ネットの話題
「心臓が痛い」動物の虐待防止広告 子犬捨てる親子を非難した理由
「虐待と遺棄は、絶対に許さない」
愛くるしい表情で、私たちに癒やしを与えてくれるペットたち。「面倒を見切れない」といった理由によって、飼い主に捨てられてしまうケースが後を絶ちません。こうした現状に一石を投じようと作成された啓発広告が、大きな話題を呼んでいます。優しいタッチで描かれたイラストににじむ、「動物の遺棄や虐待を絶対許さない」という強烈なメッセージ。ショッキングな一枚が誕生した背景について取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
今年7月1日、日本動物愛護協会が手がけた、ある広告が公開されました。
淡い色調で描かれた、母親と幼い子ども。収まった箱から、顔を突き出す子犬の前に、悲しげな表情でしゃがみこんでいます。そして「親切な人に見つけてもらってね」「いままでありがと」というセリフによって、二人が子犬を捨てる場面であることが示されます。
その下に視線を移すと、白無地の背景に、こんな一文が浮かび上がるのです。「優しそうに聞こえても、これは犯罪者のセリフです」「どんな理由があろうと、どんなに心を痛めようと、動物を捨てること・虐待することは犯罪です」。
同月に画像がツイートされると、「心臓が痛い」「本当にその通り」といったコメントがあふれました。この広告は新聞や雑誌で見られるほか、同じモチーフのテレビ・ラジオCMも放映中です。
絵柄と内容のギャップが、見る人に衝撃を与える今回の広告。どのような狙いから生まれたのか、日本動物愛護協会の廣瀬(ひろせ)章宏事務局長を取材しました。
広告は、動物の適正な飼育を呼び掛けるため、ACジャパンによる支援事業の一環として制作されました。昨年7月~今年6月末に同じ枠組みで展開された、飼い猫への接し方について伝える「にゃんぱく宣言」キャンペーンに続く、第二弾の取り組みに当たります。
警察庁によると、昨年1年間に摘発された動物虐待事件は、105件に上ります。統計を取り始めた2010年と比べ3倍超となり、過去最多でした。
今年6月1日には、愛護動物の取り扱いを厳格化する目的で、改正動物愛護法が施行。みだりに殺傷すると5年以下の懲役か500万円以下の罰金、ネグレクトや遺棄などの虐待を行った場合は、1年以下の懲役か100万円以下の罰金が科されるようになりました。
「私が入職して間もない頃も、飼い主に捨てられた猫が虐待され、命を落とすという事案がありました。外部から相談を受け、保護を検討していたさなかのことです。今も悔しさや無念さは消えません。愛護動物の遺棄や虐待は、犯罪行為であるにもかかわらず、軽く考えられがちなのではないでしょうか」
今年度もACジャパンの支援団体に選ばれ、廣瀬さんたちは「動物の遺棄・虐待の防止」をテーマとしたキャンペーンを提案。テレビとラジオCM、そして新聞・雑誌向け広告の形に仕上げました。
柔らかい世界観を、あえて破壊する構成としたのは、30~40秒のCMを念頭に置いた判断です。短い時間で、いかにわかりやすくメッセージを表現するか。検討の結果、優しい雰囲気のイラストと、「犯罪者」という強い印象を持つ言葉の組み合わせに結実しました。
廣瀬さんによると、協会には、飼えなくなった動物に関する相談が寄せられます。「ペット不可の物件で飼育した」「予想より大きく育った」「慣れなくて可愛くない」。そのように、身勝手と受け取れるものも少なくありません。
動物たちの幸せが人間にかかっているのは、言うまでもないことです。息を引き取る日まで、そばにいられるか。ふさわしい飼育環境や、万一のときの受け皿は準備できるか。自宅へと迎える前に、一つ一つ確認して欲しいと、廣瀬さんは強調しました。
「飼えなくなった動物の引き取り先を見つけるのは、簡単ではありません。命を預かっているという責任において、飼い主が率先して動かなければ、誰も関わってはくれないのです。個々の事情はあると思いますが、命の問題です。努力を惜しまないで下さい」
「友人や知人に声をかけたり、お住まいの地域の動物愛護センターや、最寄りの動物愛護団体に問い合わせたりする。動物病院に、新たな飼い主を募るチラシを貼らせてもらう。そうした手立てはあります。しかし、いずれにしても、動物たちにとって飼い主が変わるのは大変つらいことです」
「何があっても、捨てるという選択は絶対にしないでもらいたい。今回の広告が、動物好きな人にも、そうでない人にも見てもらえるよう願っています」
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