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生理ショーツはくと「死にたくなる」驚いた女優は前例ない下着作った
外からは見えないのに、肌に一番近い服、下着。着心地やサイズ、デザイン、機能性など、下着へのこだわりや悩みを持つ人は少なくないはず。でも、下着の悩みを人と共有することはあまりないのでは?
生まれた時は男性で、現在は女性として生活する女優の麻倉ケイトさんは、そんな下着の大切さに注目し、着ることで自分に自信を持てるような下着ブランドを立ち上げました。
元々は自身と同じトランスジェンダーの当事者向けの下着を想定していました。しかし、商品開発の過程で意外なことに気づきました。
麻倉さんが昨年8月に立ち上げた下着ブランド「ユニラーレ」。宇宙(ユニバース)の「ユニ」とトルコ語でチューリップを意味する「ラーレ」を組み合わせたオリジナルの言葉です。
チューリップをシンボルには、童謡「チューリップ」の歌詞「あか、しろ、きいろ どのはなみてもきれいだな」から「どんな人でも個性があって美しい」というメッセージを込めました。
商品は現在、男性として生活する人向けのボクサーパンツとシャツ、女性として生活する人向けのショーツの3種です。
トランスジェンダー向けの下着と聞いたとき、女性に生まれ女性として生きてきた筆者には、「胸の肉や、股間のふくらみを抑える機能がついているのだろう」というくらいしか想像がつきませんでした。
ところが麻倉さんの説明を受けて、自分の考えが甘いことに気づきました。
「FtM(Female to Male、女性として生まれ男性として生活する人)向けには『ナベシャツ』と言って胸をぴったり押さえるような下着がこれまでもありました。でも、締め付けが強すぎて普段の生活では『1時間に一度は脱がないと無理』という当事者もいるんです」
もし自分が体をぎゅうぎゅうに締め付ける下着を毎日着けないといけないとしたら? 確かに、考えるだけで息が詰まりそうです。
麻倉さんがトランスジェンダー当事者の下着の悩みに気づくきっかけになったのは、自身が企画した当事者向けのウェディングショーです。
実は、麻倉さんはトランスジェンダー当事者としては初のウェディングモデル。182センチのすらりとした長身を生かしてウェディングドレスを着こなしてきました。
ウェディングドレスが憧れだったという麻倉さん。もっと多くのトランスジェンダー当事者も参加できるような機会があれば、と定期的にショーを企画しています。
2013年、ショーの控室で参加者たちが「ブラジャーってみんなどうしてる?」「骨格に合う下着がなくて」と話しているのを偶然耳にしました。
尋ねてみると、下着の悩みを持つ当事者たちが多いことに驚きました。麻倉さんは骨格が元々細く、既製の下着をつけても悩むことがなかったためです。
MtF(Male to Female、男性として生まれ女性として生活する人)当事者からは「既製品のブラジャーはアンダーバストが細すぎてサイズがない」「股間の膨らみが気になってタイトスカートがはけない」といった声があがりました。
とりわけショックを受けたのは、FtM当事者のショーツについての悩みでした。
「生理がくると、自分は女性だということを思い出してしまってただでさえ嫌なのに、女性用の生理ショーツをはかないといけない。死にたくなるくらい苦痛」
女性が生理になったときは、市販のナプキンが貼りやすい加工が施された生理用ショーツをはきます。見た目も男性用の下着とは一目で違うことが分かります。
なぜ、トランスジェンダーの悩みを解決するような下着が売っていないのか。麻倉さんは「前例がないなら作ればいいんだ」と思い立ちました。
まず、トランスジェンダーの当事者へ、徹底した聞き取り調査を始めました。
インターネットや知り合いを通じて悩みを聞き取ったり、東京レインボープライドなどのイベントでアンケートを募ったり。約150人の声を集めたところ、下着の悩みは麻倉さんの想像以上に多岐にわたりました。
例えば、こんな悩みです。
下着そのものの悩みから、思い通りにならない体の見た目の苦痛まで。こういった悩みに答える下着はどこにもないので、一から作る必要がありました。
麻倉さんは国内の衣料メーカーの協力を得て下着のプロトタイプ(原型)を作成。トランスジェンダーのモニターに試着してもらい、改良を重ねました。
男性として生活する人向けの補正シャツ(税込み11000円)は、胸全体を優しく抑えつつ、胸とお腹の段差をパッドで埋めることでフラットなバストラインを実現。
ボクサーパンツ(9900円)は取り外し可能なパッドで男性特有の股間の膨らみを作りつつ、男性のような小さなお尻に見えるよう引き締め機能も付いています。もちろん、生理時のショーツの機能も施しました。
女性として生活する人向けのショーツ(12000円)は、股間の膨らみをカバーしつつ、丸いお尻に見えるパッド付。
レースで飾るなど見た目も市販の女性用下着にしか見えないよう工夫されています。これらはいずれも、特許を取得しました。
昨年から受注生産の形で限定的に販売を始めましたが、トランスジェンダーの当事者からの反応は上々で「早く手に入れるにはどうすれば」と切望する人もいたそうです。
色も現在は黒のみですが、特に制服の下に着られるようにと学生からの希望が多い白も販売予定です。色のバリエーションも今後展開していくことを検討しています。
開発が難しいため時間がかかっていたブラジャーも、近く販売を予定しているそうです。
そんな中、麻倉さんが驚いたことがありました。
ユニラーレの下着を、展示会などでトランスジェンダーの当事者ではない客が気に入ってくれたことでした。
お尻が小さい、胸が大きすぎる…。体つきの悩みは性自認に関わらず、人それぞれ持っています。下着には、あえて「トランスジェンダー向け」とうたわないようにしました。
麻倉さん自身は幼い頃から「自分は女の子。大きくなったらお母さんのようになるんだ」と思っていましたが、小学生になった頃、「お母さん側」じゃないということに気づきます。
気持ちを隠しながらしばらく男性として生きてきましたが、2009年にカミングアウトし、翌年から「麻倉ケイト」として活動しています。
そんな自身の経験から、下着の存在を通じて「こんな体の悩みを持っている人がいるんだと社会に分かってほしい」と考えています。
「なりたい自分になってもいい」。そんな気持ちに寄り添う下着にしたいと麻倉さんは話しています。
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