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アイドル、辞めるまでを漫画に「君は全力だった」卒業シーンに号泣

夢破れてなお、あなたは私たちを救ってくれた

「卒業」ライブで涙を流す、女性アイドル。目標を達成できないまま、ステージを去る彼女の決断に隠されたドラマとは……
「卒業」ライブで涙を流す、女性アイドル。目標を達成できないまま、ステージを去る彼女の決断に隠されたドラマとは…… 出典: はなさくさんのツイッター(@ha739)

目次

人々に希望を与える存在、アイドル。スターダムを目指し努力する姿に、励まされているファンは少なくありません。しかしあえて、その「去り際」をテーマとした漫画が、ツイッター上で大きな支持を得ています。夢破れてもなお失われることがない、エンターテイナーとしての本質を、丁寧に描き出しているからです。「全アイドルを賛美したい」という気持ちに突き動かされたと語る、作者の思いに迫りました。(withnews編集部・神戸郁人)

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くすぶり続けても諦めない主人公

「私、アイドル辞めます」。そう名付けられた36ページの漫画が投稿されたのは、6月4日のことでした。

舞台は福岡・博多。地元で活動する、4人組グループのメンバー「チューリ」こと千優里が主人公です。

20歳でステージに立った千優里。15000人を収容する「マリンメッセ福岡」でのパフォーマンスを目標に、4年間、小さなライブハウスで懸命に舞い踊っています。

漫画「私、アイドル辞めます」
漫画「私、アイドル辞めます」 出典:はなさくさんのツイッター(@ha739)

現実は甘くありません。ライブ後に自撮り写真をツイートしても、ついた「いいね」は100足らず。くすぶるグループに見切りをつけ、何人もの同期生が「卒業」していきました。それでも千優里は、コールセンターでのアルバイトして活動費をため、日々筋トレに取り組みます。

そんな姿について、ファンたちはレストランで語り合っていました。「よく心折れないよな」「推しが頑張ってるから、俺も頑張ろうって思える」。全員が千優里を加入当時から応援し、真面目な正確についても知っています。そして彼女を支え続けようと、決意を新たにするのです。

出典:はなさくさんのツイッター(@ha739)

プロデューサーに電話で伝えた言葉

しかし千優里の境遇は、どんどん厳しくなっていきました。舞台上での動きを学ぼうと、若手グループのライブを見に行くと、観客から「あいつ見飽きた」と陰口をたたかれる。メンバーに自主練習を提案しても、「オフの時くらいのんびりしたい」と断られてしまう……。

「なんでアイドルしてるの?」「私は本気でマリンメッセに行くつもりだよ」。あるとき、千優里はメンバーに迫りました。ところが「現実見なよ」と、苦笑しながらたしなめられ、強いショックを受けます。いつの間にか、埋めがたい意識差が生まれていたのです。

出典:はなさくさんのツイッター(@ha739)

帰り道、スマートフォンの画面上に流れてきた、同級生の結婚写真。見た途端、頑張っても報われない現状への思いが、千優里の中であふれます。JR博多駅前に着いたとき、幸せそうに過ごすカップルや学生たちに囲まれながら、プロデューサーに電話でこう伝えました。

「すみません… 限界です……」

出典:はなさくさんのツイッター(@ha739)

「全力でアイドルをやれるかが大事なんだ」

やがて迎えた、卒業ライブ当日。千優里は歌い踊りながら、これまでの記憶をたどっていました。初めてCDを出せたときのうれしさ。仲間と県外に遠征したこと。ファンから手紙をもらえた喜び。そしてマリンメッセを目指し、汗を流し続けた毎日……。

「夢をおおやけにして活動して みんな期待してくれてたのに」「何も出来ないまま卒業することになってごめんなさい」。公演後のあいさつで、千優里は涙を流しながら、詰めかけたファンたちに謝ります。

出典:はなさくさんのツイッター(@ha739)

しかし、彼ら・彼女らの反応は意外なものでした。他県からライブに参戦し、友達になった人々。会場で知り合い、付き合い始めたカップル。千優里の歌に救われ、自死を思いとどまった女性に、仕事を頑張ってきた男性。その誰もが、感謝の言葉を口にしたのです。

プロデューサーの車に乗り、会場を後にする千優里。ラストシーンには、夜の町を照らす街灯の光を浴びながら、泣きじゃくる彼女の姿が描かれます。そして、こんな言葉で締めくくられるのです。

出典:はなさくさんのツイッター(@ha739)

「アイドルというドラマは どんなエンディングかは重要じゃないと思う」「夢を摑(つか)めず 変わらない日々に見えたかもしれないけど 変えてるんだよ たくさんの人の人生をね」

「きっと全部を叶えるアイドルは存在しない 全力でアイドルをやれるかが大事なんだと思う」

「君は全力だった」

全アイドルに向けた肯定のメッセージ

「リアルで続きが読みたい」「たとえ失敗しても、全力で何かに挑みたいと思った」。多くの読者が共感し、最初の投稿には21万以上の「いいね」がつき、リツイート数も6万回を超えています。作者のはなさくさん(@ha739)に、漫画を手がけた経緯について聞きました。

福岡市出身で、自らも「アイドリング!!!」や「流星群少女」などのグループを応援してきた、はなさくさん。「西のアイドル激戦区」とも呼ばれた地元で繰り広げられる、華やかな世界に潜むドラマを描きたい。そんな思いと共に、次のような考えを抱いてきたそうです。

「ツイッターで何千人ものフォロワーがいるアイドルが、『ファンが増えない』と嘆くツイートを、最近よく見かけていました。『上ばかり見ているから無力感を覚えてしまう。目の前には、君が救ってきた人間がいっぱいいるんだよ』と、いつも思っていたんです」

そこで、「頑張る全アイドルを賛美する」という目的で描いたのが「私、アイドル辞めます」でした。構想と作画にかけた時間は、合計で8日間。当初は1カ月ほどの制作期間を見込んでいたものの、落ち込んでいるアイドルのツイートを目にして、急きょ早めたといいます。

「存在が救い」という気持ち伝えたい

そして、高い熱量を持つがゆえに傷ついていく千優里の姿には、自分自身を重ねました。

「生涯のパートナーや、仕事での成功を得ている同年代がいます。それに比べ、私は何も成し遂げられず、漠然とした焦燥感に襲われている。似た考えを、ツイッター上で発信しているアイドルも目につきます。悩む人は多くいるのでは、と思ったんです」

実際、志半ばで目標を諦めるアイドルは少なくありません。劣等感やプレッシャーに耐えられなくなったり、アンチの暴言を気に病んだり。「それでも、あなたのしてきた活動は素晴らしい」というメッセージを込めたのが、ラストシーンにちりばめた言葉です。

「読んで下さった方によって、『ヲタク(アイドルファン)のセリフ』『プロデューサーのセリフ』『チューリちゃんのセリフ』と捉え方が異なっていました。私はヲタクが語っているつもりで書いたのですが、どの解釈でも違和感はありません」

元アイドルという読者を含め、作品が多くの人々の目に触れたことについて、はなさくさんはこう語りました。

「当初は『500リツイートくらいはいくかなぁ……』という程度にしか考えていなかったので、驚きました。アイドル本人やヲタクに限らず、本当にさまざまなジャンルの方々が共感して下さり、大変うれしいです」

「夢をかなえられず、『私は何もできなかった』と舞台を降りるアイドルを、これまで数え切れないほど見てきました。そうした人々に『夢など関係なく、僕たちヲタクは、君がただ存在しているだけで救われていますよ!』という気持ちが伝わればと思います」

出典:はなさくさんのツイッター(@ha739)

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