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視覚障害者って、ウェブをどう使うの? 知ってほしい大事な機能
障害のある人のウェブサイト利用をしやすくする「ウェブアクセシビリティ」。指標はあるものの、民間企業のウェブサイトではその指標を守ることは義務ではありません。多くの人がネットから情報を得る時代において、障害者にとっても使いやすいサイトをつくることは、見落とされがちです。ウェブアクセシビリティ向上のために、当事者である障害者の力を生かし始めている企業が目指す、本当に「かっこいい」サイトへの取り組みを聞きました。
「視覚障害のある方って、ウェブサイトをどう利用しているか知ってますか?」
取材に訪れたメジャメンツ(東京都)の社長・上濱直樹さんの問いに私は戸惑ってしまいました。
メジャメンツは、企業などのウェブサイトの品質管理を手がけています。上濱さんの質問、そもそも、私はウェブアクセシビリティという言葉自体もこの時、初めて知りました。
ウェブアクセシビリティについて、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(ウェブアクセシビリティに関するJIS規格の理解・普及を促進するため関連企業、関連省庁、利用者らでつくられる団体)のホームページではこのように説明されています。
「視覚障害者のウェブサイトの閲覧方法は?」の答えは、「読み上げ機能を使う」です。
読み上げ機能は、スマホではiPhoneにもAndroidにも標準搭載されています。読み上げ機能については聞き覚えがありましたが、自分で使ったことはありませんでした。
そこで、同社社員の木村仁さんに操作を教えてもらい、実際に私が使っているiphoneでも試してみました。
「設定画面の『アクセシビリティ』の項目に『Voice Over』が入っています」。木村さんの指示通り、設定画面を開いてみると…ありました。
この機能を選択すると、テキスト情報などが自動で読み上げられます。
ただし、上濱さんによると、その機能がウェブサイト上で正常に作動するためには、HTMLが整理して書かれている必要があるといいます。正常に読み上げられるソースコードになっているかのチェックも、ウェブアクセシビリティ診断には欠かせません。
さらに、正しく読み上げられればいいというわけではありません。
上濱さんは「例えば、写真が挟み込まれたサイトだった場合、その写真を『写真』と読み上げられてもなんのことかわかりません。なんの写真かを説明する記述が必要ですが、その視点が見落とされることがあります」と話します。
他にも、ウェブアクセシビリティの向上につながる例として
・動画に字幕がついていること(聴覚障害者向け)
・見やすいフォントを提案すること(発達障害者向け)
・写真の上に文字を載せる場合は文字に目立つ色で縁取りをすること(色弱の人向け)
などが挙げられます。
様々な視点を当事者目線で細部まで指摘できるのが、まさに障害のある人です。
元々はウェブアクセシビリティ診断は上濱さん自身がしていました。
しかし、診断の過程で当事者へのヒアリングをしていたとき、「障害者目線を入れることが必要なのであれば、それを障害者の仕事にすることができる」と考え、今年初めからサニーバンクという事業を始めました。
サニーバンクは、障害者を対象としたクラウドソーシングです。あらかじめ障害のある人に登録してもらい、その全員に対して仕事を投げかけます。体調などに応じて都合のつく登録者がその仕事を受注するという仕組みです。ウェブアクセシビリティ診断の仕事も投げかけられる仕事の一つです。
「登録者は体調が悪いときもあるので、できるタイミングで仕事ができるような仕組みにしている。もしかしたら8人でできるかもしれない仕事を、余裕を持って10人でするというのが理想です」(上濱さん)
現在サニーバンクには500人ほどが登録しています。
とはいえ、すぐにウェブアクセシビリティ診断ができるようになるわけではありません。
メジャメンツではこれまでに、都内で4回、講習会を開いています。ウェブアクセシビリティに関心のある障害者に、その基礎を伝えるためです。
たとえば、読み上げ機能を利用する人にとっては、ページのテーマと内容のミスマッチがあると混乱するため、その齟齬がないかをチェックすることや、分かりにくいページがあったときにわかりやすい他のサイトを例示しながら改善点を相手に伝える方法などを講師が伝えます。
講習1回あたり10人ほどが参加し、これまでに視覚障害や発達障害の人が参加しています。
メジャメンツではこの講習会を地方でも無料で開催したいと考え、19日までクラウドファンディングで資金を募っています。
「在宅でできる仕事なので、障害が理由で自宅から出られない人でもできるし、住んでいる場所は関係ない」と上濱さん。
自身も地方出身だという木村さんは「地元だと障害者の働き口が限られてしまい、能力があっても生かせないことが多々ある」と話します。
メジャメンツで請け負っているウェブアクセシビリティ診断ですが、取引先がまだまだ少ないのが現状です。現在の取引先は一桁。上濱さんは「もっとウェブアクセシビリティの考えが広まってほしい」と話します。
日本のJIS規格と同等の国際基準にWCAG 2.0がありますが、その達成が法的義務とされている国もあります。「かっこよさを追求してマナーを守れていないサイトが目立つ。日本では、ウェブアクセシビリティの考えが遅れている」と、国内の危機感を持つ上濱さん。
今後、ウェブアクセシビリティの向上を多くの企業が意識することを期待しています。
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