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「罪悪感もよおす」ウズラの卵のパッケージ 生産者が込めた強い覚悟
「これくらいしないと、印象に残りませんよ」
「これ、めっちゃ食べづらい」。そんな感想が、思わず口を突くような名前を冠した、ウズラの卵が売られています。商品画像がツイッター上に投稿されるや、話題沸騰。えも言われぬ罪悪感を抱く人々が続出しているのです。一方、生産者の男性は「賛否両論出るのは覚悟の上」と、あくまで強気の姿勢を崩しません。命へのまなざしがたっぷりこもった一品の、誕生秘話を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
8月7日、ウズラの卵が大量に詰め込まれた、プラスチックパックの画像がツイートされました。
一見すると、スーパーなどの店頭に並ぶ、鶏卵の入れ物と見まがうデザインです。しかし包装紙には、りりしい表情をしたウズラの写真と共に、こんな文字が踊っています。
「命のカプセル」「元気な命をまるごとどうぞ」
画像を見た人々からは、「これは食べられない」「もう孵化(ふか)させるしか……」「自然に感謝せざるを得ない」といった声が相次いで上がりました。
食べづらいやんけ pic.twitter.com/jOPMwkfATr
— わさお (@wa_sa_o_ro) August 7, 2020
この「命のカプセル」という商品の製造・販売元は、静岡県湖西市の企業「浜名湖ファーム」です。3町歩(3ヘクタール)ほどの農場で、約6万羽のウズラを飼い、一日約4万個の卵を生産。鳥のふんを堆肥(たいひ)化し、農家に提供する事業も行っています。
不思議な語感の名前が生まれた経緯について、代表取締役社長の近藤哲治さん(58)に尋ねてみました。
静岡県で生まれ育った近藤さんは、大学卒業後、同県の建築会社に就職します。そして2000年に結婚し、義父が営む、ウズラ農家を受け継ぎました。法人化を経て、専門外の業務に四苦八苦しながら取り組むうち、飼育上の「矛盾」に気がついたそうです。
「たとえば、ひな鳥を育てる過程で、抗菌剤やホルモン剤を投与するのは一般的です。ただ消費者の安全・安心を守るという観点で捉えると、必ずしも論理的な選択とは言えません。食べてくれる人に元気になってもらうには、本当の意味で健やかな命を育む必要があると考えました」
そこで薬剤の代わりに、糀(こうじ)菌といった微生物を混ぜ、ミネラル分などを豊富に含むエサを採用。いわば発酵食品を食べさせることで、健康を維持しているのだといいます。
一羽のウズラが成長するには、様々な生き物の力を借りねばならない。そして彼らが産んだ卵は、他の多くの命をつなぐーー。動物の一生から、そうした「循環」を見て取った近藤さん。丸く殻を持つ卵になぞらえ、「命のカプセル」と名付けることにしました。
商品パッケージの構想は、個人的に面識があった、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに依頼しました。協議を重ね、卵のイメージをわかりやすく伝えるため、ひな鳥のバストアップ写真を掲載したのです。
「これが、バイヤーたちの不評を買った。でも賛否両論は覚悟の上。これくらいしないと、印象に残りませんよ」。近藤さんは苦笑します。
ところが、近隣の産直や道の駅で売り出してみると、まろやかで濃厚な味わいが評判に。現在では地元の小学校に給食用として卸しているほか、県外の居酒屋などにも提供しています。
「命をいただいている」という感覚を、もっと多くの人々に養って欲しい。そんな思いから、農場での採卵体験も実施してきました。参加者は、実際にウズラと触れ合うことができます。その愛らしさに魅了され、所定の金額を支払い、連れ帰る人もいるそうです*註。
とはいえ、最近は新型コロナウイルスの影響で、客足が鈍化。減産体制も続く中、ツイッター上で商品が話題となったことに勇気づけられたと、近藤さんは語ります。
「もし興味を持って下さったのであれば、ぜひ食べてもらいたい。私たちが卵に込めた思いを、情報としてではなく、体で実感していただけたらありがたいですね。もちろん、味は保証しますよ」
卵は、浜名湖ファームのウェブサイト経由でも購入できます(10個入り2パックセット=400円、18パックセット=3600円、30パックセット=6000円など・いずれも税込み価格)。
【関連リンク】浜名湖ファームの公式ウェブサイト
【関連リンク】浜名湖ファームの通販サイト
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