連載
#35 #父親のモヤモヤ
父親のモヤモヤにワーママ「しっくりこない」1万字メール込めた思い
子育てにまつわる葛藤を描く「#父親のモヤモヤ」が始まって半年近くが経ちました。仕事と家庭との両立に悩み、子育ての主体と見られず疎外感を覚える。そんな父親たちから反響が寄せられています。一方、家事や育児の偏り、会社での「マミートラック」など、女性が経験してきた困難を訴える母親からのメールも少なくありません。父親と母親、互いに苦しさがあり、両者に断絶を見ることさえあります。そんな中、父親の立場にも理解を示しつつ、「もっと憤ってもらいたい」と訴える母親からのメールが届きました。前に進むため、いま、父親に必要なこととは?(朝日新聞記者・高橋健次郎)
【平成のモヤモヤを書籍化!】
結婚、仕事、単身、子育て、食などをテーマに、「昭和」の慣習・制度と新たな価値観の狭間を生きる、平成時代の家族の姿を追ったシリーズ「平成家族」が書籍になりました。橋田寿賀子さんの特別インタビューも収録。
「2歳と15歳を育てながら、15年間両立のモヤモヤをいろんな形で体験してきたワーママとしては、最近よく見かけるようになった、父親のモヤモヤ、みたいな記事を読むたびに、シックリ来ない、というか、こっちがモヤモヤします」
そんなメールを寄せてくれたのは、国家公務員の40代女性です。かつて霞が関で働き、今は外部の機関で働いています。夫と15歳の息子、2歳の娘と4人暮らしです。
女性は、多くの母親は、手探りで育児をしているのだと指摘します。「泣きやまない赤ん坊を抱えて自分も泣きそうになりながら、あれこれ調べたり、自分の頭で考えたり、頼れる人を見つけてみたり」。失敗や試行錯誤を経て、「子育ての技」を習得するのだとします。
その上で、父親たちが子育てにつまずき嘆くことについて、「やると決めてやればいいだけなんです」と叱咤激励します。
女性と夫は、家事や育児を分担しています。夫は、保育園の送迎や寝かしつけまで、家事や育児全般を1人で担当できるそう。「出産と母乳をあげること以外、父親が出来ないことはない」が持論です。
子育てのため定時退社する一方、同期や後輩から「遅れていく」ことに強い恐怖を抱く。育休を経て職場復帰をしたら上司から「謝罪する気持ちはないの?」と迫られた――。「#父親のモヤモヤ」企画では、これまでこうした父親の葛藤を描いてきました。
企画記事では毎回、趣旨を説明する短文も添えています。そこでは、こうした葛藤について「女性の困難の追体験かもしれない」としています。女性は、「『かもしれない』ではなく、追体験なんです」と指摘します。
「マミートラック的なことに陥っている母親がマジョリティーであり、時に悪気なく、子どもを産んだというだけで突然能力のない人間的な扱いを大なり小なり受け、なんだこれは? でも、子ども小さいし……というどう言葉にして良いかわからないモヤモヤをずっと抱えて、モチベーションや成長機会を奪われていく環境にいるのが普通です」
メールをくれた女性の周囲でも、補助的な仕事を任されるなどして、「モチベーションが静かに冷却されていく」ケースがあると言います。ほかにも、長時間労働ができないだけでチャレンジする機会を得られないこともあり、「社会の人材がスポイルされている」と嘆きます。
その上で、父親、母親の双方が抱くモヤモヤの下地には、同じ社会の風潮があると指摘します。長時間労働を前提としているがゆえに、それぞれの能力が生かされない。「男は仕事、女は家庭」のような性別役割の意識が根強い、というようなものです。
父親たちには「想像力を働かせてもらいたい」とします。社会を変えるために、どう行動するかを考えてほしい、と言うのです。
たたみかけるように訴えます。
「育休取得や定時帰りなど、職場における自分の環境を変えて、家事育児にコミットしようと思った時、今の日本社会では、男性のほうが非常にハードルが高く風当たりも強く気の毒だな、と思います。でも、そこで逃げられては、誰もが生きやすい社会は、やってこないんです」
「日本の長時間労働が男性の家事育児参加を妨げている、のはわかります。ただ、男性優位の社会で、長時間労働を習慣化する言動を牽引しているのも男性です」
「父親世代の年齢であれば、中間管理職やリーダー職になり、部下もいれば、ある程度上司に意見する立場にもいるはずです。日々の仕事の進め方やコミュニケーションで、やり方を変えれば、長時間労働の原因を変えていける要素は、いくらでもあります。が、分析して実践してる父親はどれくらいいるのでしょう? 変化させることにともなう衝突や調整が面倒だから、空気を読んで、慣習に従って流されていないでしょうか?」
問いかけに続き、「自分で経験したモヤモヤに、もっと憤ってもらいたいです」と訴えています。
「男性優位の社会で、力を持つ側に属する人間の言動の影響がどれほど大きいか、自覚してもらいたいんです。この子育てに厳しい社会の『空気』を変える力があるのは、自分なんだと」
記者(39)は、娘(3)を子育て中の父親でもあります。このメールを受け取った時、これは、私を含む父親に対する大切な「批判」だと思いました。女性が負ってきた困難、マミートラックや長時間労働といった社会の課題、「慣習」に従ってしまう父親たちの描写と、的確に評価していると感じました。
「男性優位の社会」は、個別ケースでみれば、事情が異なることもままあるとは思いますが、政治家や経営者など、いわゆる決定権がある立場に男性が多いのも事実です。
そして、欠点を責め立てるだけの「非難」ではありませんでした。断絶を生むのではなく、前に進もうと励ましているのだと捉えました。
何度かメールのやりとりをしましたが、主立った2通だけで1万字程度ありました。400字詰め原稿用紙にして25枚の分量です。この熱量に、女性自身の葛藤の歴史を思いました。
メールを寄せてくれた女性は、報道にもこう訴えています。
「日常の些細なことでも、自分の半径5メートルの環境でもよいから、何か変化を起こす行動をしてみよう、そう思わせる記事を配信していただければ嬉しいです」
この言葉は、企画を考える際に考えていることでもあります。今後、そう思ってもらえる記事を配信していきたいと思います。現状を理解し、まずは一歩を踏み出すため、このメールをご紹介しました。
記事の感想や体験談を募ります。また、父親にとってのセックスレスをテーマに取材を進めています。そこで「セックスレス」について、モヤモヤを募ります。レスになったきっかけは? どうすればレスを解消できる? そもそも夫婦との間でセックスは必要? みなさんの体験、考えを教えて下さい。
連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.comメールする)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
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