お金と仕事
10万円の給付金で何買った? 妻の一言で決定、テレワークでの気づき
30代夫婦の場合「いつかしたい」から「早くしたい」に
新型コロナウイルスの拡大感染を受けて生まれた「特別定額給付金」。1人あたり一律10万円という給付は、受け取る人の経済状況だけでなく、その人の価値観などによって、使い道の選択肢が無限に広がります。在宅ワーク、学校のオンライン授業など、新しい生活に向き合わなくてはいけなくなった中、気になるのは「他人の給付金の使い道」です。神奈川県に住む30代の夫婦が見つめ直したのは「住まい」でした。10万円の使い道を決めるまでの「道のり」から、コロナに向き合う人々の姿を見つめ直します。
今回話をうかがったのは、神奈川県横浜市に住む新婚2年目の杉山夫妻(夫:Sさん、妻:Yさん、ともに30代)。現在の住まいは、東急東横線沿線の2DKで約40㎡。今のマンション歴は、同棲(せい)期間も含めて今年で8年目になる。
妻「私は都内にある制作会社のwebデザイナーとして働いているので、コロナでリモートワークに切り替わりました。パソコンさえあればどこでもできる職種というのもあってか、緊急事態宣言が解除された今でもリモートワーク継続中です。今の所、以前のような出勤スタイルに戻る予定はないようです。夫は神奈川県内のアパレル系の会社で働いています。内勤業務が多かったので、やはりリモートワークになりました。6月に入ってからは出社解禁になり、今は週3日出勤しています」
夫「居室を個人の部屋にしていたのは正解でしたね。朝から、それぞれ自分の部屋で仕事をして、ちょっとした休憩やお昼時間にリビングで顔を合わす。自宅にいながらもオンオフがはっきり分けられて、自然とメリハリがつけられたと思います。長い時間一緒にいすぎると、お互いにイライラして夫婦仲が悪くなったり、離婚してしまったりするケースもあるとニュースで流れていましたが、うちの場合はそれに当てはまりませんでしたね。特にケンカもなかったですし。ただ、敵は妻ではなくリビングでした……」
杉山夫妻が住むマンションは、30年くらい前にはやったつくりで、リビングに窓がないそう。
夫「とにかく日当たりが悪い。今のマンションに住みはじめてから知ったんですが、新しいマンションやリノベーションされたマンションでは、必ずリビングに窓をつくるそうです。裏を返せば、それだけ窓は重要だってことですよね。個人の部屋には窓があるので、妻の部屋を夫婦の部屋にして、僕の部屋とリビングをつなげてL字の大きなリビングにすることも考えましたが、荷物が多いから個人の部屋は絶対に確保したいと反対されて…」
妻「同棲するときの条件に『個人の部屋を持つ』っていうのがあったんで、そこは譲れませんでした(笑)」
夫「僕は昔から活動的で、コロナ前は飲み会などのイベントを主催して、友人とワイワイすることも多かったんです。だから、自粛期間中は外出できないことがすごくストレスでした。さらにリビングに窓がないから、仕事中の息抜きに外の風景を見たり、外気に触れたりしてリフレッシュすることもできない。もう、気分はモグラです。自宅でじっとしていることもあり得ないけど、密閉された空間がこんなにストレスになるのかと…。解放感や明るさといったことも含めて、住宅空間の大事さを痛感しました」
夫「『特別定額給付金』の配布が正式に決定したときは、2人で『ヤッター!』って喜びましたね。横浜市は他に比べてスタートダッシュがやや遅れましたが、僕たちはオンライン申請をして2.3週間くらいで振り込まれました。予想外に早く振り込まれたうれしさもあって、何に使おうかワクワクしながら考えましたね。でも、コロナで飲食店が大ダメージを受けているニュースがたくさん流れていたので、少しでも世の中のためになればいいかなと思って、はじめは近所の居酒屋やよく行く飲食店でのご飯代にしようかなと考えていたんです。でも、妻の『これで引っ越ししようよ』という一言で、使い道が決定しました」
妻「正直な所、今の部屋にそこまで大きな不満はないんです。築30年以上のマンションだから全体的に少し古いというのはありますが、『個人の部屋が持てること』と『大きな収納があること』という条件で見つけたマンションなので、2つの居室は個人の部屋として使っていて、プライベートは保たれていますし、私の部屋には大きな押し入れがあって収納に困りません。それに、マンションのまわりは自然が多くてのんびりしているし、駅近だし、歩いて30秒くらいの場所にコンビニもあります。人通りもあるから、夜遅くなっても大丈夫です」
夫「ただ、在住歴が8年目と長くなってきたのと、妻の職場が都内にあるのとで、去年辺りから漠然と引っ越しを考えていました。でも、コロナの影響で2人ともリモートワークになってからは自宅で過ごす時間が増えて、引っ越しを『いつかしたい』という気持ちが『早くしたい』に変わっていたんです」
妻「今回のコロナで、住む環境がいかに大事なのかがわかって、物件の条件が変わりました。コロナ前は勤務地に近くて出やすい場所がいいと思っていたので、東急東横沿線の武蔵小杉などの主要駅で、さらに駅近という条件で探していました。でも、今は立地や交通の便は、以前ほど重要視していなくて、東京から多少離れていてもいいし、各駅でもいいと思うようになりました。今の第一条件は、『広くて家賃の安い場所』です。駅からの距離が多少あっても、第一条件がクリアしていれば、問題ありません。」
夫「もちろん、リビングに窓があるのは必須です(笑)。」
妻「間取りは2LDKで、自分の仕事部屋は確保したいです。あと、収納も大きい方がいいかな。デザイナーズマンションとか、外観がオシャレなところや宅配ボックス付き、建物のまわりには緑があるなど、上げたらキリがないですが、東急線、田園都市線、JRと範囲を広げる中で、快適に過ごせそうな物件を探しています。」
リクルート住まいカンパニーの調査が2020年4月に調べた「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態」調査によると、47%の人がテレワークを実施。前回調査(2019年11月)に比べると30ポイント増加した。「テレワークの実施場所」として一番多いのは「リビングダイニング(ダイニングテーブル)」の55%。杉山夫妻のような「専用ルーム(書斎等)」は2番目の16%だった。
今後の住み替え意向については、24%が住み替えを検討していると回答。理由としては「今より部屋数の多い家に住み替えたい」が最多の40%だった一方、「今よりリビングは広くしたい」(27%)など、リビングを理由にしたものも目立った。
同社のSUUMO編集長 池本洋一さんは「今後の住まいは、駅距離よりも広さが重視され、広さをもとめた郊外化の動きも広がるだろう。また、リビングの広さを残しつつ3畳程度の在宅ワークができる個室スペースを確保するパターンも増えていくのではないか」と話している。
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