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連載

#5 元2世信者が脱会後に困った「性の悩み」

セクハラ「そんなつもりは」の不幸 親になった元「2世信者」気づき

わが子を性的トラブルの当事者にしないため、伝えたいこと

もしもわが子が、性的トラブルの当事者になってしまったら……。難しいテーマを、「カルト宗教信じてました」「カルト宗教やめました」の作者・たもさんが描きます
もしもわが子が、性的トラブルの当事者になってしまったら……。難しいテーマを、「カルト宗教信じてました」「カルト宗教やめました」の作者・たもさんが描きます 出典: たもさん提供

目次

「わが子に限って当事者にはならない」。親がそのように願うことの一つに、性的な加害行為が挙げられるかもしれません。宗教団体の元「2世信者」で漫画家のたもさんも、小学5年生になる息子に対し、そう思っています。でも万一、トラブルを起こしてしまったら、どう対応すべきなのでしょうか? たとえ悪意がなくても、誰かを傷つけることはあり得るーー。そう考えるための想像力を養う方法をテーマに、たもさんに作品を描き下ろしてもらいました。

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※この記事には、性的トラブルにまつわる表現が含まれます。読む際は、体調に十分ご留意下さい。
#元2世信者が脱会後に困った「性の悩み」

「そんなつもりはなかった」という発言

スマートフォンで性犯罪に関するネット記事を読んでいた、たもさん。逮捕された被疑者の男の、「そんなつもりはなかった」という発言を見つけ、ため息をつきます。「性犯罪ってなくならないもんか」「悪いことをしたという気すらないとは、どういうことだ?」

こうした感想を抱いたのには、ニュースの内容以外にも理由があります。幼少期から25年間属したキリスト教系の宗教団体での体験です。組織のメンバーは、教義に適(かな)う生き方を、たもさんに強いてきました。

「女性は慎み深くあれ」「女は男を補うものとして創られた」。日々投げつけられる、男尊女卑的な思想に基づく言葉。差別に当たる内容でしたが、メンバーたちには自覚がありません。むしろ、それが正しく、たもさんのためになると捉えていたのです。

自分にとっては何でもない振る舞いも、他人からすれば大問題になることもあるのではないかーー。たもさんは、そのようにして「嫌がる人もいる」と考える想像力の欠如こそが、元「2世信者」が抱える問題と性犯罪の共通項かもしれない、と思い至ります。

「のぞいている!」女子の非難に息子は…

別の日。たもさんは息子のちはるに、こんな質問を投げかけます。「そんな気が無くても、誰かにエッチとかセクハラとか言われたら、どうする?」。その答えは「あやまる」。意外な一言に、たもさんは驚きます。

理由をただすと、一年前に学校の水泳の授業で起こった、とある出来事について打ち明けました。

ゴーグルをつけ、水中に潜っていたちはる。日の光が水面に差し込み、輝く様子を眺めるためでした。ところが、クラスメートの女子から「水着姿をのぞいている」と非難されたのです。

あらぬ疑いをかけられショックを受けるちはる。しかしその後、女子に謝罪したといいます。「わざとじゃなくても、誰かに迷惑をかけることはある」「あやらまないのは変」。更に続けます。「あやまったら、どうしたら許してもらえるか聞いて、気をつける!!」

ちはるのスタンスに、心を動かされた、たもさん。親子そろって、自作の水中眼鏡で川の中を見つめるシーンとともに、こんな言葉で漫画を締めくくります。

「大人でも…もしかしたら、大人になると余計に難しいことかもしれないね」

「みんながちょっとずつ気をつけて、みんながちょっとずつ変わっていけば、世の中はちょっとずつ変わっていくんじゃないかな」

性教育に関する描き下ろし漫画
性教育に関する描き下ろし漫画 出典: たもさん提供

「どうする」と語り合うことの大切さ

もしもわが子が、性的トラブルの加害者になったらーー。「重たいテーマに『この表現で合っているだろうか』と、何度も迷いつつ描き続けました」。たもさんは、今回の漫画を描く過程について、そう振り返ります。

