マンガ
ペットの飼育、必要なのは「お金」だけ?作者の覚悟描いた漫画に反響
あえて生々しい情報を伝える切実な理由
安易に動物を飼い、飽きたら捨ててしまう。繰り返される過ちを止めたいと、猫と暮らすことの現実を描いた漫画が、ツイッター上で大きな反響を呼んでいます。何十万円もかけて手術する。あらゆる家具を買い直し、猫が安全に暮らせる環境をつくる……。実体験に基づく、リアルな情報をあえて盛り込むことで、ペットを求める人々の覚悟を問う内容です。大変なことがあっても、なお命を引き継ぐ喜びを感じてきたという作者に、話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
「お金と心に余裕がない人はペットを飼わないで欲しい」。10月5日、そんな一文と合わせ、4ページの漫画がツイートされました。
新型コロナウイルスの流行後、ペットを飼ってすぐ捨てる。ローンが支払えず、買ったペットを手放す……。物語は、そんなニュースを見た、という場面から始まります。
作中、猫と暮らす上でかかる「コスト」が、具体的に解説されます。たとえば、作者の自宅にいる猫のきょうだい向けとして「ご飯代やおやつ、トイレ砂のシートなどで月1~2万円かかる」……といった具合です。
それだけではありません。ワクチン接種料などの医療費。猫用トイレをはじめとした必需品の購入代金。旅行に行く際、猫を預けるペットホテルやペットシッターに支払うお金の額……。生々しい生活実態が、惜しげもなく語られるのです。
ほかにも、爪研ぎによる傷などを防ぐため、壁用防護シートやコードカバーを使うといった工夫に関する説明も。猫たちの命を守ろうと、あらゆる手を打っていることを紹介しつつ、切実なメッセージを打ち出します。
「一つでも『しんどいな』と思うようであれば、まだ動物と暮らす時ではないということだと思います」「ペットの一生は飼い主にかかっています。責任もって最後まで幸せにしてあげて欲しいです」
「可愛いという気持ちだけで動物は飼えない」「命と向き合う覚悟が必要」。読者からは、熱い共感の声が次々と上がりました。
「テレビや漫画などで描かれるペットとの暮らしは、キラキラしたものになりがち。それらに影響され、おもちゃ感覚で動物を飼い始めたものの、自分の思い通りにならず虐待したり捨てたりする人々がいる。そう聞いてきました」
匿名を条件に取材に応じてくれた作者は、漫画を描いたきっかけについて語ります。
「おもちゃ感覚」という衝撃的な言葉。あえて強い表現を使ったのは、人間と動物の関係について考えさせられる出来事が、身近で起きていたからでした。
「猫を拾ったものの、『鳴き声がうるさいから』と捨てた知り合いがいる」。作者はある日、友人から、そんなエピソードを打ち明けられます。
その知人はしばらくして、「好きな芸能人が飼っているのと同じ猫がほしい」とペットショップに行き、血統書がついた別の猫を購入したというのです。
しかし、普段はケージの中に入れっぱなしで、外に出すのは自分が触りたいときだけ――。友人と猫が一緒に収まっている写真を見せてもらうと、ストレスのためか、体毛がところどころ抜けてしまっていました。
「とても悲しい気持ちになりました。動物虐待や殺処分について、ニュースなどで知る機会はあったんです。『そんな人間もいるんだ』くらいに思っていたのですが、自分のすぐ近くに当事者が存在するのか、と驚きました」
「全ての動物は救えないし、他人が飼っている猫を取り上げられない。自分本位な飼い方をする人には、そもそも悪気がない場合もあります。それでも、私が描いた漫画に目を通した読者が、何らかの気づきを得てくれたらいいな、と考えました」
アイデアが浮かんでから、3時間ほどで完成させたという、今回の作品。自らも2匹の猫と暮らしているため、健康維持に不可欠である病院代の表現には、一層力を入れました。
「その子(猫)の性格によって、大変なことは異なります。でも病院代なら、大体の場合同額ですし、何より絶対にかかってくるものです」
「『うちはこんなに大変!』と言うよりは、一般的な数字を明記した方が現実味が出る。そう考えて、動物を飼った経験がある友人の話や、ネットで調べた動物病院の料金表を参考にしました」
そして、作中にも登場する「『ペットを飼う』ということは『家族が増える』ということ」との考え方は、実体験に裏打ちされています。
