の過剰な演出の問題を指摘した上で、フジテレビが「二重の逃げ」をしていると訴える声もあった。

「花さんが亡くなってしまったのはフジテレビの責任なのに、その責任からも逃げているようで、とても不快に感じた」

このまま逃げて信頼を落とすぐらいなら、謝って信頼を落としたほうがましだという意見。私もその通りだと思う。若者は冷静にテレビを評価している。

いびつな関係への違和感

私が、フジテレビ批判を〝意を決して〟したこと自体への反応もあった。

「記事を読んで感じたのは、『大好きなテレビに出られなくなっても良い』というほどの覚悟をさせるまでに、異常なことが起きていたという実感だった」

この学生はさらに、続ける。

「形はどうあれテレビに出演したことが発端で出演者が自殺しているなんて、もっと騒がれるべきだし製作者側もその責任を果たして然るべき事態だ。ましてや、加害者が日本中に存在しているのに野放し状態など許される訳が無い。憤るばかり」

そうなのだ。SNSの顔の見えない一般人の誹謗中傷によって、花さんは苦しめられた。

でも、花さんを救えるのもまたネットではないかと思う。テレビは昔ほど権威はないが、駆け出しの若手タレントにとって魅力的であるのも事実だ。そこから、テレビ局に選ばれるためには多少の無理をしてしまう気持ちが生まれてしまう。

「出たい」と思う気持ちを利用するテレビのいびつな関係に対しては、利害関係のない一般人の方が声を上げやすい。その時、凶器になったネットは、抗議の声を形にする道具にもなる。

テレビの危機的な状況を指摘する感想もあった。

「干されると言った言葉を聞く。テレビ局にとって都合がよくない人間は仕事を奪われてしまう。タレントやスタジオに集められた観客は番組のために用意された感想を言い、リアクションを演じる。それが出来ないとカットされる。」

「こうした時代は、もうとっくに終わろうとしている。オンラインサロンなどダイレクト課金で報酬を得られるからだ。つまり、信用がない人はこれができない仕組みだ」

5月に死去した木村花さんの母響子さんと対談するたかまつななさん=本人提供
5月に死去した木村花さんの母響子さんと対談するたかまつななさん=本人提供

それでも大好きだったテレビ

当たり前だが、フジテレビの中には心ある人もたくさんいる。だからこそ、自社で働くことや自社の報道現場に誇りをもつためにも、きちんとした謝罪や再発防止を実行し、自分たちの権威を見つめ直し、その力を社会にどう役立てるか考え直してほしい。

テレビは私の想いを拡声させてくれた。

フジテレビの『ごきげんよう』に出演したときは、お昼の看板番組に出られたことが本当に嬉しかった。

18歳選挙権が導入された時に、若者の投票率を高めたいという思いから会社を立ち上げると『みんなのニュース』が特集してくれた。放送後は、全国から出張授業の依頼が来るようになった。

そんな1人の挑戦を拡散できるメディアの役割は昔も今も変わっていないはずだ。

私の大好きだったテレビが、これ以上嫌われてほしくない。テレビしかできない、テレビの役割や存在意義をしめして若者に理解されてほしい。

もっと大御所の先輩方、ちゃんと批判してくださいよ。私なんて芸能界ではちっぽけな存在だ。私がすごく影響力のある存在なら、フジテレビの対応が悪すぎると、周りに呼びかけてストライキしたとおもう。きちんとした対応をするまで、「@日間仕事を休みます」と世間に表明した上で。

「闘わなきゃ歴史は変えられない」

今後は「テレビで使いにくいな」と思われるかもしれない。同時に、フジテレビの中には、同じ問題意識を持った人がいることも知っている。そういう人たちと仕事をしていく方が楽しい。私の生き方は敵が増えていく。と同時に、声を上げるたびに味方も増える。

それでいい。いや、それがいい。今はそう心から思える。

木村響子さんの言葉をきいて、ますます、その思いをあらたにした。

「闘わなきゃ歴史は変えられないんですよね。例えば女性差別がなんで今減ってきたかっていったら、最初に声を上げた人がいたからなんですよ」

もうテレビに出られなくてもいい。だから、本気で伝えられる。

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