家族が他人を傷つけるなんて、あり得ない。でも自分は、宗教団体での日々を通じて、組織の価値観を受け継いでいるかもしれない。その考え方がどこかで顔を出し、息子にも影響を与えるのでは……。様々な思いが頭の中をめぐり、なかなか筆が進まなかったそうです。

そこで、たもさんは息子に「悪気のない行為で誰かを傷つけたら、どうするか」と尋ねました。身の潔白を証明する、と言うかと思いきや、返ってきたのは「あやまる!」の一言。このとき「子どもの方が素直に謝罪し、失敗から学べるのかも」と感じたといいます。

「これからも『この場合はどうする』といった質問を、息子に投げかけていこうと思います。時折、トンチンカンな答えが返ってくるかもしれません。そんなときも頭ごなしに否定せず、なぜそう思うのか、しっかり話し合っていきたいです」

性教育に関する描き下ろし漫画
性教育に関する描き下ろし漫画 出典: たもさん提供

【執筆協力・NPO法人ピルコンからのアドバイス】

「わが子を性加害者にさせない」というテーマは、最近世間の関心が高まっているように思われます。何が人を不快にさせたり傷つけたりしうるのか、知っておくのが大切です。


そのためには、たとえば、次のようなことを意識しておくといいでしょう。

・人の体には許可なく触らない
・公共の場で、下ネタや性に関するプライベートな話題を大きな声で話したり、誰かに話すように強要したりしない
・「ブス」「デブ」「ホモ」「童貞」など、人の容姿や性のあり方をいじったりネタにしない
・「女性/男性はこうである」など性別によって人のあり方を決めつけない

また性的トラブルに関する訴えを受けたとき、自分の行動のどこが問題だったか、相手に丁寧に聞けるのが理想的ですね。

そして、一方的に教えるだけではなく、お子さん自身の意見や考えを引き出していってはいかがでしょうか。論点としては、以下のような項目が考えられます。

・悪気なくしたことについて、相手から不快な思いをしたと指摘されたら、どうするか
・嫌な思いをする人を減らしていくために何ができるか
・ハラスメントされている場面を第三者として見かけた時にどうするか

まずは、お子さんの声を否定せず受け止める。理解が足りないと思われる点があれば、なぜそう考えたのか尋ねつつ、親としての意見を伝え、それについてどう感じるかといった点について議論する。

そのようにして、互いに認識を深められると、性や性暴力についても話しやすい関係づくりにつながっていくと思います。
・たもさん:10歳の時に母親に連れられてキリスト教系の宗教団体に入信。進学や夢、友人関係など、多くのものを宗教による制限のために諦めてきたが、息子の病をきっかけに宗教への違和感を強め35歳の時に脱退。その後アメーバブログ「たもさんのカルトざんまい」やTwitter(@tamosan17)などで細々と活動中。著書に、『カルト宗教信じてました』『カルト宗教やめました』(ともに彩図社刊)がある。

・NPO法人ピルコン:正しい性の知識と判断力を育む支援により、これからの世代が自分らしく生き、豊かな人間関係を築ける社会の実現を目指す非営利団体(公式サイトはこちら)。
【連載・元2世信者が脱会後に困った「性の悩み」(#なや性)】
宗教団体の元「2世信者」で漫画家の「たもさん」は、幼い頃から性的な話題を禁じられてきました。最近、思春期に差し掛かった息子の言動と向き合っています。下ネタブーム、好きな人との交わり方…どう正しい情報を伝えればいいの? 親なら誰もが抱えるであろう悩みについて、一緒に考えてみませんか? 隔週水曜日配信。(連載記事一覧はこちら

※配信当初の記事中、特定の宗教団体に対する不適切な表現があったため、表現を一部修正しています。
 

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