たとえば輪ゴムやひもなど、遊んでいるうちに誤飲しかねないものは、全てしまっているそう。「ネズミ型おもちゃを飲み込んでしまい、腸閉塞になった猫の話も聞きました。そのため、遊び終わったら必ず片付けるようにしています」
家で猫が快適に過ごせるよう、エアコンを付けっぱなしの部屋・電源を落とした部屋・猫が通れない大きさの網戸付き窓を開け、換気扇を動かし、外気と同じ湿度を保った部屋の三つも用意。一年中、自由に行き来できるといいます。
また「ペット栄養管理士」(民間の学術団体「日本ペット栄養学会」による認定資格)の養成講習会も受講。学んだ知識を生かし、栄養バランスに優れ、猫の体質に合った「プレミアムフード」と呼ばれるペットフードを選んでいるそうです。
そこまで愛猫のために尽くすことができるのは、どうしてなのでしょうか? 尋ねてみると、これまでの日々について教えてくれました。
幼い頃から猫とともに成長し、「大人になっても自宅に猫を迎えたい」と思ってきたという作者。7年前には、動物との生活に必要な知識や資金が得られたと考え、ペットと暮らせる物件に引っ越します。
ほどなくして、動物病院に勤めている友人から連絡が入ります。「病院の前に猫が捨てられていた。飼えないか」。運命的なものを感じ、当時、生後約1カ月だった雑種猫の兄と妹をもらい受けました。
自らと異なる命を引き継ぐことは、簡単ではありません。2匹とも子猫のときは、昼夜を問わず家の中を走り回りました。
女の子の方は吐き癖があるため、じゅうたんを敷けなかったり、床に本を置けなかったり。気を遣わなければならない場面は数え切れないといいます。
一方の男の子は、トイレの砂へのこだわりがすさまじく、気に入らないと洗面台やお風呂で用を足してしまうことも。
また毎朝5時頃になると、耳元まで来て何度も大声で鳴き、起こしてくるそうです。「体調を崩しているときは、さすがにしんどい」と苦笑します。
それでも日々、驚くほど新鮮で愛らしい姿を見せてもらっていると、作者は喜びます。
「全てのフォルムが完璧で美しく、起きていても寝ていても変わらない。『可愛い』が凝縮された生命体だなと感じています。どれだけ面倒をみるのが大変でも、全部忘れてしまうほどです」
猫たちへの深い愛情を、いっぱいに詰め込んだ今回の漫画。後半につづられた「お金以外にも、飼い主の『心の余裕』が必要になる」というセリフは、特に大きな反響を呼びました。
しかし、頭で理解できても、実践するのは簡単ではないかもしれません。一体、どんな点を意識すれば良いのか――。作者は、次のように話します。
「本当に、こればっかりは何とも言えません。性格や個性が全然違うので、一緒に暮らしてみないと、わからないことも多いですから。ただ、正しい知識があれば、うまく対応できるケースは少なくないと感じます」
「たとえば、猫がずっと鳴き続けている場合、何か伝えたいことがあるのかもしれません。その原因を解決すると、対処できるように思います」
そして「そういう子だから仕方ない」という慣れと、「自分とは違う生き物である」と多様性を受け入れる気持ちも欠かせないと言います。
「家族であり、仲間だけれど、きちんと線引きはしないといけないのではないでしょうか」
「漫画ではきつめの言葉を使ったので、炎上する可能性もありました。ただ、もしそうなってしまったとしても『動物との暮らしについて、深く考えてくれる人が増えるなら構わない』と思っていました」
作者はそう振り返りつつ、真剣に動物と向き合おうとする感想が多かったことに「温かいリプライや引用リツイートばかりで、ありがたいです」と感謝します。
警察庁によると、昨年一年間に摘発された動物虐待事件は105件。2010年に統計を取り始めてから3倍以上増え、過去最多でした。
こうした現実を理解しようすることが、状況を変える第一歩となりそうです。作者は語ります。
「漫画へのコメントは、実際に動物と暮らしている方からの『わかる!』『これこれ!』というものも多かったと思います。『ペットは家族』との考え方が支持を得るようになったのは、インターネットの普及と比例していると感じます」
「どんな情報も、多ければ多いほど、正しく判断するための材料になります。ひどい虐待事件や、動物がかかるかもしれない難病に関する内容も含め、まずは知ることが大切ではないでしょうか」
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