ネットの話題
「君たちは腹が立たないのか」あえて「煽る」新聞広告が伝えたいこと
「今年こそ、正しく怒ろう日本人。」
年始に公開された、新聞用の企業広告が、SNS上で話題を呼んでいます。怒りと暴力、そして新型コロナウイルス対策……。一見、ネガティブなテーマについて、深く考えるためのきっかけを提供したい。そんな思いから生まれた、あえて「煽(あお)る」表現に注目が集まっているのです。正解のない問題を取り扱った理由について、制作元の出版社に話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
企業広告を手掛けたのは、東京都千代田区の出版社・宝島社です。「怒り」「暴力」「コロナ感染対策」を主題に4種類のビジュアルを用意し、今年1月6日~7日の朝日新聞・日刊ゲンダイ・日本経済新聞・読売新聞各紙の朝刊で公開しました。
たとえば、6日付けの読売新聞に掲載された「君たちは、腹が立たないのか。」というコピー入りの作品。青空をバックに写っているのは、顔をしかめて怒る、裸の子どもの銅像です。
その脇には、こんな文章が添えられています。
宝島社は1998年から、商品では伝えきれない「企業として社会に伝えたいメッセージ」をコンセプトに、新聞広告を作っています。
2020年、ウイルスが全国に広がり、社会不安が飛躍的に高まりました。その翌年の始まりに、どのようなメッセージを世の中に打ち出せるのか。検討を重ねた結果、冒頭の三つのテーマを、柱に据えることにしたそうです。
「君たちは腹が立たないのか。」には、SNS上で「骨がある表現」「正論をまっすぐ述べてくれている」といった声が寄せられました。宝島社の広報担当者いわく、具体的な出来事を想定して、言葉を編んだわけではないといいます。
「世の中の様々な理不尽に対し、自分さえ我慢すればいい、と思っている人は少なくありません。同調圧力に屈するのではなく、正しく怒りの声をあげることの大切さについて、考えてもらいたい。そうした思いを込めました」
ちなみに、広告に登場する銅像は、ノルウェーの首都オスロのヴィーゲラン公園にある「おこりんぼう」という作品です。矛盾や不合理に向け、きちんと怒りを表明する意義を、シニカルに象徴していると考え、採用したといいます。
このほか、「暴力は、失敗する。」と題したビジュアルでは、知性で暴力にあらがうことを推奨。「濃厚接触」に焦点を当てた「ねちょりんこ、ダメ。」、日本人の衛生観念がテーマの「言われなくても、やってます。」においては、ウイルス対策という課題を扱いました。
パンデミックが収まらない今、私たちの日常は変化し続けています。8日には二度目の緊急事態宣言が発令され、ますます先行きが見通せなくなっているようです。
そんな世相を反映した各デザインに対し、「今の社会に対する『このままでいいのか』という思いに共感した」「過去と向き合いつつ、未来に進みたいと思える内容」などの感想を寄せる人々は、少なくありません。
宝島社は昨年、崩壊から約30年が経った、「ベルリンの壁」にまつわる新聞広告を制作しました。私たちの心の中にある「壁」を壊し、次の時代へと踏み出すことはできるのか――。そんな問題提起をはらんだ作品です。
この一年で、一人ひとりの内側にそびえる「壁」が、分厚くなってしまった部分はないか。そして、今年の広告を見た人々に、どんなことを考えてもらいたいか。広報担当者に尋ねると、次のような答えが返ってきました。
「広告はあくまできっかけです。考え方に正解はありません。何らかのメッセージを受け取った方それぞれにとって、考える機会を得るための、一助となれば幸いです」
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