お金と仕事
官僚、就職先としてあり? 深夜の資料作り、FAX文化「本当に無駄」
〝エリート〟が強いられる長時間労働
難関の試験に突破して採用される〝エリート〟のイメージが強い官僚だが、働き方の過酷さが問題になっている。河野太郎行政改革相は、2020年11月18日に自身のブログで、自己都合退職者数は6年前より4倍以上に増えていると指摘した。働き方のお手本になるべき官僚の労働環境は、就活中の大学生にとっても他人事ではない。〝残業月100時間はザラ〟は本当なのか? 元官僚の加藤彰さん(仮名)と、現役官僚の斉藤健さん(仮名)に話を聞いた。(大学生ライター・室星葵)
――私は今、大学2年生でそろそろ就活を考える時期に差し掛かっています。周囲の声を拾うとやはり官僚に対して〝低賃金〟〝年功序列〟といったイメージが強いと感じます。特に働き方改革によって残業時間や過労死が注目がされる中、官僚の過労死の事実が数年前からクローズアップされはじめています。実際の労働環境について教えてください。
加藤:所属する課によりますが、大体、国会の会期中は午前7時に出勤し、終電で退勤できればいいかなという感じでした。3年目に配属された課は月の残業は40時間程度でしたが、5年目に配属された課だと100時間はあったと思います。
斉藤:私は今、週2回から3回はテレワークです。テレワークでも、出勤しても、20時か21時には終業できる月間残業50時間程度です。ただし、それは私が国会に関する業務をそんなにしない部署だから。国会対応にあたる部署は月間残業100時間から150時間くらいあると思います。
――残業が多い部署と少ない部署では、月100時間も違うんですね。正直国会会期中はどの部署も同じくらい多忙だと思っていました。
斉藤:本当に部署によると思います。基本的に人手は足りていませんが、部署によってはマネジメントする側はいるのに現場で動く若手が圧倒的に足りていないところもあって、そういう部署は必然的に残業が増えてしまうこともあると思います。
――以前、国会議員事務所の人とやり取りする機会があった時、ほとんどの業務を紙でおこなっていて。正直、なんでデジタル化をして、もっと効率的にしないんだろうと思うことがたくさんありました。霞が関での仕事で、無駄だなと思う業務はありますか。
加藤:一番、無駄に感じていた残業は翌日の会議の準備です。深夜に会議資料を作成・印刷して、並べてホチキス留めをしている時間は本当にむなしかったです。やっぱり、ホチキス留めをするために官僚になったわけじゃないと感じましたね。
斉藤:基本的な雑務もそうですが連絡のやり取りをFAXでする文化は、あまりにも世間とかけ離れていると思います。百歩譲って立法府の一員である議員との連絡にFAXを使うことはまだしも、同じ行政府の官邸に行く時にいちいちFAXをして事前に行く旨を伝えないといけないルールがあり、本当に無駄だと思いました。FAXは流しただけでは見られないこともあるので、一度FAXを送る前に担当の部署に電話して、そこからFAXを流して官邸に向かうんです。
――河野大臣が取り上げていたデータの中で、約19%の官僚に辞職の意向があるとされていました。
加藤:今は河野大臣をはじめ、官僚の労働環境について公表されつつあり、世の中でも働き方改革が進められているので、〝残業100時間〟などと言われる現場に対しての理解があると思うんです。
でも私が辞めた10年以上前は全然、違っていました。官僚ってあんまり何をしてるかわからない。だから国民のために働いているのに、マスコミでは何かと〝給料泥棒〟と書かれる。そういう状況で辞めたいまではいかずとも、私は誰のために働いているんだっけと考えることがありました。
斉藤:直接的に辞めたいと思ったことはありませんが、国会議員案件が優先されすぎてしまう現状に疑問を持ったことはあります。
国会議員に急ぎこの件についてレクをして欲しいと言われ、資料を探して本当にこの資料が適切か係長→企画官→室長→課長補佐→課長→部長→局長……まで確認を取っていたら1日終わっていたという日もあります。すべてが無駄な作業ではないですが、本当に優先すべき業務がある中で、全ての国会議員案件を最優先しなくてはいけないのか疑問を持ってしまいます。
国会議員は選挙の洗礼を受けて国会議員になっているわけだから、国会議員の対応をおろそかにすることは国民をおろそかにするっていうことになります。そのため、国会議員の案件は最優先されますが、一方で本当にそうなのかという議論の余地もあるのではないかと思いました。
上司の中には、「国民のためじゃなくて国会議員のために働いていると思った」という理由で辞めた人もいるくらいですから。
――ではこれからどう省庁が変わって欲しいですか。
斉藤:官僚になる人間って本当に面白い人がいっぱいいるんです。世間的には頭が固くて生まれてから勉強ばっかりやってきたみたいな人が多いだろうという印象があると思うのですが、学生時代に、大学に通いながら震災復興のNPOでインターンしていたり、海外のIT企業で何年か働いてから試験を受けていたり、本当に面白い人材がいるんです。だからこういう人材がなんらかの事情でやめてしまわないような労働環境の整備をして欲しいと思います。
加藤:私が省庁に勤めていたときは縦割りがひどく、特に自分の省庁の管轄以外の業務は関係ない、というスタンスの官僚が多かったです。
しかし時代は変わり、生き残っていくためには様々な掛け算によって起こされるイノベーションが求められていると思います。だからこそ省庁内はもちろんのこと、民間にも流動的に人材が流れる仕組みを整備してほしいと思います。
官僚の仕事は、想像以上に過酷でした。そして、こんなにも激務なのに就活する上で「官僚もありだな」と思う自分もいました。
2人は官僚という仕事にに誇りを持っており、官僚の未来については明るくとらえていたからです。
これからデジタル化が進み、縦割りの考えがなくなっていけば、霞が関の働き方は変わっていくのだという〝光〟を感じさせてくれました。
一方で、気になることもあります。
仕事の多くを占める国会議員案件。知り合いの政策秘書の一人は、「代議士はもう高齢。タブレットの使い方さえよくわかっていないのに、霞が関だけデジタル化されても困る。秘書である私も、これまでのやり方を変えたくない」と本音を漏らしたことがありました。
国民の代表である政治家がデジタルについていけない以上、官僚の働き方も限界があるのかもしれません。
職場環境が悪ければ、優れた人材が集まらない時代です。官僚の実態を通して、いま一度、働き方改革について向き合う時なのかもしれません。
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