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連載

#24 #カミサマに満ちたセカイ

「ぴえんもご縁」ハイセンスな仏教解説広告が話題 名物住職の思いは

SNSを駆使する僧侶が作った伝説

意外な表現が満載の「法語」。手がけたお寺の住職に、話を聞きました
意外な表現が満載の「法語」。手がけたお寺の住職に、話を聞きました 出典: 松崎智海さんのツイッター(@matsuzakichikai)

目次

悲哀や歓喜の感情を、ユーモア混じりに示す流行語「ぴえん」。若者を中心に使われている、キャッチーな表現です。この語句を、仏教の信仰についてわかりやすく説く「法語」に取り入れたお寺があります。ツイッター上で画像が公開されると、その秀逸な言葉選びに感じ入る人々が続出。最先端の「文化」に触れ、敏感に反応した住職の胸には、どのような思いがあったのでしょうか? 一部始終を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)

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「優しく美しい解説」と大好評

「ぴえんもご縁 超えてご恩」。7月26日、浄土真宗本願寺派の寺院「永明寺(えいみょうじ)」(北九州市)敷地内の掲示板に貼り出されたという、そんな法語の画像が投稿されました。

一見はやりに乗っているようでいて、その実、深い意味があるのではないか――。見る人にそう思わせる一節の真横には、白無地の用紙に刻まれた、次のような解説文が添えられています。

【法話の解説】

「ぴえん」は若者の間で流行している泣き声を表す擬態語で、嬉(うれ)しいことや悲しいことなど泣きたいほどの感情を伝える言葉です。

より度合いが強い派生語としての「ぱおん」という表現も生まれ「ぴえん」と組み合わせた「ぴえん超えてぱおん」は「JC・JK流行語大賞2020上半期」コトバ部門で第5位にランクインしています。

この法語が分かりにくい時は「ぴえん」を「悲しみ」と読み替えてみてください。辛(つら)いことが続くこの人生ですが、「悲しみ」もまた「ご縁」として受け止め、いつか「ご恩」として感じることができる日が来ることを願っております。

永明寺 住職

※改行・ルビは記者による
永明寺で掲示されている法語

「すっごい好き」「なんて優しく美しい解説」。タイムライン上には、巧みな言い回しに胸を打たれた人々のコメントが連なりました。29日時点で19万以上の「いいね」がつき、リツイート数も5万9千回を超えています。

永明寺の掲示板に貼り出された、法語の解説文。「ぴえん」の意味や、仏教用語の一つ「縁」との関連性について説いている。
永明寺の掲示板に貼り出された、法語の解説文。「ぴえん」の意味や、仏教用語の一つ「縁」との関連性について説いている。 出典:松崎智海さんのツイッター(@matsuzakichikai)

「縁」と「恩」のつながり、伝える難しさ

投稿の主は永明寺住職・松崎智海さん(@matsuzakichikai)です。今年4月には釈迦(しゃか)の誕生日に合わせ、ツイートが拡散された数だけ仏像に甘茶をかけるイベントを実施。YouTubeで生配信するなど、インターネットを駆使した伝道活動で注目を集めてきました。

【関連記事1】「リツイート数だけお釈迦様に甘茶を…」想定外の事態に叫ぶ住職
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松崎さんが「ぴえん」を知ったきっかけは、子どもたちです。この言葉が歌詞に盛り込まれている歌を、ネット動画で聴くなどして、よく口ずさんでいたそう。7月に入ってから、流行語となっていることを伝えるテレビ番組を見て、人気ぶりを理解したといいます。

「その後、妻から『この言葉を法語にしてみて』と頼まれました。そこで仏教が大切にしている『縁』の考え方に引き付ける構成とし、妻が墨書したものを、お寺の門前にある掲示板で公開したんです」

そして4日には写真をツイートします。ところが、予想していたほど閲覧されなかったのです。

「仏教的に解釈すれば、喜びも悲しみも、一人一人が『縁』として引き受けるもの。よい・悪いという評価は、自らの心によって決まります。その意味で『ぴえん』と『ご縁』の関係性はわかりやすい。一方、なぜ『ご恩』につながるのかが、うまく伝わらなかったのかもしれません」

たとえ苦難を体験したとしても、後に振り返れば「一つの縁だった」と思える。悲しい出来事もまた、「この私」を生かしてくれているのだ、と感謝できる――。そうした意図を、改めて記述する必要があるのではと、松崎さんは感じていました。

永明寺住職の松崎智海さん(本人提供)
永明寺住職の松崎智海さん(本人提供)

言葉がすくい取った社会の悲しみ

加えて、掲示板を見た近所の男性が、「よく意味がわからない」と松崎さんの父親に質問してきたのです。父親は、その場で解説文を作ると約束。「いつの間にか話が進んでいて、結局私が手がけることになりました。少し『ぴえん』でしたね」。松崎さんは笑います。

ネット上で調べた情報を下敷きに、A3判の紙に冒頭の文章を書き入れ、境内に掲出したのは26日のことでした。ツイッター上で大きな人気を得たことに、松崎さんは確かな手応えを得たそうです。

「掲示物の情報は、遠くからでもよく見えるよう、大書する必要があります。細かい文字でつづっても、目を通してくれる人はほとんどいません。しかしツイッター上では、画像を拡大して読むことができる。そのおかげで、これまで以上に表現の幅が広がりました」

ところで、法語はなぜ幅広い層に受け入れられたのでしょうか? 松崎さんは、次のように分析します。

「新型コロナウイルスの流行により、多くの命が失われたり、職を失う人が出てきたりと、悲しい出来事が相次いでいます。社会全体がどんよりし、思わず『ぴえん』と言いたくなるような状況です。だからこそ、その言葉を扱う内容に、共感して頂けたのかもしれません」

「仏の教えに興味を持つきっかけに」

仏教や「ぴえん」について、詳しく知らない人々の目にも留まった、今回のツイート。世の中の苦悩をすくい取る僧侶として、「仏の教えに興味を持つきっかけにして欲しい」と、松崎さんは話しました。

「掲示物の役割は『引っかかり』をつくることです。見る人に、1秒でも長く足を止めてもらえるものに仕立てたい。そうすれば『これは何だろう?』と疑問を持ってもらいやすくなります」

「ウイルスの影響が落ち着いたら、ぜひ気軽にお寺の門をくぐり、遊びに来て頂きたいと思います」

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