ネットの話題
トコトコ公太郎・なんとかのカバン……共感呼ぶ図書館の覚え違い集
思わず「惜しい!」と言いたくなる
ネットの話題
思わず「惜しい!」と言いたくなる
「村上春樹の『とんでもなくクリスタル』」? 図書館のカウンターで相談されたのは、うろ覚えの本の作者やタイトル。お探しなのは、恐らく『限りなく透明に近いブルー』(村上龍著/講談社)か『なんとなく、クリスタル』(田中康夫著/河出書房新社)ではないでしょうか。そんな「覚え違い」と、探していた本の組み合わせを公開している福井県立図書館のサイトがTwitterで話題です。これまでも度々注目されてきたこの取り組みについて、担当者に聞きました。
他にも、『100万回生きたねこ』(佐野洋子作・絵/講談社)は「100万回死んだねこ」に、『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ著/集英社)が「おい桐島、お前部活やめるのか?」に、『とっとこハム太郎』(河井リツ子著/小学館)が「トコトコ公太郎」で覚えているなど、思わず「惜しい!」と言いたくなるものも。
中には、「タイトル忘れたが、立体的な花の切り紙が載っている本」など、Googleであればどう検索したらよいかわからないものもあります。探していたのは『花の立体切り紙 型紙付きでかんたんに作って飾れる』(大原まゆみ著/誠文堂新光社)でした。
Twitterでは、「笑ってしまいました」「自分も覚え違いよくある」「これだけの情報で目的の本を見つけられる図書館の司書さんはすごい」などのコメントが集まっています。
福井県立図書館が「覚え違いタイトル集」の公開したのは、2007年。図書館の検索システムで目当ての本が見つけられないときのヒントや、気軽に職員にたずねてもらうため、また図書館のレファレンスサービス(調べもの相談)の認知度を高めるために始められました。
当時から担当する職員が変わり、3代目の「覚え違いタイトル集」担当者は、吉川千鶴さんです。職員から寄せられた情報や、サイトで募っている「覚え違い」を整理してストックしています。時には本屋さんからの情報提供もあるそうで、「本屋さんもきっと同じような経験をされて、取り組みに共感していただいているのでは」と話します。
では図書館の司書や職員の方たちはどうやって本を探しているのでしょうか。
吉川さんによると、図書館で利用者から相談を受けると、まず利用者の心当たりのある作者名や言葉で検索していきます。検索システムでは細かな条件でも調べられるため、見つからなければ、言葉の一部分や出版された記事などでもしぼりこんでいきます。
ヒントになるのは、利用者の方が覚えているキーワードだけではありません。「児童書ゾーンで探している」「いま話題になっている」などの状況や情報をもとに、他の職員の知識や経験を借りながら見つけていきます。
吉川さんにとって印象深いというのが、「覚え違いタイトル集」にもある「『主婦の友』とかでよく見るんだけど、名前が読めない人の本」のケース。最近1年間に出た料理の本から見つけたのは、『ズボラ人間の料理術達人レシピ』などの著書がある奥薗壽子(おくぞのとしこ)さんでした。
子どもの頃読んだ本など、タイトルや作者がわからず覚えているあらすじもあいまいなときは、なかなか一筋縄ではいきません。しかし吉川さんは「見つかったときのお客様の笑顔、感謝の言葉をはげみにやっております」。
日本図書館協会によると、福井県の人口1人当たりの昨年度の個人貸出冊数は、若狭図書学習センターを含めて0.973冊。6年連続で全国1位でした。「覚え違い集」といった利用者目線のサービスが、県立図書館人気を支える一因になっているのは間違いなさそうです。
Twitterで「覚え違いタイトル集」が話題になったことについて、吉川さんは「とてもありがたい」と話しています。
「当館だけではなく全国の図書館が、お客様が本を探していたら全力でお手伝いしたいと思っています。なので少しでもわからないことがあれば、お気軽に職員にご相談ください」
吉川さんは別の業務も抱えているため、集まった情報を掲載する作業が追いついていないそう。「なかなかアップできなくてごめんなさい」と話しています。しかし今後もきっと増えていく「覚え違いタイトル集」、気になった方はぜひのぞいてみてはいかがでしょうか。図書館の職員さんたちの本の知識や、課題解決力を実感できると思います。
1/36枚