連載
#39 #となりの外国人
「ハーフは得」って何で思うの? 当事者のモヤモヤ、探ってみた
理想の女性、理想の母、理想の……。世間の理想を演じようとすると、しんどくなることありませんか
「なんだか自分だけ浮いている気がする」――。そんな時に、周囲に期待される理想像を演じたことはありませんか。うまく演じて嬉しくなる一方で、自分の気持ちや容姿を否定したり、偽っていることに悩んだり。理想的な娘や息子、理想的な妻や夫を演じて悩む友人がいる中、「ハーフ」の当事者として生まれた私が翻弄され続けたのは「理想的なハーフ」でした。
大学4年生の春、就職活動をしていた私はある出版社の面接を受けました。
会議室の一室。社員2人を前に和やかな雰囲気で、面接は進んでいました。
志望動機や学生生活で取り組んだことなど通り一辺の質問をいくつか聞かれた後、人当たりの良い、年配の男性が身を乗り出すようにして尋ねました。
「ハーフに生まれて得だったことってなんですか」
笑みを浮かべた男性の顔を見て、思考が停止しました。
私の父親は日本人、母親はフランス人です。鼻は高く、二重の目で「この人、日本人っぽくないな」と思われるような容姿をしています。
口からとっさに出た答えは「得よりも損の方が多かったです」。
一瞬、驚いた表情を浮かべた男性は再び笑顔になり、「なんで?みんなからハーフでうらやましいって言われるでしょう」と言いました。
彼が抱いているであろう「ハーフ像」が分かり、モヤモヤした私は繰り返すように「損の方が多いです」と答えました。
私は生まれも育ちも岡山県です。田園風景の美しい町で、高校卒業まで暮らしました。
物心ついた時からまわりの大人に「本当に日本人?」「何人?」「日本語話せるの」と聞かれたことは数知れず、道行く子どもから「ガイジンだ!」と言われたことも何度もあります。
フランス人の母親と一緒にいる時はより一層、周囲の目が気になりました。一緒に歩きたくないとすら思うこともありました。ずっとその地域で暮らしているにも関わらず、「異質なもの」のように扱われることにうんざりし、できることなら「目立たない顔になりたい」と思っていました。
思春期になると、顔の骨格により立体感が出てきた上に、太りやすくなりました。
「やばい!太るとめっちゃ外国人!」と焦っていました。
そんな時、テレビや雑誌などで活躍していた明るく、容姿端麗な「ハーフタレント」や「ハーフモデル」の女性たちは「適度に日本人っぽい、適度なハーフ」として、社会に認められ、受け入れられているように見えていました。
一方で鏡に映る「外国人寄りになっていく自分」を見るのは恐怖に近いものでした。
段々と食べ物を過剰に食べたり、食べなかったりと摂食障害のような状況が10年近く続きました。
私はハーフを理由にいじめられたことはありません。
面接官の男性が言うように「ハーフでいいね」と褒められることもありました。東京の大学に進学後は、表参道で声を掛けられてカットモデルをするなど、「ハーフ」に対しての需要を理解し、楽しんだのも事実です。飲み会の席でウケるためにハーフタレントの物まねをしたこともあります。
同時に、幼い時から自分にとってかけがえのない母親の存在や自分のルーツを否定し、社会に受け入れられる「ハーフ」を演じることで追い詰められ、心がすり減らされていました。
「ハーフで得」。就活の面接で突然投げかけられた、その言葉に当時の私は、強く反発してしまいました。
辞書で「ハーフ」を調べると「混血児」となっています。
国の人口動態調査によると、2017年に生まれた子ども94万6065人のうち、父母のどちらかが外国籍の子どもは1万8134人。これは52人に1人に当たります。
この統計には、親が日本国籍を取得したり、外国で生まれ日本に移住したりした子は統計に含まれないため、もっと多くの当事者がいると推測されます。
両親の一方が外国人の場合でも、過半数を占めるのは、中国、韓国・朝鮮人などアジアの国々からの人です。
ただ、一般的に「ハーフ」という言葉を使うとき、欧米系の「ハーフ」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
こうしたことからも、「ハーフ」といっても、実際には多様なルーツや背景をもつ人がいて、抱えている問題も多彩だということが分かると思います。
実態は多彩なのに、画一的な「ハーフ像」が、日本に広がったのはいつごろからなのでしょうか。
「ハーフ」について研究をしている大阪市立大学都市文化研究センター、研究員のケイン樹里安さん(30)は、70年代以降に広まったといいます。
「70年代ごろから、ハーフのモデルやタレントがテレビなどで活躍するようになりました。国際的なファッションブランドや化粧品ブランドが白人的な身体特徴を持つ人を広告に多く起用するなど、白人的な容姿を良しとする価値観は日本社会にとどまらず浸透してきました」
「そんな中で、アジア的な特徴も合わせ持ったハーフのモデルやタレントは親しみやすい美しさとして広がったのでしょう」
ケインさんはハーフに対して、例え肯定的であっても、一面的なイメージが広がることのマイナス面も指摘します。
「女性らしさや男性らしさに窮屈さや生きづらさを感じる人がいるように、
『タレントのような欧米系ハーフ』に重ね合わされ違和感を抱く『ハーフ』は少なくありません」
「一重の人が二重になりたいと思うのも、二重の方が社会的に認められた理想像に近いとプレッシャーを感じているからかもしれません。限られた理想像に自分らしさを規定されるのは、時に苦しいことでもあります」
社会で何となくイメージされているような「ハーフ像」に自分を重ねられない「ハーフ」はたくさんいます。
イラン人の父親を持つ同世代の女性は、思春期に「痩せて、理想のハーフになり、認められたい」と何年も摂食障害を患ったといいます。彼女は「知らず知らずに美しい=『ハーフタレントに近い外見』として自分を否定してきた」といいます。
ポーランド人の母親を持つ女性は「ハーフらしくない」奥二重に悩み、うつ病になりました。
中国や韓国などハーフであっても、見た目の差が分かりづらいアジアにルーツがある場合は「自分たちの存在はないがしろにされているよう」と感じたりする人もいます。
國米
阿部医師
阿部医師
國米
阿部医師
阿部医師
國米
阿部医師
國米
阿部医師
阿部医師
阿部さんの話を聞き、私自身も中高生の時、マイノリティの問題を扱う新聞記事を熱心に読んでいたことを思い出しました。
当時の私は、自分が感じている生きづらさとの向き合い方は分からないけど、他の人が抱える問題は冷静に考えることができました。
今は仕事を通じて、障害がある人や在日外国人、LGBTの当事者などこの社会でマイノリティとされる人たちに聞く機会があります。
彼らとの出会いを通じて、社会には多様な在り方があって、多様な在り方を受け入れてくれる世界もあると改めて実感することができました。
一つの理想を追い求めるのもすてきなことです。
でも、様々な背景を持つ人が生きる日本で、理想的な姿が一つだけな訳がないし、理想的な姿になる必要もおそらくないと思います。自分に対しても、周囲に対しても、そのままの姿を受け入れてあげると少し楽になれるかもしれません。
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