連載
セクハラ「そんなつもりは」の不幸 親になった元「2世信者」気づき
わが子を性的トラブルの当事者にしないため、伝えたいこと
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わが子を性的トラブルの当事者にしないため、伝えたいこと
「わが子に限って当事者にはならない」。親がそのように願うことの一つに、性的な加害行為が挙げられるかもしれません。宗教団体の元「2世信者」で漫画家のたもさんも、小学5年生になる息子に対し、そう思っています。でも万一、トラブルを起こしてしまったら、どう対応すべきなのでしょうか? たとえ悪意がなくても、誰かを傷つけることはあり得るーー。そう考えるための想像力を養う方法をテーマに、たもさんに作品を描き下ろしてもらいました。
スマートフォンで性犯罪に関するネット記事を読んでいた、たもさん。逮捕された被疑者の男の、「そんなつもりはなかった」という発言を見つけ、ため息をつきます。「性犯罪ってなくならないもんか」「悪いことをしたという気すらないとは、どういうことだ?」
こうした感想を抱いたのには、ニュースの内容以外にも理由があります。幼少期から25年間属したキリスト教系の宗教団体での体験です。組織のメンバーは、教義に適(かな)う生き方を、たもさんに強いてきました。
「女性は慎み深くあれ」「女は男を補うものとして創られた」。日々投げつけられる、男尊女卑的な思想に基づく言葉。差別に当たる内容でしたが、メンバーたちには自覚がありません。むしろ、それが正しく、たもさんのためになると捉えていたのです。
自分にとっては何でもない振る舞いも、他人からすれば大問題になることもあるのではないかーー。たもさんは、そのようにして「嫌がる人もいる」と考える想像力の欠如こそが、元「2世信者」が抱える問題と性犯罪の共通項かもしれない、と思い至ります。
別の日。たもさんは息子のちはるに、こんな質問を投げかけます。「そんな気が無くても、誰かにエッチとかセクハラとか言われたら、どうする?」。その答えは「あやまる」。意外な一言に、たもさんは驚きます。
理由をただすと、一年前に学校の水泳の授業で起こった、とある出来事について打ち明けました。
ゴーグルをつけ、水中に潜っていたちはる。日の光が水面に差し込み、輝く様子を眺めるためでした。ところが、クラスメートの女子から「水着姿をのぞいている」と非難されたのです。
あらぬ疑いをかけられショックを受けるちはる。しかしその後、女子に謝罪したといいます。「わざとじゃなくても、誰かに迷惑をかけることはある」「あやらまないのは変」。更に続けます。「あやまったら、どうしたら許してもらえるか聞いて、気をつける!!」
ちはるのスタンスに、心を動かされた、たもさん。親子そろって、自作の水中眼鏡で川の中を見つめるシーンとともに、こんな言葉で漫画を締めくくります。
「大人でも…もしかしたら、大人になると余計に難しいことかもしれないね」
「みんながちょっとずつ気をつけて、みんながちょっとずつ変わっていけば、世の中はちょっとずつ変わっていくんじゃないかな」
もしもわが子が、性的トラブルの加害者になったらーー。「重たいテーマに『この表現で合っているだろうか』と、何度も迷いつつ描き続けました」。たもさんは、今回の漫画を描く過程について、そう振り返ります。
家族が他人を傷つけるなんて、あり得ない。でも自分は、宗教団体での日々を通じて、組織の価値観を受け継いでいるかもしれない。その考え方がどこかで顔を出し、息子にも影響を与えるのでは……。様々な思いが頭の中をめぐり、なかなか筆が進まなかったそうです。
そこで、たもさんは息子に「悪気のない行為で誰かを傷つけたら、どうするか」と尋ねました。身の潔白を証明する、と言うかと思いきや、返ってきたのは「あやまる!」の一言。このとき「子どもの方が素直に謝罪し、失敗から学べるのかも」と感じたといいます。
「これからも『この場合はどうする』といった質問を、息子に投げかけていこうと思います。時折、トンチンカンな答えが返ってくるかもしれません。そんなときも頭ごなしに否定せず、なぜそう思うのか、しっかり話し合っていきたいです」
【執筆協力・NPO法人ピルコンからのアドバイス】
「わが子を性加害者にさせない」というテーマは、最近世間の関心が高まっているように思われます。何が人を不快にさせたり傷つけたりしうるのか、知っておくのが大切です。
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