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けものフレンズで東大などが論文 アニメが動物園に起こした「異変」
「アニメで世界は変えられる」と話題の「すっごーい!」研究です
女の子の姿となった動物たちが活躍し、今月で放映3周年を迎えたテレビアニメ「けものフレンズ」。一大ブームを巻き起こし、声優によるライブも継続的に開催されるなど、根強い人気を誇っています。昨年末、この作品に関する一本の論文が発表されました。「アニメと動物園は、ともに絶滅危惧種への社会的関心を高めている」とする内容です。斬新な手法で注目を集めた研究の発案者たちに、話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
「けもフレ」の愛称で親しまれる「けものフレンズプロジェクト」。アニメはメディアミックス企画の一環として、2017年1月~3月に第一作が放映されました。不思議な物質「サンドスター」によって生まれた「アニマルガール」が登場します。
元々動物だった彼女たちは、超巨大動物園「ジャパリパーク」で暮らしています。本編の主人公は、サーバルキャットの「サーバル」と、自分が何の動物なのか知りたい「かばんちゃん」です。二人は一緒に、冒険の旅へと出かけます。
「フレンズ」と呼ばれる他のアニマルガールとの交流や、謎の存在「セルリアン」との対決。様々な経験を通じ、成長し合う二人の姿は、「やさしい世界を象徴している」と共感を集めました。「すっごーい!」「たーのしー!」といった印象的なセリフや、背景に描かれる廃墟など、謎解き要素に反応した視聴者も少なくありません。
実在の動物の生態を採り入れたキャラクターデザインも見どころです。アイキャッチで、飼育員の解説音声が流れるといった演出も満載です。アニメで動物に興味を持った人々が、動物園を訪れる様子は、たびたびメディアに取り上げられました。
そして19年1月、続編アニメ「けものフレンズ2」がオンエアされたほか、同9月にはスマートフォンアプリ「けものフレンズ3」の配信も開始。キャラクターの声優によるライブや舞台など、連動イベントも数多く存在し、シーンを盛り上げています。
野生の生き物にフォーカスし、大きな成功を収めた、けもフレシリーズ。作中には、絶滅が心配される種も数多く登場します。こうした動物に対するアプローチに、アニメはどう作用したのでしょうか?
テーマは、けもフレのアニメ第一作と動物園が、動物の保全行動に及ぼした影響を、網羅的に調べるというもの。Googleでの関連情報(単語・画像・映像)の検索数と、Wikipediaの閲覧数を指標として、それぞれの効力を探ります。
論文によると、アニメの放映後、作中に登場した動物の検索数は、放映前より600万回以上増加しました。Wikipedia上にある紹介ページの閲覧数も、100万回超増えたと推定されています。
特筆すべきは、その内容です。作品起点で人気が出たサーバルキャットはもちろん、「フンボルトペンギン」「ロイヤルペンギン」「オオアルマジロ」など、一般に知名度があまり高くない絶滅危惧動物についても、検索数に一定の伸びが見られました。
更に、東京都内の上野動物園・多摩動物公園・井の頭自然文化園を対象に、過去5年分の寄付記録を分析。アニメで扱いがあった、絶滅危惧種を含む30種への寄付者数は、そうでない129種より増えていました。
論文は「こうした方針や各種取り組みが、絶滅危惧種に対する社会的関心と、寄付者数を押し上げた可能性がある」「アニメと動物園などの組織が連携すれば、これまでターゲットとしてこなかった人々にも、より効果的に保全に関わってもらうことができるかもしれない」(註:記者による訳文)と指摘しています。
実際、ファンたちの熱量が形になった事例もあります。
昨年11月、都内で開かれたコンサート「けものフレンズ3 LIVE」。この場で、KFPとしては初めて、環境保護NGOの「世界自然保護基金ジャパン」(WWFジャパン)とコラボレーションしました。
WWFジャパンによると、会場内のロビーに動物保全向けの募金箱を設置したところ、一日で20万円超が集まったそうです。担当者は「コラボについてネットニュースで取り上げられるなどして、話題を呼んだ影響もある」と分析しつつ、こう語ります。
「過去にも募金を行ってきましたが、これだけの額が寄せられたことは、めったにありません。ファンの皆さんの中には、動物への関心が高い方も多い。本当にありがたいですね」
論文が公開されると、SNS上に「こういう内容はうれしい」「アニメで世界は動かせる」といった喜びの声があふれました。
発案したのは、生態学が専門で、東京大大学院農学生命科学研究科の深野祐也助教(34)です。動物園について調査する中で、アイデアが浮かんだといいます。
「元々の研究テーマは、地域における動物園の役割でした。施設の分布と、人々の動物に対する関心との関係性について調べていたんです。その過程で、ハシビロコウという鳥に関するデータを集めているとき、2017年に検索量のピークがあると気付きました」
この動きに、けもフレの放映が関わっていると知った深野さん。大学時代の先輩で、多摩動物公園飼育係の田中陽介さん(38)ら2人に声を掛け、共同で研究を進めました。
実は深野さん、リアルタイムで作品を見ていません。実際に視聴し、公式ガイドブックにも目を通すと、自然描写の緻密(ちみつ)さに驚いたそうです。
「けもフレによって、来園客の層が変わったようだ」。そう話すのは田中さんです。田中さんによると、従来お客さんの中心はカップルや親子連れでした。しかしアニメの放映後は、若い男性の姿も目立つようになったといいます。
少子化や娯楽の多様化により、経営難にあえぐ動物園が少なくない昨今。施設での時間をレクリエーションとして楽しむ人が増えることは「歓迎すべき」としつつ、こうも語ります。
「動物園には、種の保存や環境教育、調査研究という役割があります。これらの活動を充実させなければ、施設を存続させることは、今後難しくなるでしょう。そのことに光を当てた点にこそ、今回の研究の意味があると思っています」
一方、論文では地域における動物園の重要性も示されました。
調査対象は、日本動物園水族館協会(JAZA)に所属する149の動物園・水族館。飼育・展示中のほ乳類と鳥類計92種に関する、ウェブ上の検索データを解析しました。すると、特定の動物がいる施設の立地県では、検索数が他の地域と比べ約2倍になっていたのです。
この結果について、深野さんは「動物保護のあり方を考えるきっかけになる」と話します。国内の絶滅危惧種を扱うアニメをヒットさせ、動物園に人を集め、地元民の関心も高めるーー。たとえば、そんな連携も視野に入ってくる、といいます。
「寄付の窓口を充実させるなど、関心を寄せてくれた人が、更に一歩踏み出せるような環境を整える。その上でも、アニメと動物園が組むことは有効ではないでしょうか」
「動物学者や飼育係と、コンテンツ制作会社などとのマッチングシステムを作る。あくまで一例ですが、そういった取り組みを通じ、互いに関係を築くことも可能でしょう。一面的ではない動物園の姿を示していく上で、今回の論文が何らかのヒントになれば、と思います」
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