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「呪術的過ぎる」製鉄所の機関車、正体は?「目玉印」に隠された歴史

「プリミティブ」な機関車の秘密

まるで一つ目のように見える、ディーゼル機関車。独特なフォルムには、意外な歴史と機能がありました
まるで一つ目のように見える、ディーゼル機関車。独特なフォルムには、意外な歴史と機能がありました 出典: 神鋼物流提供

目次

赤地に水色の一本線が入ったボディ。ところどころにすすけやサビが見える、重厚な外観ーー。「なんて呪術的なんだ」。インターネット上でたびたび話題に上がり、そう表現される「機関車」があります。神戸製鋼所加古川製鉄所(兵庫県加古川市)の構内を走るディーゼル機関車は、一度目にすると忘れられないような、たくましさを備えています。見る人の心を捕らえて放さない、独特なフォルムの列車は、なぜ生まれたのか。その背景について取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)

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一度目にしたら忘れられないデザイン

人々の注目を集めた機関車のうち、何より特徴的なのは、車体最前部に見えるデザインです。グレーの金属板に浮かぶ、中心に黒丸が描かれた菱(ひし)形のマーク。頂点から線が突き出ており、まるで目玉のよう。数台が並ぶと、どことなくプリミティブな雰囲気が漂います。

「これは”見られている”気分になる」「神話に出てきそう」「呪術的」ーー。ネット上では、その外観について話し合う人々が少なくありません。強烈な印象を受け、何とも言えない魅力を感じた、という意見も多いようです。

加古川製鉄所内に並んだディーゼル機関車。複数台あると、その威容が際立つ。
加古川製鉄所内に並んだディーゼル機関車。複数台あると、その威容が際立つ。 出典: 神鋼物流提供

製鉄作業に不可欠な存在

不思議な見た目の列車を動かす主体となっている企業は、神戸製鋼所の子会社・神鋼物流(神戸市中央区)です。一体、どのような目的で造ったのでしょうか? 同社加古川運輸室の中村正巳(まさみ)室長に尋ねてみました。

中村さんによると、製鉄の過程で、鉄の原料となる鉱石を溶かすといった作業が発生します。その際に出た高温の溶融物を、敷地内の別の工場へと運ぶ役割を担っているのが、ディーゼル機関車なのです。

より正確に言えば、溶融物は「トーピードカー」と呼ばれる、内部に耐火性が高いレンガを貼るなどした、特殊な車両に注ぎ込まれます。満タンになると、300トンほどの重さに。一台の機関車で、これを最大2両引っ張れるといいますから、相当な馬力です。

1966年に初めて導入されて以来、保有台数が徐々に増えていきました。現在製鉄所構内に配備済みの41台は、用途に応じて、車体の重さが異なる5種類に分けられるそうです。このうち自動運転車を含む34台が、24時間365日休まず、常に運行しています。

ちなみに2014年には、待ち時間に出てしまう二酸化炭素の量を減らすため、鉄鋼業界で初めてアイドリングストップ機能を導入。環境にも配慮したシステムになっています。

製鉄所の構内を走るディーゼル機関車
製鉄所の構内を走るディーゼル機関車 出典: 神鋼物流提供

いずれ見られなくなるかも

ところで、気になる「目玉」の由来は何なのでしょうか? 神戸製鋼所コーポレート・コミュニケーション部広報グループの松崎道弘次長によると、同社の社章を刻んだものといいます。

神戸製鋼所は1905年創業。当時関係が深かった総合商社「鈴木商店」が経営する大里製糖所(現・関門製糖)で、中心部に「S」と書かれた菱形のシンボルを砂糖袋に付けていたことにちなみ、同じマークを社章に採り入れました。

37年には菱形の頂点が突き出るように改められます。ところが太平洋戦争が開戦した41年、「敵国である英米の言葉」としてアルファベットの使用を避ける風潮が強まりました。新しい図案を社員から公募した結果、「S」を「日の丸」へと置き換えることになったのです。

これが終戦以降も残り、ディーゼル機関車などにあしらわれます。ただ松崎さんいわく、同社は79年から「KOBELCO(コベルコ)」の国際統一商標を使っており、いずれこの言葉に置き換えるのだそう。現在の社章の使い道は、社旗と記章(バッジ)に限られる予定といいます。

ゆくゆくは見られなくなるであろう、機関車のデザイン。ネット上で注目を集めていることについて、松崎さんは「工場の見学などは実施しておらず、列車も外部向けに造ったのではない。やや戸惑っているのが正直なところ」とした上で、次のように話しました。

「製鉄所内で鉄道が走っているというのは、確かにそれほど知られていないかもしれません。BtoBの業態なので、あまり世の中にアピールするチャンスがありませんが、これを機に関心を寄せて頂けたらうれしく思います」

加古川製鉄所の夜景
加古川製鉄所の夜景 出典: 神鋼物流提供

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